09 ゾンビからは逃げられない。
コアルームに入ってダンジョンコアの情報を見る。
「やっぱり雑ぅぅな拡張だ」
「野良ダンジョンでありますから」
まあ仕方ない。
これを修正して自分仕様にするのはメンドクサイ。
「売り、でありますか? エリュシオン様」
コアを売って手っ取り早く冒険者のランクを上げるのも手だ。
しかしっ! 僕たちには偽装や偽造というインチキ技があるのさ。
どうとでもなるのは魔族の利点だね。
「素材にしようと思う。冒険者ランクは騙す方向で」
そもそもお人間様に頼らなくても、頭の中にいい稼ぎ場所が入ってるので。ただゲームより時代が進んでるっぽいし、知らないところもありそうではある。
そんなときには偽造冒険者カードが役に立つでしょう。
「では人族の街に潜るのでありますな」
「それを決めるには、聞き返さなければならないことがある」
ゲームじゃなくなったってことは、魔族プレイヤーがいなくなっているんじゃないかってこと。
つまり魔族がプレイヤーの文化や文明を維持してるかが問題なのさ。
「エリュシオン様が討たれた前後辺りから、魔族の文明は衰退の一途を……」
「つまり魔族のご飯は?」
「……ククク、人族を利用してやりましょうね! エリュシオン様っ。大自然味は嫌であります!!」
「大自然味て」
不味いご飯らしい。
力こそ正義。
火力こそパワアアアアァッ。
それが魔族の設定だもの。
ってことでここのダンジョンコアは回収。
インベントリに収納した。
ダンジョンコアを取っても、1週間くらいかけてダンジョンが潰れていくから余裕がある。
ってことで──
「リゼッタ、こっちこっち。こっちでゆっくりしよう」
僕を復活させるために随分と長い間頑張ってくれたみたいだからさ。ダンジョンを攻略した今くらいはのんびりしてもらいたい。
奇をてらって緑茶と団子じゃあ外す可能性があるので、紅茶とケーキにした。
僕の知ってる味で再現してるから高級品ではないんだけどね。
「この空間もエリュシオン様の魔法なのでありますか」
「イイ感じにできてるでしょ」
招き入れた茶屋魔法の空間。
ここのコンセプトは"小さな図書館を改装した隠れ家カフェ"だ。
「素敵であります!」
パチンと指を鳴らして、テーブルにケーキと紅茶を出す。これはさっき作ってインベントリに忍ばせてある。たっぷりとな。
じゃないとゾンビ化するし。
「お疲れさま、リゼッタ。モンブラン、好きだったよね」
「おぉ……エリュシオン様の御手ずから。ありがたき幸せ……光栄に存じます」
「僕だってリゼッタに凄く感謝してるんだ。さ、食べようよ」
僕も同じものを食べる。
推しと、同じものを、食べるのだッ!
しかも目の前にいる。
画面じゃあないのだ!
なんと素晴らしき世界だろうかっっっ!!
などという興奮は見せず、会話を楽しまなければならないミッション。
「ところで思い付きの魔法を創作したくなった」
「ほほう、なんですかなっ?」
「茶屋魔法が作れるならさ、温泉魔法も可能だと思うんだよ。温泉につかってのんびりしたい。特に今みたいなときはね」
「入浴は心を豊かにしてくれるであります」
「作るタイミングはどうするかな」
「確かに。他の魔法も候補を挙げておられましたし」
それもそう。
地図魔法は索敵魔法と合わせて、マッピングしながらマップ上に敵表示するもので、探索には大事だ。
鑑定魔法はインベントリがあるから急ぎではないけど、要不要を回収前に判断できるっていう楽ちんさが売りになるだろうし。
偽装や隠蔽魔法だっているじゃん。人間のところで活動するんだしさ。まあ僕とリゼッタは人型で、魔族のなかでも人族に近い姿だから難易度は低いかな。
僕は耳がちょっと長いくらいだし、リゼッタも眼球がトカゲみたいなだけだからね。
念のために対象の認識を誤らせるシステムも組み込んでおこう。
「オヤツ食べ終わってからにでも作るか」
ゾンビになるしな。
温泉でまったりするなら最初に作るべき。
英気を養ってからダンジョンを出たっていいんだし。
「今は至福のひと時を楽しもう」
「よい考えであります!」
うむっ。
美味しそうに食べてるリゼッタを見ながら、髪飾りのデザインはどんなのがいいのか考えたりもする。
葉っぱ系? 花系? 蝶とか……うーん、清楚系のリゼッタに合うものか。
なんならサクランボとかでも可愛い気がするな?
違うか。
スズランとかか? 枝の部分はくねくねロックみたいにしたら髪に巻ける。ミスリルで作るなら金属疲労でポッキリなんて考えなくてもいい。
そんな僕を見てたリゼッタがぼそりと一言。
ダンジョン攻略して、油断したようだ。
聞こえてるよー。
「真剣なエリュシオン様……ンフ、愉悦」
見た目は清楚なんだけどね!
そのギャップ、好き。
ガチで至福のときだ。
「結構美味しいね。おかわりしよう。リゼッタは?」
これはイメージ力の勝利だな。
魔法タイプでよかったかも。
「いただくであります!」
思い付く限りのケーキをインベントリに入れてあるから、適当に見繕ってケーキスタンドに乗せるか。
ほら、あのお洒落な感じのヤツ。ケーキ乗っけるアレ。
そうだな、今度は違うものがいいよな!
そちらも美味しそうでありますな、からの~一口食べてみる?
からのぉ~、あーんし合う。
そんな妄想してる。
……いい……スゴクイイ。
妄想するだけなら問題はない。
ない。
「マッチャと言われましたか、美味しそうでありますな? エリュシオン様のも」
ナ、ナニィ!?
妄想を現実化する能力かッ!
「おかわり追加であります!」
あ、もう3個目でしたか。
ケーキスタンドから抹茶モンブランを取るリゼッタ。
僕は妄想で時を飛ばしていたようだ。
「エリュシオン様はもうよろしいのでありますか? まだ美味しそうなのが乗っかっておりますよ?」
「定番のイチゴショートは外せないからな」
僕が取ると、なんかイチゴに視線を感じる。
「食べる?」
フォークに刺してリゼッタの顔の前に出す。
「ありがたき幸せ!」
そう言って僕の手を両手で包み込むように握り、イチゴをパクリとやった。
あーんだ!
リゼッタ、それはあーんだから!!
「ご褒美であります……」
ヤバ……なんて破壊力の高い笑顔。
リゼッタも自分でやっといてテレんなって。
顔が近い……あ、僕、マズい、推しが……推しに……リゼッ……。
「「ぅ゛ゎ゛あ゛っ゛!?!?!?!?」」
な、なんで!?
「ソ゛ン゛ヒ゛、な゛っ゛た゛」
ゾンビからは逃げられない。
そんなフレーズが頭に浮かんだが、ソコは『魔王』じゃん!!




