第15話 隣に立つ男
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魔法学校周辺で異変が起きていたころ、エルターニアの町はずれにある小高い丘の上には、三つの人影が佇んでいた。彼ら以外に人気はなく、聞こえてくるのは風と鳥の鳴き声くらいである。
「シルヴィス、学校のほうはどうなっている?」
影の一人であるマリが、右隣に立つ男——シルヴィス・ウェルデラータ・セレル・リウに尋ねた。
彼は北側をじっと見つめていた。
その辺りは、数時間前にマリが〈炎〉の魔法を使って燃やした魔法学校があるところで、夜が白んで来ている中、そこだけが赤く光っている。
シルヴィスは質問された数秒後、目の周辺にあった水の膜のようなものを消したのち、軽い口調で答えた。
「〈遠見〉で見た限り順調だよ。町と魔法学校の間に、仕切りができているように炎が上がっている」
〈遠見〉とは、魔法の水の膜が目の辺りを囲むと、見たい場所の状況をその水の膜に映してくれるという、便利な魔法である。
「そう」
「さすが、『ウーファイア』さまの魔法。お強いですね」
褒めたつもりだったが、マリには不快だったらしく、じろりと睨まれる。
「本心を言っただけなのに、睨むことはないだろう。消火隊が『消せない』って、余程だよ。しかもあっちは十数人はいるわけだろう? それなのにこっちはあんた一人。全然火が消える気配がないんだから、感心したくもなる」
真意を伝えても、どうやら腑に落ちない何かがあるらしい。彼女の顔には渋面が浮かんでいる。
「何がお気に召さないのですか、我が主」
すると彼女は、ため息交じりに本音を口にした。
「火が消えないのは、〈器〉を何体か現場に置きっぱなしにして〈炎〉の魔法が切れないようにしているからだ。感心するところじゃない」
〈器〉とは、魔法を使う者の「使い」のようなものである。
人のような形をしているので〈鏡写し〉に似ているが、精度は〈器〉のほうがずっと低い。〈器〉にできることは、それを生み出した主人に頼まれた単純な作業を、与えられた魔力分だけ働くしかできない。
そのかわり、〈器〉を使う際の魔力の消費量も技術も、〈鏡写し〉を行うよりもずっと少なく簡単であるのが特徴である。よって、魔法使いたちはよくお使いをさせたり、繰り返し行うような作業をする場合にこの魔法を使う。
しかし〈鏡写し〉よりも魔力消費量が少ないとはいえ、「〈炎〉の魔法を使い、数体の〈器〉にも魔力を与えている」など、普通の魔法使いにはできない芸当である。
それでも彼女にとっては自分の能力よりも、魔法学校が予想以上の堅固な守りを敷いていたことのほうが重要であり、腹立たしいことのようだった。
「そんなことより、校舎そのものを燃やしたかったのに、さすがは魔法学校。強力な〈防火壁〉が張られているようでびくともしないとは……つくづく嫌になる」
「仕方ないだろう。スーベル島の精鋭人が集まっているところと戦っているんだぞ。火の勢いが衰えないだけでもすごいと思いなよ。……だけど、魔力は大丈夫なのか? こんなに使って、魔力切れにならないか?」
これだけ大規模な魔法を一人で使っていたら、魔力切れになってもおかしくない状況である。
だが、シルヴィスの心配をよそにマリは素っ気なく答えた。
「問題ない」
あまりに簡単に言うので、シルヴィスはむっとする。
「問題ないって……、何を根拠に言っているんだ。それとも、マリは『底なし』だったのか?」
「底なし」というのは、「魔力の限界がない」ことを指す言葉だ。
高度な魔法をいくら使っても魔力切れが起こらないため、魔法学校の教員たちですら羨む存在である。そしてその子たちは生まれながらにして、魔法学校の教員として有望な者として、特別扱いされるのだ。
「特別扱い」されている子は目立つ。先生たちが贔屓するからだ。
だが、それに文句を言う者はいない。
将来のスーベル島を支える人材であるため、回りまわって、自分を助けてくれる人が育つことから、当然のように受け入れられているのである。
ただし、滅多に出てくる人材ではないので、「底なし」がいないほうがほとんどだ。シルヴィスが認識している限りでは、ここ十数年の間に「底なし」が学校にいたことはない。
当然、マリは「底なし」の対象者ではなかったはずだ。
(それとも、俺が在学中に気づかなかったのか?)
「特別扱い」されている子は、魔法学校に通っているとその噂が聞こえてくるものだが、一貫校とはいえ、シルヴィスはマリよりも六歳年上なので気づかなかったのかもしれないと思った。
その上、当時は「できる子」よりも、「魔力がほとんどない」という「できない子」の噂が絶えなかったため、掻き消えてしまったというのもあるのかもしれない。




