秘密の手紙が花を呼ぶ
大河へ。
元気ですか? 何か変わったことはありませんか? 何か足りないものはありますか?
同じ国にいるのに会えないことが寂しいです。
たぶん今、私は大河に会ったら弾けると思います。
嬉しい気持ちが大きいので。
あっ、大河に手紙を書くなんて、すごく新鮮です。
本当は会いたいけど会えないから、私はこんな感じになっています。
この文面が私の心まるごと真心です。
それではまた。
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敵国の奇襲以来、神威の国の周辺への警備を厳重にすることになり、大河と会うことが、日に日に難しくなっていく。
導火線に灯された炎が、時間が経つにつれて雷管に近づき最終的には着火してしまう、その動作と同じで、そのうち神威の国とセピアルの小競り合いは、戦争へと繋がるのだろう。
その中で、そんな無情の中で、私はどうやって大河を想えばいいのだろうか。
戦争が終わればいいと思う。
それは根本的な問題だ。
戦争という長期的な問題を、大きな視野でもって解決しようとすることは大切なことだ。
けれど同じくらい、私は近辺の問題を手短に解決しようとすることが大切だと思っている。
どうやって、大河に私の思いを伝えよう?
Q一日一回、大河に想いを伝えるには、どうしたらいいの?
A手紙を書くしかないと思います。
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葵衣へ。
特段言いたいことは思いつかないので、葵衣からの質問に返信する。
元気だ。何も変わらない。時間が足りない。
ひげを剃る余裕もないほどに。
あと、あまり葵衣はあまり文章を書くのが得意じゃないとみた。
謎の表現がいくつかあった。弾けるのは止めてくれ。
大河へ。
ひげをそる時間がないなんて、とても大変そう。
どうにかしてあげたい……ですね。
それにしても、時間がないのに私に手紙を書いてくれるのは何故ですか?
返事がもらえる嬉しさを手紙の一番端に表現しておきます。見てください。
♡!
葵衣へ。
これを見たら至急返事が欲しい。
さっき、俺のひげをそる謎の花びらに出くわした。
早急な返信を求む。至急だ。
大河へ。
一週間も返信が出せなくてごめんなさい。
着付けしてた時に偶然、見たこともないような魔が宿ったんです。
それが刃物のような花びらを吹きだすのです。
そっちに行っちゃいましたか?
良かったです。
葵衣へ。
そいつだけはもう二度と送らないでくれ。
近いうちにセピアルと真正面で衝突することになる。
準備のために一度宮殿に帰る。
返信不要。
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大河が宮殿に帰ってくる。
その事実を知った私は、期待に胸を躍らせ、全身で小躍りした。
返信不要、と大河の手紙の最後には記してあったが、私は彼に手紙を返した。
会って直接話せばいいことなのに、書かずにはいられなかった。
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大河へ。
お願いがあります。
セピアルとの戦いに赴く前の日の夜、着付けのために、私に付き合ってください。
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……。
俺は葵衣からの最後の手紙を、セピアルと神威の国を繋げている森の、その近辺で見張りをしている時に、使いの者から受け取った。
手紙を開いて、目に飛び込んでくる文面に、俺は驚いた。
人が誰かのために書く手紙には、その人の本質が見えることがある。
葵衣は俺のために、この文章を本当の素直な気持ちで書いてくれたのだということが伝わってきた。
次は俺が素直になる番だ。
葵衣からもらった手紙の数々に、俺は嬉しいと真っ先に強く思ったこと。
葵衣に会いたいと、柄にもなく思ったこと。
全部、全部、白状してしまおうと、俺は心を決めた。
初めて葵衣と会った時の、変な魔を召喚された衝撃。
葵衣と敵国の男が話しているときに芽生えた違和感。
甘いものを頬張る姿に、癒されていたなんて、恥ずかしくて本人には言わないが、完全に俺は参っていたんだ。
一緒に横に並んで歩いて、話しているだけで、満たされるような気持ちになっている自分に気付いた。
そして、俺は今日この手紙を握りしめ神威の宮殿へ、ずいぶん久しぶりに戻った。
その道中、宮殿に近付くにつれて、可笑しな光景が見えてきたことを話さないわけにはいかないだろう。
俺は道中、違和感を二つ覚えていた。
一つ、やたら甘い香りが街から零れていること。
二つ、やたら白い花びらが街から溢れていること。
白い花びらは降り積もって、俺達――警護から戻ってきた兵士達が歩く先を埋め尽くし、まるで白いじゅうたんのようになって、宮殿までの道のりを示しているようだった。
積もった花の道の横には、ずらっと神威の民が並んでいた。
そろいもそろって皆、帯を牡丹という花に似た形に結んでいる。
俺は目前に葵衣の姿を見つけた。
――あぁ、そういうことか。
俺は葵衣が好きなんだと思った。
好きだ、という気持ちはどうしても上手く説明できない。
証明もできない。
だけど、宙を舞う白い花びらに包まれる彼女は、まるで絵のように美しく、他に何も考えられなくなるくらいだった。
六華――六つの花びらを咲かす、あの雪の結晶みたいに葵衣が儚く散ってしまいそうに見えて、抱きしめたら壊れてしまいそうだと思った……のに。
俺は葵衣を抱きしめていた。
「大河?」
「葵衣、…………――」
「え、えええっ!」
俺は葵衣に、好きだ、と言ったのだと思う。
うっとりしていて確かではない記憶、それでも俺はきっと言っただろう。
あの手紙を、葵衣は俺に送ってくれたのだし、俺はその手紙を世界中の誰より喜んでいたのだし。
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そして、セピアルとの戦いに向かう前夜。
宮殿の一室、俺と向かい合った葵衣は、
「明日の戦に備えて、今日は夜を徹して着付けします」
と言った。
「……?」
「すっごい時間がかかるんです」
「おー……着付け、だけ」
俺は思わず心の声を吐露していた。
「どうして大河そんな残念そうな顔を……あ、用事あったんですか?」
下心は、持つだけ無駄か?
「……」
「……?」
不思議そうに首を傾げる葵衣を見て、俺は思わず笑ってしまった。
この無垢な瞳に身を委ね、着付けによって、戦火から守られよう。
俺はそう思った。




