第六章 ヴィンス宰相の過去と、心の傷 35.優雅なお茶会
宮廷の中庭に、木製の白いテーブルと椅子が並べられている。
庭師が綺麗に剪定した、季節ごとの花や草木が色とりどりに咲き誇り、美しい庭園。
暖かい陽の光が差し込む中、令嬢だけのお茶会が開かれていた。
「今年摘んだこの紅茶、とても香りがいいわね。取り寄せて正解でしたわ」
「このスコーンも焼き立てで美味しいですね」
ティーカップに口をつけ、たおやかに微笑む令嬢たちの中で、カレンも相槌を打っていた。
髪を巻き、化粧をし、流行りのドレスに身を包んだ令嬢たちが定期的に開いているらしいお茶会に、光栄なことにカレンもお呼ばれしたのだ。
宮廷医は今まで老齢の男性が多かったし、カレンも一応没落貴族とはいえ伯爵家の出自のため、若き女性医師兼貴族令嬢として、この井戸端会議……もとい素敵な女子会に参加することができたのだ。
いつもの白衣を今日は脱ぎ、ドレスなど持っていないのでシンプルな水色のワンピースを着たカレンは、砂糖を入れた紅茶をスプーンでぐるぐると混ぜていた。
(誘っていただけたのはありがたいけれど、優雅なご令嬢たちと何を話せばいいのか……)
とりあえず粗相をしないようにと気を付けていたら、ポニーテールに結った金髪を風が揺らした。
暗黒街のギルドと、同じ世界とは思えないほどの、穏やかな景色。
「王妃様、最近ますますお美しく若々しいですわよね。憧れるわぁ」
「肌艶がほんといいですわよね」
王妃様に処方している、高価な蜂蜜を使った美肌クリームの効果が出ているのか、美しさに磨きがかかっていると女子会で話題に上がっている。
一応個人に渡している薬などは主義務があるので、私の処方のおかげだとは言えず、カレンはニコニコと愛想笑いをする。
「そういえば、リリー令嬢は最近アゼリア公爵から熱心にお誘いを受けているようではないですか?」
一人の令嬢が言うと、リリーと呼ばれたブラウンのウェーブ髪の令嬢はふう、とため息をついた。
「いやだわ、もう噂になってらっしゃるの……?
私はあの方は失礼ながら、好みじゃないの」
「でも由緒正しき公爵家のご令息ですから、縁談にも文句はないのでは?」
「だからよ……持参金はこのくらい払うとか、こんな高い宝石をプレゼントするとか、いつもお金の話ばかりで、もううんざりしているの」
頬に手を当て悩まし気に眉を顰めるリリー令嬢。どうやらアゼリア公爵という男性から熱烈にアピールされているが、全くタイプではなくむしろ悩みの種らしい。
白い肌に薄紅色の唇、思える華奢で小柄な彼女は、守ってあげたいと男性からは引く手数多だろう。
年相応に可愛らしい恋バナをしているご令嬢たちを微笑ましく眺めながら、カレンは皿に盛られたスイーツを口に運んだ。
「そんなことより、カレン先生!」
「は、はい!?」
マカロンをかじった瞬間、リリー令嬢が急に話を自分に向けてきたので、カレンは驚いて素っ頓狂な声を上げる。
「最近ヴィンス宰相と仲良くないですか?
もしかして特別な関係だったりしますの?」
リリー令嬢は紅茶のカップを持ったまま、ベリーのマカロンを齧っていたカレンに質問をしてくる。




