第29話 タグ
攻略記事は、レビュー記事とは別物だった。
レビューは「このゲーム面白いですよ」と伝える文章だ。感想だ。
攻略は「このボスはこう倒せ」と教える文章だ。知識だ。
知識には具体性が要る。「強いです」では攻略にならない。「HP38万、物理耐性あり、火属性弱点、第二形態は全体攻撃を二ターンに一回使う、回復役は必ず編成しろ」。
これがAIに書けない理由だ。AIはゲームをプレイしていない。ボスのHPを知らない。行動パターンを観察していない。
俺は観察している。二十年間、ボスを観察してきた。
攻略記事の案件は月に四~五本来た。一本二千円。月に八千~一万円。レビュー時代より少し減ったが、単価が高いので作業時間あたりの収入は上がった。
だが三ヶ月続けて、気づいたことがある。
俺が書いた攻略記事は、クライアントのサイトに載る。クライアントのサイトにアクセスが来る。広告収入はクライアントに入る。
俺には一本二千円しか入らない。
記事がどれだけ読まれても、二千円は二千円だ。
——これは、おかしくないか。
メルカリでは、自分で仕入れて、自分で撮影して、自分で出品して、利益は全部自分のものだった。
ライティングでは、自分で書いた記事の利益が、他人に入っている。
メルカリは「自分の店」だ。ライティングは「他人の店の店員」だ。
店員は時給で働く。店長は売上で稼ぐ。
俺は店員をやっている場合ではない。
自分の店を作ればいい。
——攻略サイトを作ろう。
自分の攻略サイトを。自分でゲームをやって、自分で攻略記事を書いて、自分のサイトに載せる。アクセスが来たら広告収入は全部自分のものだ。
問題は、サイトの作り方だ。
WordPress。
名前は知っている。クラウドソーシングの案件で「WordPress入稿」という作業があった。記事をWordPressの管理画面に入力する仕事だ。管理画面は触ったことがある。
だがサイトを一からWordPressで作ったことはない。
YouTubeで「WordPress サイト 作り方」を検索した。
動画が大量に出てきた。
「初心者でもできるWordPressサイト構築」。再生した。
サーバーを借りる。ドメインを取る。WordPressをインストールする。テーマを選ぶ。記事を投稿する。
手順は分かった。
サーバー。月千円くらいのレンタルサーバーがある。
ドメイン。年間千五百円くらい。
合わせて月に千百円ちょっと。
せどりの仕入れより安い。
——登録した。サーバーを借りた。ドメインを取った。
ドメイン名を決める時、二十分悩んだ。
「game-guide」系の名前は全部取られていた。「game-attack」もダメ。「rpg-wiki」もダメ。
結局、ハンドルネームを入れた。WoWのギルドマスター時代に使っていた名前だ。二十年前の名前がドメインになった。
WordPressをインストールした。テーマを選んだ。無料テーマだ。
サイトが表示された。
白い画面に、サイト名が表示されている。記事はまだない。空っぽだ。
空っぽだが——俺のサイトだ。
インターネット上に、俺の場所ができた。
——記事を書き始めた。
最初の記事は、今やっているソシャゲの攻略だ。高難度ボスの攻略法。クラウドソーシングで書いていた内容と同じものを、自分のサイトに書いた。
書いて、公開した。
アクセス数を見た。
ゼロ。
当たり前だ。誰もこのサイトの存在を知らない。Googleにも登録されていない。
ここからが問題だ。記事を書くだけではアクセスは来ない。検索結果に出ないと誰も見ない。
SEO。検索エンジン最適化。
この言葉はクラウドソーシングの案件でよく見た。「SEOを意識した記事」「SEOライティング」。意味は分かる。Googleの検索結果で上位に出るように記事を書く技術だ。
調べた。また調べた。ゲームの攻略と同じだ。攻略情報を集めて、実践して、結果を見て、修正する。
タイトルにキーワードを入れる。見出しを構造化する。内部リンクを張る。
記事を修正した。タイトルを変えた。見出しを付け直した。
三週間後、検索結果に出始めた。
アクセスが来た。一日十件。二十件。
少ない。だがゼロではない。ゼロが十になった。
記事を増やした。週に二本。一ヶ月で八本。
アクセスが増えた。一日五十件。百件。
Googleアドセンスに申請した。審査に通った。広告が表示されるようになった。
——最初の月の広告収入。
三百二十円。
三百二十円。一ヶ月で三百二十円。
クラウドソーシングの一本分にもならない。
だがこれは俺のものだ。誰にも取られない。記事が消えない限り、毎月入ってくる。
ストック型の収入だ。
せどりは売ったら終わり。Uberは走ったら終わり。ライティングは納品したら終わり。
サイトの広告収入は、記事がある限り続く。
NISAの積立と同じだ。積み上がる。
——四月。サイトの記事が二十本を超えた頃、メールが来た。
訓練校の講師からだった。
修了式の時に名刺をもらっていた。その時は「何かあったら連絡ください」と言われただけで、連絡することはないと思っていた。
「時田さん、お久しぶりです。訓練校のホームページについて相談があるのですが、お時間いただけますか」
訓練校のホームページ。
見たことはあった。訓練校に通っていた時に一度見た。古かった。スマホで見ると文字がはみ出していた。画像が横にはみ出して、横スクロールが発生していた。
講師に電話した。
「ホームページが古くて、スマホ対応できていないんです。業者に頼むと数十万かかると言われて。時田さん、パソコン詳しいですよね。ちょっと見てもらえませんか」
俺がパソコンに詳しい。
訓練校では確かにそう見えただろう。SUMIFを教えて、VBAを発見して、模擬面接でギルドマスターの話をした男だ。
だがホームページの修正は、Excelとは別のスキルだ。
——別のスキルだが、心当たりがあった。
二十年前。
大学を出て、引きこもる直前。
ギルドのウェブサイトを作ったことがある。
FF11のギルドサイト。メンバー一覧、活動報告、掲示板。HTMLで作った。CSSでレイアウトを整えた。テーブルタグで表を組んだ。
二十年前の技術だ。当時のHTMLは今とは違う。テーブルレイアウトは今では非推奨だ。CSSも大幅に変わっている。
だが基礎は同じだ。タグの構造は同じだ。
<html><head><body>。二十年前に覚えたタグが、頭の中に残っている。
——訓練校のサイトのソースコードを見た。
右クリック→「ページのソースを表示」。
出てきた。
テーブルレイアウトだ。二十年前の技術で作られている。<table>タグでページ全体のレイアウトを組んでいる。スマホ対応していない。レスポンシブデザインになっていない。
——これは直せる。
WordPressのサイトを作った時に、CSSを触った。テーマのカスタマイズでCSSを書き換えた。その時に、現代のCSSを少し覚えた。
flexbox。grid。media query。
二十年前にはなかった技術だ。だがYouTubeで調べて、自分のサイトに適用した。
訓練校のサイトに同じことをすればいい。テーブルレイアウトをCSS gridに置き換えて、media queryでスマホ対応にする。
講師に言った。
「たぶん直せます。ただ、HTMLとCSSの修正なので、少し時間をください」
「時田さんにお任せしていいですか。予算は……正直あまり出せないんですが」
「いくらくらいですか」
「三万円くらいしか……」
三万円。
業者に頼んだら数十万。俺に頼んだら三万。
安い。たぶん安すぎる。だが俺にとっては三万円だ。せどりの仕入れ六百件分だ。メルカリの出品十五件分だ。
「やります」
——一週間かけて修正した。
テーブルレイアウトを解体した。CSSでレイアウトを再構築した。スマホで見て確認した。はみ出さない。横スクロールしない。文字が読める。
画像を圧縮した。表示速度が上がった。
ナビゲーションメニューをハンバーガーメニューに変えた。スマホでの操作性が上がった。
訓練校のロゴは元のままだ。色合いも変えていない。「中身を変えて、見た目は変えない」。ゲームのMODと同じだ。内部を改変して、外観はオリジナルのまま。
講師に見せた。
講師がスマホで表示した。
「すごい。全然違う。ちゃんとスマホで見られる」
「文字がはみ出さなくなりました。画像も軽くしたので表示が速いと思います」
「時田さん、これ本当に一人でやったの?」
「はい」
「すごいな。ありがとう。本当にありがとう」
——ありがとう。
仕事として、スキルに対して、「ありがとう」と言われた。
メルカリで「迅速な対応ありがとうございます」と言われたことはある。だがあれは梱包と発送への感謝だ。
今回は違う。俺の技術に対して言われた。HTMLとCSSを書ける技術に対して。
二十年前にギルドサイトを作った技術が、二十年後に「ありがとう」を生んだ。
——三万円が振り込まれた。
講師が続けて言った。
「実はね、知り合いの会社もホームページが古くて困ってるんだよ。紹介してもいい?」
知り合いの会社。
紹介。
「いいんですか」
「時田さんのスキルなら十分だと思う。業者に頼むと高いから、個人でやってくれる人を探してるんだよ」
個人でやってくれる人。
俺は個人だ。これ以上なく個人だ。
「ぜひ紹介してください」
「分かった。先方に連絡しておくよ」
——帰り道。自転車を漕ぎながら考えた。
攻略サイト。クラウドソーシング。訓練校のHP修正。
全部バラバラに見えるが、共通点がある。
全部、ネット上で何かを作る仕事だ。
記事を作る。サイトを作る。ページを修正する。
ネット上にものを作って、人に届ける。
メルカリも同じだ。商品の写真を撮って、説明文を書いて、ネット上に出す。
マチアプも同じだった。自分の写真を撮って、プロフィールを書いて、ネット上に出す。
全部、同じことをしている。
ネット上で何かを魅力的に見せて、人に届ける。
——これは一つの技術なのではないか。
名前がまだ分からない。だが輪郭が見え始めている。
メルカリで覚えた写真と説明文。マチアプで覚えた見せ方。訓練校で覚えたExcel。ギルドサイトで覚えたHTML。WordPressで覚えたSEO。
全部が一つの技術に収束していく予感がある。
まだ分からない。だが近づいている。
何かに近づいている。
残金:992,139円
(内訳:証券口座14万円 + 銀行64万2,139円 + NISA21万円 ※NISA評価額+32,800円)
※収入:Uber Eats +52,000円
※収入:せどり粗利 +60,000円
※収入:攻略記事(CW) +10,000円(5本)
※収入:訓練校HP修正 +30,000円
※収入:サイト広告収入 +320円(初月)
※食費:約15,000円
※ガソリン代:約7,500円
※光熱費:約10,000円
※通信費:約11,500円
※国民健康保険:約1,500円
※ジム月額:約7,800円
※プロテイン:約3,200円
※メンタルクリニック再診:約1,500円
※眠剤:約800円
※レンタルサーバー+ドメイン:約1,100円
※梱包資材:約1,200円
※NISA積立:−30,000円(15回目)
★残金99万。あと1万で100万復帰★
★収入源:Uber+せどり+攻略記事+HP修正+広告。五本に分散★
★訓練校HP修正で初の「スキルへのありがとう」★
★講師から次のクライアント候補を紹介される★
★全スキルが「ネット上で何かを魅力的に見せて人に届ける」に収束し始めている★




