第16話 軽騎兵隊
◇シュテルンフェルス城・精霊騎士団長執務室
軍議を終えた日の夜。
自室の執務机に向かうレオニーは、いら立たしげに足をゆすりながら羊皮紙の束をにらみつけていた。
「……なぜ、私が行けないのだ」
軍議の後、レオニーはすぐさま精霊騎士団の中から『ケイ直属の軽騎兵隊・小隊長』の志願者を募る触れを出した。
ケイ殿の案では、数百名規模の軽騎兵を網の目のように展開させるという。その要となる各小隊の指揮役として、機動力と判断力にすぐれた精霊騎士が求められたのだ。
危険な任務ゆえに人が集まるかという不安はあったが、フタを開けてみれば、全団員二百名のうち半数に上る百名が志願してくるという事態となっていた。
「ええい、どいつもこいつも! 私だってケイ殿のそばで戦いたいというのに……ッ!」
彼女のいら立ちは、遊撃本隊の指揮があるため選考から外された自身の境遇と、これからケイのとなりで直接指示を受ける部下たちへの隠しきれない嫉妬から来ている。
ギリッと奥歯を噛みしめながら志願者の名簿をめくっていくと、さらに頭の痛くなる名前が目に飛び込んできた。
「セリア……それに、ミーナまで……」
頼りにしている副官のセリアと、若手の中でも有望なミーナ。二人ともケイに興味を持っているのは知っていたが、まさかそろって真っ先に応募してくるとは思わなかった。
「ケイ殿の手足となって働く重要な役目。選考枠は、たったの二十人。ええい、本当にいまいましい……!」
八つあたりのように羽ペンを走らせながら、レオニーは夜更けまでいら立ちと共に精鋭たちの選抜に頭を悩ませるのだった。
◇ケイ視点
翌朝。ひんやりと澄んだ空気がただよう練兵場には、選抜された二十人の精霊騎士たちがずらりと整列していた。
「おはようございます。今回、臨時の指揮を執らせてもらうケイです。短い間ですが、よろしくお願いします」
「「「はいっ!!」」」
挨拶すると、二十人の騎士たちからは気合いの入った返事が返ってきた。列の先頭には、見知った顔が並んでいる。副官のセリアさんと、先日手合わせしたミーナさんだ。
セリアさんはわたしの『戦術』を学びたいみたいだし、ミーナさんは『剣技』を間近で見たいらしい。
二人とも期待に満ちたキラキラした目を向けてきている。
(うう、ちょっとプレッシャーかも……)
内心でこっそり冷や汗をかきつつ、今日集まってもらった理由と、軽騎兵部隊の運用について説明を始めた。
「今回、軽騎兵全体で四百名ほどの部隊を編成します。皆さんに集まってもらったのは、彼らを約二十人ずつの小隊に分け、それぞれの小隊長として動いてもらうためです」
「二十の小隊で、広大な大縁崖を分担して警戒するのですね」
セリアさんが即座に意図をくみ取ってくれる。
「はい。私たちの任務は大きく二つです。
一つは崖の縁を絶え間なく巡回し、敵の主力がどの谷から来るかをいち早く本隊に知らせる『目と耳』の役割。
そしてもう一つが、『裏口の完全封鎖』です」
「裏口、ですか?」
ミーナさんが不思議そうに首をかしげた。
「ええ。枯れ沢なんかを使って、敵の工作兵が崖を登ってくる可能性があります。
もし彼らにロープやハシゴをかけられて別動隊を引き入れられたら、遊撃本隊が背後から突かれて、あの『ハメ技』……じゃなくて、各個撃破の陣が崩壊しちゃうんです」
「なるほど……。つまり我々軽騎兵が、この作戦の生命線というわけですね。で、敵を発見した場合はどうすれば?」
セリアさんの問いに、わたしは表情を引きしめた。
「敵が崖を登っている最中か、顔を出した瞬間に上から弓や投石、槍などでたたき落としてください。
ロープがあればすぐに切断。陣形を整えられる前に散らすのが鉄則です。
絶対に、自分から崖下へ降りて戦わないでくださいね」
「少数であれば、こちらから積極的につぶしていいと」
「はい! でも、もし想定以上に敵の数が多くて、すでに数百人規模の別動隊が登ってきちゃってた場合は、絶対に一つの小隊で無理をしちゃダメです」
全員の顔をしっかりと見渡す。
「その時はすぐに合図を出して、まわりの小隊を呼んでください。
そして、馬の機動力を活かした『一撃離脱』の戦法で敵を足どめしつつ、遊撃本隊からの援軍を待つこと」
「何より大事なのは、皆さんが無事に情報を持ち帰って、部隊間の連絡網を維持し続けることです」
「素晴らしい……」
セリアさんが、ほうっと感嘆の息を漏らした。
「ただ走り回るだけでなく、組織的な網の目状の非常線をつくり、状況に応じた対処法まで確立されている……。やはりケイ殿の戦術眼は本物ですね」
騎士たちも納得したように深くうなずき、その目にさらに強い光を宿している。
(うわぁ、なんかめっちゃ期待されてる……! プレッシャーがすごい!)
「え、ええと……そういうわけで、セリアさんには全小隊を統括する副官をお願いできますか?
各部隊の担当エリアの割りふりも手伝ってもらえると助かります」
「はっ! 謹んでお受けいたします!」
セリアさんは凛とした、完璧な敬礼で応えてくれた。
いよいよ、ホッホブルクの命運をかけた防衛戦の準備が、本格的に動き出していく。
面白い、続きが気になる!と思っていただけましたら、ぜひブックマーク登録や、下の「評価(★★★★★)」から応援していただけると大変嬉しいです!
皆様の応援が更新の励みになります!
どうぞよろしくお願いいたします。




