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27.皇帝からの赦し

「随分、暗黒街のことばかり議題に上げるな?」


宰相の上司に当たる、老齢の大臣は眼鏡を押し上げながら不服そうな顔をしている。


宮廷には直接関係無い政策に予算を使うのを渋っているようだ。


もしくは、代々由緒正しき大臣の家系の人のため、平民出身のヴィンス宰相を疎んじているのか。


しかし、その程度の反論など織り込み済みと言わんばかりに、ヴィンスは強く頷く。



「王都の近くに治安が悪い街があるのは、王都の住人、ひいては宮廷の皇族様方にも必ずしや悪影響が及びます。道のりは長いですが、まずは建物の修繕と食事の確保を」



前の壁に貼られた大陸の大きな地図。王都の横にある、地図には載らない暗黒街の場所を指差し、ヴィンスは強く説く。



「犯罪や暴力は、飢えから起こります。

 腹が満ちていれば、人はそう簡単に罪は犯さないでしょう」



若き宰相の言葉は、人を動かす力がある。


平民出身の宰相だからこそ、貧しい人たちにも寄り添ってくれるんだと、廊下から見ている侍女や使用人たちは、宰相に対して好意的な目で応援していた。


カレンも、その一人だ。



「皇帝、いかがでしょうか」


「うむ……」



玉座に座り足を組み、話を聞いていたレザンヌ皇帝は、顎髭を撫でながら思案している。真剣なヴィンスの顔と、大陸の地図を交互に見て、深く息を吐く。


最高権力者である皇帝の言葉は、何よりも重い。


その場に座る大臣をはじめ、宮廷内の役職持ちの者たちは、固唾を飲んで見守る。



「……近隣地の治安が悪いのは、長い目で見たら王都の発展にも害をなすだろう。ヴィンス宰相の言う通りにせよ」



ゆっくりと、レザンヌ皇帝はヴィンスを見つめ、頷いた。



「はっ! ありがたき幸せ」



ヴィンスは胸に手を当て、皇帝に向かい深々と頭を下げる。


外交や内省ならともかく、まさか皇帝が暗黒街の修繕にまで良しと言うとは思っていなかったらしく、保守派の大臣たちは驚きの声を上げていた。


しかしヴィンス宰相は姿勢を正して前を見ると、建設的に話を続けた。



「それでは、まずは職人と食料の確保を。

 交代制での炊き出しも行うため、食事を配る者の予定も順番に組みましょう」



的確に話を進めていく、有能で完璧な宰相。


ふと、廊下から会議を見学していたカレンと、ヴィンス宰相の目が合った。


音が出ないように小さく拍手をし、仕草で尊敬の念を表すカレンに、眉を下げほんの少しだけヴィンスが笑った。



(ヴィンス宰相、昼も精力的に働いてらっしゃる。

 しかも暗黒街のために動いている……! 私も、見習わなきゃ)



なんだか勇気を貰った気になったカレンは、胸を張り、宮廷内の仕事の続きに向かうのだった。

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