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魔法使いが生まれる島  作者: 彩霞
第一章

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第10話 出された料理

「すみません。お腹が空いたみたいで……」


「寝る前に『お腹が空いた』とおっしゃっていましたよね。それと、『喉《のど》も渇いている』とも。食べられそうなら何か召しあがったほうがいいですよ。簡単な料理なら用意できますし」


 恥ずかしさ半分、申し訳なさ半分でアッシュが言ったのに対し、セフィは気にしたふうもなく、寧ろ当然といった様子でさらりと言った。


「料理ですか? お気遣いは嬉しいのですが、それは手間でしょう。夜中ですし、セフィさんも横になって眠りませんと……」


 おでこに置かれていた濡れた布から察するに、ずっと看病をしてくれていたのだろう。


 その上、彼は数時間前に会ったばかりの人である。


 身体が上手く動かない中アッシュ自身頼れる人がいなかったため、傍にいたセフィにいくつかのことを頼んでしまったが、頼んでばかりはいられない。


 譬《たと》え、「マリ」がアッシュを心配して寄こした人物だったとしても。


 しかし、セフィは明るい声で言う。


「睡眠のことなら気にしないでください。アッシュさんを看病している合間に、ちょこちょこ寝ていたんで大丈夫です。それと、料理はキッチンのほうを勝手に使わせてもらってすでに作ってあるんです。アッシュさんが起きたときのためにと思って用意しておきました。あ、材料はこっちで持ち込んだものですから、アッシュさんのところにあるものは使っていませんよ。……塩は使わせてもらいましたけど」


 すでに料理を作られてしまっていたら、断るほうが心ない者であろう。先手を打たれたような気もするが、律儀に報告するセフィの態度に裏があるようには思えず、思わず笑ってしまった。


「塩くらい構いませんよ。ありがとうございます」


 アッシュの笑みにつられてか、セフィが言う。


「それと、私のことは『セフィ』でいいですよ。『さん』なんて付けて呼んでもらうような身分じゃないですし。アッシュさんより年下ですし。丁寧な言葉で話してもらう必要はありません」


「もしかして、僕の年齢を知っているの?」


「はい。ご主人さまと同じ二十六歳ですよね? 俺……じゃなくって、私は十八歳です」


 マリというより、大人の女性が人に年齢を打ち明けるのはあまり聞かないので、アッシュは意外に思った。

 それはそうと、十八歳のセフィには「ご主人さま」に頼まれたように、「傍仕え」として振舞うのは肩が凝りそうな感じがある。


「ふふ、じゃあ、そうするよ。ついでにセフィも、もう少し自分に話しやすい話し方をしたらどうかな。硬い話し方に慣れていない感じがするし、何だか君に合っていない気がする。僕は気にしないから、もう少し砕けた話し方をしてもらって構わないよ」


 するとセフィは、にぱっと部屋が明るくなるような笑みを浮かべて、すぐに言葉を崩《くず》した。


「そうっすか? では、俺もお言葉に甘えて――あ、ご主人さまに告げ口しないですよね?」


 笑顔の次に、はっとした表情を浮かべる彼に、アッシュは困ったように笑った。


「しないよ」


「はぁ、良かった。あ、とにかく話は下でしましょう。料理をお出しします。もう起き上がれますよね?」


「うん」


 アッシュはうなずくと、セフィの明かりを頼りに部屋を出て、階段を下りる。するとその時点で良い香りがしてきた。何かを煮込んだような野菜のいい香りがする。


 のろのろと歩いて、リビングの中央に鎮座しているテーブルまで来ると、椅子を引いて席に座った。体の調子は良くなったが、ゆっくりとしたくて、背もたれに体重を預ける。


「……」


 ぼーっとテーブルの木目を眺めていると、ここで昨日針仕事をしていたのが遠い日のことのように思えた。


「お待ちどおさまです」


 コトッ、と目の前に料理が置かれる。

 白い陶器の大きめの器の中に、緑、黄色、赤といった色とりどりの野菜が入ったスープが湯気を立てて入っていた。もう一つ置かれたお皿には、麦パン(麦を主として、様々な穀物が練り込んである茶色い色をしたパンのこと。食感は固め)が二枚載せてある。


「野菜スープだね」


「はい。中途半端な時間だったので、お腹に優しいものを作りました。麦のパンはスープに浸して食べてください」


「ありがとう。いただきます」


 セフィが用意してくれた木の匙《さじ》を手に取り、アッシュはスープを口に入れた。程よい塩加減で、野菜の味が染み出ている。


「どうですか?」


「うん、おいしいよ」


 素直に感想を述べると、セフィは安堵と嬉しさが入り混じった顔を浮かべた。


「良かったぁ! 他人様《ひとさま》のうちのキッチンで料理するのは久しぶりだし、初めて食べてもらう人に作るから緊張したんですよ。魔法も使っていませんしね。ご主人さまは、『魔法で料理をしたほうが確実だ』って言うんすけど、どーも慣れなくて。それで、アッシュさんのキッチンにある道具なんかも使わせてもらいました」


 セフィの言葉に、アッシュは口元まで持って来ていた匙《さじ》の手を止め、目を瞬《しばたた》かせた。


「え?……ということは、この野菜スープは魔法で作っていないの?」

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