第13話 リクからの手紙
セフィの言葉に、アッシュは弟からの手紙をぎゅうっと握った。ざらっとした質感の紙が、くしゃっと音を立てる。
「でも、まだ戦争とは……」
決まったわけではない。
リクの手紙にもそんなことは書かれていなかったはずだと思い、アッシュはもう一度弟からの手紙を読み返した。
『兄さん、急ぎの用事のため、そのまま〈手紙〉を送ることを許してほしい。
今、魔法学校の周辺が大変なことになっているみたい。
魔法学校がある町「エルターニア」から、僕らが住んでいる町「ハリオン」に逃げて来た人たちがいるんだ。彼らから聞いた話によれば「数時間前に魔法学校の周辺で炎が暴れ出した」っていうんだ。
「大変になっているみたい」っていうのは、僕も直接見たわけじゃないし、魔法学校から連絡があったわけじゃないからなんだけど、エルターニアから逃げてくる人がだんだん増えてきているところを見ると、多分本当なんだろうって思う。
でね、その「暴れている炎」っていうのが問題でさ、最初はただ火の不始末だと思っていたらしいのだけれど、消火隊が〈消し水〉の魔法を使っても一向に消えないらしいんだ。
何でも、強い〈炎〉の魔法によって生み出されているようで、消火隊の魔法が太刀打ちできない状態にあるみたい。そして、どんどん町を焼いているんだって。
誰がやっているのかは知らないし、どうしてこうなったのかもまだ分からない。きっと魔法学校が調査してくれているだろうから、大丈夫だと思うんだけど……。
それと本来こういう不測の事態が起こったときは、魔法学校に避難することになっていることは兄さんも知っているよね? だけど、さっき書いたように魔法学校の周辺に強い魔法が施してあって、誰も近づけないんだって。それで皆、「エルターニア」から離れている町に逃げているみたい。
学校のほうは、騎士団を出動させて対応するみたいなことを周囲の人々から聞いたけど、魔法学校からの〈通知〉は来ていない。もしかすると、先生たちはそれどころじゃないってことなのかもしれない……。
ここは魔法学校から遠いから、まだ被害もないし、火も見えない、焼けるにおいもしないけれど、父さんは火が家に近づいて来たら、家も店も捨てて逃げるって言っている。
消火隊が消せない〈炎〉の魔法なら、〈防火壁〉を作ったところで守り切れないって判断したみたい。だからそのときは、皆で兄さんの家のほうへ行くつもりです。行くときは、また〈手紙〉を出すから、こっちのことを心配して町のほうへ出て行こうとしないでね。くれぐれも頼んだよ。——リクより』
「……」
やはり、「魔法学校の周辺が火事になっている」ことは書かれているが、セフィが言うような「戦争」のことは書かれていない。
「この手紙には、『魔法学校の周囲が火事になっている』とは書いてあるけれど、戦争になっているとは書いていないよ……?」
「いいえ、戦争っすよ。詳しいことはさすがにご主人さまに怒られるんで言えないっすけど、魔法学校と戦うために大陸からスーベル島に戻ってきたんですから。魔法学校の周りが燃え始めているのは、最初の作戦が実行されたからっす」
「セフィは……、こうなることを知っていたの?」
尋ねると、彼はアッシュから視線を逸らして答えた。
「まあ、そうっすね。今回の件で必要なことは、下っ端の俺もご主人さまから教えてもらっています」
「マリが『この世から魔法を無くすために』こうすることを……?」
「そうです」
「……」
アッシュは次の言葉が出なかった。
マリの話を聞いただけでは、何故魔法学校に不信感をもっているのかが理解できなかったが、セフィの話を聞いてからは、彼女がやろうとしていることは本気なのだという感じが強くなっている。
(だけど……、セフィの話に矛盾はなくても、本当かどうかはまだ分からない……)
魔法で料理をしないというのも、元々魔法で料理を作らないことを趣味としている人なのかもしれないし、「階段」の件も自分の家に階段があることを言えば、「大陸出身」のように振舞うことができる。
マリが、セフィを魔法使いにしたというのも、どういうやり方があるのかを知らない。
(自分で確かめなくちゃ……)
このときアッシュは、腹を決めた。




