28 新婚さんが住む静かな郊外の小さな家なんて……そんな……そんなのえっちじゃん。
絶景スポットから少し離れた場所に着陸して隠蔽をオフに。空から参上してしまったら目立つし、余計な邪魔もされそうだからね。
林道を少し登って展望台に向かう。
「おお、いいですな」
「うん」
林道を抜けると、バーッと広がる海が目に入った。貴族とかの庭で、屋根付きの休憩所みたいなのがあるじゃん。アレが何個か設置されてるな。
つまり公式のデートスポットということだね。
「こんな場所があったんだな」
「せいぜい利用してやりましょう」
魔界にも絶景スポットはある。
だけど整えられてはいないから、こういう文化じゃ勝てないんだよね。
つまり今のリゼッタは「くやしいのぅ、ムムム」しててカワイイ。
「少しお昼には早いけどいいよな?」
「ええ。早くから準備しましたからね」
でも話しかけると、パッと笑顔になるからな。
そこも好き。
僕たちは空いている休憩所のテーブルにお弁当を広げた。
海風が冷たいだろうと思って、念のためにスープも用意しておいたのは正解だったようだ。
「少し肌寒い。そう感じるのはゾンビ解除セットの働きがリアル過ぎるんだろうな」
「しかしシオン様、五感をリアルに感じることができるのは、とても素晴らしいことでありますよ!」
「そうかなあ? 寒いとか暑いとかはなくてもいい気がするけど」
「肌寒い。だからこそ、今の心のぽかぽかが愛おしいのす」
「!!!!!」
雷に打たれたかのような衝撃。
「リゼ、僕が間違っていたよ」
「いえいえ。私も先ほど気付いた次第で……」
それがウソの言葉ってのは分かるよ?
僕と同レベだよーっていう優しみのウソ。
恋愛脳はレベル1だけど、リゼッタのことは隅から隅まで情報を漁ったからな。
表情の変化は見逃さないねッ。
恋愛脳はレベル1だけど!
「リゼに恋愛のイロハを学ばなければ」
「わ、私も初めてなのでありますが!?」
「じゃ、じゃあ一緒、一緒に学ぶしかないね!」
「ははっ! 一緒であります」
「ふふ、あははは、なんだろう、アホっぽいけど嬉しい気持ちだ」
「分かるであります。んふふ」
クスクス笑ってるリゼッタはレアだな。
なんかちょっとしたことが嬉しかったり、楽しかったりするんだ。
出掛けるのが嫌いだった僕がデートしたり家を買おうとしたリ。
恋愛ってスゲェよなあ。
それが可能になる異世界もスゲェ。
ゲームやっててよかった。
「魔法で作ったご飯よりも、実際に作ったご飯のほうが美味しい気がするのは、思い出補正的なのがあるんだろうな。作るときの会話とかが、いいダシになってるね」
美食魔法だとパッと完成するからな。
「美食魔法は買って来たご飯って感じか」
「言われてみれば確かに。作っているときは楽しいですからね」
これからはちょくちょくご飯を作るのもいいかもね。
もちろんメンドクサクならない程度でな。
美食魔法は食事をストックするのに便利に使えるし。
「で? 私たちになにか用でもあるのか? その無粋な視線は、貴様らの性根を表しているぞ!」
「仲間になりたそうにこっちを見るのはいいが、キミたちの笑顔は気持ちが悪い」
これほど嬉しくない、こっちを見てるモンスターはいないだろうなっていう笑顔。
ニッチャリした顔で見てたんだよな。
「ハハハ。これは威勢のいいお嬢さんだ。我々専用の場所を無断で使用しておきながら、その態度とはね」
「公園のベンチだというのに自分のもの、だというのかな?」
「ああ。今決めたからな」
「そして我々にはその力もある」
「勇者は全てにおいて民の上に立つ存在というのは知っているだろう?」
おっとぉ?
「悪いことは言わん。大人しくその元気なお嬢さんを我らに差し出せ」
「小僧にはもったいない」
「我ら勇者のみがその女を有効に使えるのだ」
「私に貢げ。いいな? 小僧」
傲慢勇者くんたちじゃありませんか。
偽装してるから本来の姿には見えてないはずだけど……勇者たちの目には、都合のいい変換がされてるっぽいね。
どうせ下半身事情なんだろうけど。
ちょん切るか?
「おかわりでありますな!」
「これはまあオイシイ展開と言っていいだろうな。オッケーオッケー。ここに座りたいんだっけ? 僕の彼女は汚物に触れさせたくないからね。もう帰るから好きにしなよチンポコ勇者くん」
臭い臭い、勇者くさぁい、とか言いながら追跡魔法をピトッしておいた。
マーキングも完了したので家買って帰ろう。
「さっそく準備しようか、リゼ」
「はは!」
「じゃあな、元気でいろよ? 風邪ひくなよ? 歯もちゃんと磨いとけ? いいな? 身体も洗っとけよー! サーヨナーラ~」
せっせとダンジョンに通って欲しいから注意しておいた。
お弁当とか食器とかをサッとインベントリに入れて、僕たちは隠蔽と偽装している空飛ぶ絨毯に乗った。
「ハハハハ! シオン様の慈悲にむせび泣いて感謝するがよい。世界を知らぬ勇者どもめ! 滑稽な姿をそこで晒しておくがよい!!」
こんな態度を取られたことがないんだろう。ポカーンとした表情で僕たちを見送った勇者はとてもマヌケ面だったことをここに記す。
僕たちみたいに飛んでどっか行っちゃう人間はレアだから、仕方ないけどね。
獲物に逃げられた勇者の銅像でも寄付しちゃおっかな?
ってことで商業ギルドに到着。
「郊外の静かな場所に小さな家を買いたいんだけど」
「まあっ、ぜひお任せください!」
商業ギルドの受付嬢に相談したら、めっちゃニコニコで個室に案内された僕たち。
担当した客の使ったお金が大きいと、職員側もボーナスみたいなのが出るのかな?
お茶とお菓子を出され、大量の資料がテーブルに積まれた。
「お、大げさでありますな?」
「う、うん」
「なにを仰いますか! 新婚さんのお家なのでしょう? 気合を入れるべきところではありませんかっ!!」
「し、しっこん!?」
「違う違う、新婚……だよ、リゼ。うん。そう……そうだ、な。確かにあなたのおっしゃる通り気合を入れるべき部分だ」
「シ、シオン様……はい」
「さあ、ご希望に沿ったもの、見付けましょう!」
移動専用の出入口にするつもりだったけど、受付嬢の勘違いが僕の心にクリティカルヒットした。
偽装魔法め──さてはヤルな!?
新婚さんが住む静かな郊外の小さな家なんて……そんな……そんなのえっちじゃん。




