笛の鳴る夜
本隊は、三日後の闇夜に来た。
翼、十四。歩兵、百六十。偵察機の目が数え終わるより早く、俺は栗の木の上で笛を長く吹いた。
村が、沈む。三度目ともなれば、灯りの消え方まで手慣れたものだ。床下に転がる子供らの気配。炭焼き穴に籠る年寄りたち。袋小路に伏せるブレンの二十人。門の内側に、ガレン卿の槍杖が一本。
こっちの空には、四挺の牙を括った機体が四つ。腹に爆ぜる餌を抱えた、羽根の歪な失敗作たちが十二。
「……始めようか。三千二百十四個分、まとめて答え合わせだ」
翼の第一波が降ってくる。二枚一組。囮が前へ、噛み手が雲に。学習済みの、あの喰い方で。
――知ってた。
囮に喰いつく雷はもう飛ばさない。代わりに、よろよろと逃げ惑う歪な機体を、噛み手の目の前に泳がせる。傷ついた獲物にしか見えないそれを、噛み手が雲から出て一呑みにした、その腹の中で。
夜空に、火の花が咲いた。
一枚。二枚。三枚。囮ごと餌に群れた四枚目まで、まとめて。爆ぜることしか能のなかった三百個の失敗作が、八年越しに、爆ぜることで空を守っていた。
地上の百六十は、袋小路で三度詰まった。水路が開き、二階から石と熱湯が降り、笛が短く二つ鳴るたび、ブレンの二十人は深追いせずに影へ戻る。石工の段取りは、戦場でも正確だった。
一枚だけ柵を越えた翼が、広場へ滑り込んだ。爪の下、床下に潜り損ねた子供が三人――笛が鳴る前に、三人とも、遊びの速さで水桶の陰に転がり込んでいた。影踏みの逆、優勝常連の三人だ。爪は空を掴み、次の瞬間、ガレン卿の槍杖が翼の付け根を貫いていた。
「――お見事。優勝です」
騎士が子供らに言った。誰も骨にならない側の夜が、設計どおりに回っていく。
……回りすぎている、とはもう思わない。昨夜までに、疑い方も学習済みだ。異変は数字で先に来た。
魔力が、切れかけている。
牙の四機、餌の残り、偵察の目。維持している練成の全部が、掌から俺の芯を削っていく。指先が痺れ、視界の端に火花が散る。剣一本で火球二十発の燃費最悪属性を、俺は今夜、何百発分回してる?
それでも敵は退かない。翼は残り六枚。歩兵はまだ百を超えて、袋小路の外で隊列を組み直している。退かない理由が、東の空から来た。
ひときわ大きな翼が、戦場の上空高くに、静かに浮かんでいた。
その背に、黒い外套。
男が片手を上げると、残りの翼が一斉に高度を取り、俺の牙の射程の外で輪を描き始めた。焦らず、群れず、こっちの弾切れを待つ構え。
――ああ、そうだ。あんたはそう来る。獣を骸にされて首を抱く男は、獣を無駄死にさせない男だ。
掌が、焼け始めていた。




