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33.医者の信念

盗みを働かれた被害者の村人たちは、そんな複雑な感情が渦巻いているカレンを、追い詰めるような言葉を吐く。



「犯罪者を救って次の被害者を出すなんて、医者のアンタも同罪だ!」


「そうだ、責任取ってくれよ!」



真っ直ぐに指を差しカレンを糾弾する。

ショックを受け、後頭部を石で殴られたような衝撃がカレンに走る。



「私も……同罪……」



言葉に詰まる。


確かに、怪我をして現れた彼に、なぜ怪我をしたのか理由をもっと尋ねるべきだったか。


しかし事態は一刻を争い、悠長に話をしている暇などなかった。


罪を犯した彼を放って助けなければ、次の被害者や怪我人は生まれなかった。


犯罪者を助けた医者も、同罪なのか。



「でも……私は……」



声が震えてしまう。滲む涙を堪え、カレンは真っ直ぐに前を向く。



「彼が犯罪者だと知っていたとしても、泣きながら母親の名前を呼ぶ、目の前にいる重症の患者を、救わないという選択肢は私にはなかったと思います……!」



例え重罪人でも、命を救うのが私の使命だから。


カレンの言葉に、羽交締めにされていた盗人の青年が顔を上げ、胸を打たれたのかそっと涙を流していた。


少年ルイとラシッド店長は目配せをして、間近でカレンの夜通し行った真剣な施術を思い出し、頷き同意する。


後ろに控えていたヴィンスは、そんなカレンの横顔を見つめ、マスクの下の唇を緩める。



「なんだと、この……!」



気に食わない返答だったせいか、頭に血が上ったらしき村人の一人がカレンににじり寄る。



「そこまでだ」



しかし、素早く『死神』がカレンをかばうように颯爽と前に躍り出た。



「なんだ、不気味な奴め……!」



全身黒い服に黒いマスク、腰には細剣を備えた背の高い青年は、確かにその二つ名の通り不気味だ。


ヴィンスはゆっくりと、言葉を紡ぐ。


「医者は人の命を救うのが仕事だ。老いも若いも聖人も悪人も、命の重さに違いはない」



低く凛とした声が、ギルドに響く。



「彼女は苦しむ目の前の命を救い、医者としての責務を果たした。回復後の患者の罪を裁くのも背負うのも、彼女の仕事ではない」



と、はっきりと言い放つ。


患者がどんな人間でも、命を救うのが医者の使命で、救ったならば同罪など、言語道断だという強い意志を感じた。


激しいショックを受けて傷んでいたカレンの胸が、まるで鎮静剤が打たれたかのようにじんわりと温かくなる。


背の高い彼の横顔を見上げながら、代弁してくれたのが本当に嬉しかった。


水を打ったように静まり返るギルド内で、『死神』は肩をすくめて続ける。



「……この国の『ヴィンス宰相』は、どうやら罪人には厳しいらしい。しかるべき罰を受け、罪を償うがいい」



宰相だと隠しているギルドでの身分で、あえて宰相の自分の名前を出し、必ず罪人を罰すると皆に示す。



「壊された物品の補償や怪我の治療も、宮廷に申請すれば受けられる。それで問題ないな?」



盗みや暴力を働かれた被害者の村人たちも、宮廷の宰相の名前は知っていたらしい。



「ま、まあ、ちゃんと犯人を捕まえて処罰するなら、なぁ」


「壊れた家のものも直してくれるなら別に……」



補償してくれるなら文句はないと、村人たちは顔を見合わせ、しどろもどろに返事をする。


ヴィンスが頷き、盗人の青年の方へと視線を向ける。



「すまない、ミア先生、ギルドのみんな……俺、ちゃんと罪は償うから……」



そこで言葉に詰まったが、しっかりと顔を上げる。



「そしたらまた、ここに遊びにきてもいいかな……?」



事態を見守っていたギルドの客たちは、顔を見合わせて口角を上げる。



「ここは暗黒街のギルド、無法者、荒くれ者、闇医者しかいねぇ。前科者が一人増えたところで関係ないよ」



眼帯姿のラシッド店長は愉快に言い、傭兵たち他の客もそれに頷く。



「ええ、もちろん。いつまでも待っているわ」



カレンがそう微笑むと、青年も情けなさそうに笑った。


母親を失って天涯孤独の青年も、少なくとも帰ってくる場所があると思えたのか、頷いて罪を償う覚悟を決めたようだった。

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