十二話:情報料
「もう、奈緒ったら……早く機嫌直してよ」
「ふーんだ!優子なんか知らないもん!プンプンだよプンプン!」
優子は美波との一戦後、学校へと急いだのだが、結局間に合わずに遅刻となってしまったのであった。そしてそのことが、奈緒の機嫌を悪くさせたのである。
奈緒の機嫌はなかなか直らず、昼休みになっても悪いままであったのだ。
「いつもはそっちが遅刻するな言うくせに、自分は平気で遅刻してホンマにもー!お母さんあれほど言ったでしょ!」
「ああ、まだお母さんごっこ続いてたのね……というか、それだとオカンというか、なんというか」
「それも、他の女にうつつを抜かして遅刻なのが許せないわよ!私以外の女の子に目を向けるだなんて……許せないわ……」
「今度はメンヘラごっこ?」
「とにかく!もう危ないことしちゃだめだからね!」
「はい……ごめんなさい……」
流石に今回は自分も悪かったと、優子は素直に謝った。そんな優子の姿を見て、そっぽを向いていた奈緒は、ようやく優子の方へと向き直った。
「ちゃんと謝れてヨシ!えらい!でももうすんなよ!」
「奈緒、情緒不安定すぎるわよ……」
「私はそういうお年頃なのよ。そうそう、遅刻といえば今朝、城戸さんも遅刻してたよ」
「城戸さんも?珍しいわね」
優子は、教室前方の席にいる真理亜の方を見た。真理亜は静かに一人で弁当を食べている。
「優子よりは少し早く着いてたけどね。彼女、真面目で大人しそうだし、遅刻するのもこれまでなかったよね」
「そうね、私も城戸さんが遅刻しているところ、見たことないわ」
優子と真理亜はクラスメイトではあるが、それ以上の付き合いはない。そして、優子は真理亜から鈴を奪ったことで、なおさら真理亜への興味を失っていた。
(そういえば、一度鈴を奪われたら、また巫女になることってできるのかしら?今度神社に行ったときに聞いてみようかしら)
「城戸さん、いつも一人だよね。ご飯誘ってみる?」
「……いいえ、やめておきましょう。一人が好きなのかもしれないし、誘って気分を害してしまうのも悪いわ」
「ふーん、そっかぁ」
優子は真理亜から鈴を奪ったこともあり、なんとなく彼女に後ろめたい感情もあった。
「それじゃ、二人でお弁当食べちゃおっか。今日のオカズはなんだろなーってピーマン入ってる!?なんでやマミー!」
「奈緒……お昼くらいは静かに食べてね……」
感情の起伏が激しい奈緒に、呆れたようにため息をつきつつも、笑顔を浮かべる優子であった。
※※※
「おや、恵果じゃないか。もう二度とこないかと思っていたよ」
「……少し軒下を借りるわよ、銀様」
茜色に染まる神社、恵果は軒下に腰を下ろした。その横に、シロガネも腰を下ろす。
「帰ってから、少し頭を冷やしたわ。あれは、銀様が悪い訳では無い。悪いのは、あのような邪悪な願いを鈴に込めた佐藤優子だと」
「そうかな?僕はそうは思えないけどなぁ」
シロガネは天を仰ぐ。日は沈みかけ、飛びゆくカラスの影が見える。
「そう思えない、というと?」
「願いというものに、良いも悪いもない、ということだよ。それに、願いに他人を巻き込んでいるものなんて、優子だけじゃない。どんな願いだって、多かれ少なかれ他人を巻き込んでいる」
「でも」
「君だって、ミキを巻き込んでいる願いだったと言えるじゃないか。それは悪い願いかい?」
シロガネが恵果の方へと向き直る。恵果はシロガネの顔を見ることができず、俯いてしまった。
「……それでも、私は佐藤優子の願いが許せない。この日常を壊すような、彼女のような願いは」
「ならば、鈴を奪えばいい。願いを叶えられないようにすればいい。それができるのが、戦神楽だ」
そう言うと、シロガネは立ち上がり、神社の裏手へと向けて歩き出した。
「願いを叶えられないようにする、か……」
「恵果はんこんばんわー!元気にしてまっかー?」
俯きながら考え込む恵果に、鳥居の方から声をかける者が現れた。美波である。
「美波……今日は早いのね」
「恵果はんに会うために、超特急で学校から逃げてきたでな。恵果はん、あれ以来連絡一個もよこさんから、心配しとったで」
美波は恵果の近くまで駆け寄ると、俯いた顔を覗き込んだ。その顔は、いつもの胡散臭い笑顔である。
美波はそのまま、恵果の横に腰を下ろした。
「……今日呼んだのは、知りたい情報があるからなの」
「なんや、ならメッセージで送ってくれても良かったんに。それなら、事前に用意もできるってもんや」
「うまく、文章にできなくて……それに、誰かと直接話したかったってのもあるわ」
恵果はようやく、美波の方へ顔を向ける。
「佐藤優子の、能力を教えて」
「優子はんの能力?なんのために?」
「あの人から鈴を奪うため。多分、知っているでしょ?彼女の能力」
美波は腕を組み、悩むような仕草を見せる。そのまま数秒考え、口を開いた。
「……優子はんはあんたの恩人みたいなもんやと思うてたんやけど、ちゃうんか?」
「最初はそうだった。でも、あいつの願いのことを聞いて、そうではなくなったの」
「優子はんの願いって、煉獄がなんちゃらってやつか。細かくはしらんけど」
突如、恵果は美波の両肩を掴んだ。そして、まっすぐに美波の目を睨みつけた。
「お願い……!あいつの願いは、叶えさせてはいけないものなの!だから私に、情報を……!」
「十万、な」
「え……?」
美波の発言に、恵果はキョトンとした。
「優子はんの能力の情報、十万円や。かなり特殊な能力やからな、それくらいもらわんと教えられんで」
「そんな……」
恵果は美波の肩から手を離し、項垂れる。
「そんなお金、用意できるはずが……」
「十万円。そこから友達割引と、お得意様割引、それに対個人的に気に入らへん奴割引を適用して」
「……え?」
「あと、奪った鈴をウチに全部くれるっちゅうんやったら、さらにおまけして、なんとびっくり価格の十円や」
恵果は目を丸くした。美波は相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべている。
「美波……」
「ウチは金はなんぼでも欲しいねんけど、これでも人の子や。金は情には勝てんでな」
「ありがとう……ありがとう……!」
恵果の目には、涙が浮かび始めていた。
「さあ、耳かっぽじってよう聞きな。大サービスで、優子はんが持っている鈴の能力、全部教えちゃる。ついでに相性の良い鈴も紹介してあげるから、必要だったら買うてくれな!」
「ふふ……そこはちゃっかりしてるのね。でも、その方が美波らしいわ」
恵果は涙を拭い、美波の言葉に耳を傾けるのであった。




