22.暗黒街浄化計画
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暗黒街で唯一明かりがついている店、ギルド『黒猫の足跡』に、カレンとヴィンス、救った子供三人で訪れる。
店の中には眼帯の若き店長ラシッドと、今夜も釣った魚を売りにきたらしきルイがいた。
「おいおい、今日は大所帯だな」
店長が驚き、五人分の椅子をまとめた席を作っていた。
「三人分のシチューとパンをお願い。
この前渡したお金がまだ残ってるわよね?」
『死神』ヴィンスを救った後に彼からもらった金貨の山は、店長に預けていた。
カレンが伝えると、了解、と頷いて店長はカウンターの中から三人分のクリームシチューをさらに盛り、バゲットとともに子供達の前に出してくれた。
「うわぁ……いいにおい……!」
「お腹減ってたでしょ、たくさん食べてね」
「うん!」
カレンが言うと、三人の子供は早速スプーンでシチューを口に運び出した。
ここのシチューは以前カレンも食べたが、じゃがいもやニンジン、鳥肉が時間をかけて煮込まれており、ほろほろと口の中でほどけてとても美味しいのだ。
「おいしい、お姉さん、ありがとう!」
「ふふ、助けてくれたのはそこの黒いお兄さんよ」
「お兄さんもありがとう!」
三人の子供達のキラキラとした視線が自分の方に一斉に向いたので、ヴィンスはああ、と返事をして肩をすくめた。
ルイと歳が近いからか、助けた少年二人と少女一人はルイと話して仲良くなっているようだ。
微笑ましくそれを眺めながら、そっとヴィンスはカウンターの椅子に座り、店長に話しかける。
「……今回は王都の商会で人身売買が依頼されていたようだ。
もちろん、裏社会のやつ向けの会員制だろうが」
「へぇ、王都のくせにえげつないことする奴がいるもんだ。
俺が気に食わない依頼は片っ端から断ってるからかもしれないな」
暗黒街のギルドとはいえ、依頼を仲介するのはラシッド店長だ。
明らかに犯罪目的なものや怪しいものは依頼人に突っぱねているらしい。
壁に貼られている依頼のポスターには、魔獣討伐、山で狩りをして肉や毛皮の納品、煉瓦の壁の修繕などが書かれている。
こちらの方がよっぽど健全である。
「あの、犯人たちが『暗黒街浄化』って言ってましたけど、あれはどういう意味なんですか……?」
カレンがずっと頭に引っかかっていた単語をカウンター越しに話しているヴィンスとラシッドに尋ねる。
『死神』ヴィンスに始末される際に、犯人の一人が口走った、怪しい言葉だ。
「そのままの意味だ。暗黒街に住んでいる住人や家を片っ端から排除して、橋を渡ったこの街までを王都にしようとする、貴族様たちの政策だな」
カウンターに座ったヴィンスが、頬杖をつきながら気だるげに語る。
昼に宰相の仕事をしている時は、背筋をしゃんと伸ばし執務をしているイメージがあるため、彼の砕けた仕草を見るのは新鮮だ。
「しかも、文字どおり浄化したいなら、住人を引越しさせて家を工事するとか、正当な手順を踏めばいいんだけど。奴らの汚いのは、使えるものは使う、売れるものは売っぱらってから全部潰そうとしているんだよな」
『暗黒街浄化』を名目としているのはラシッド店長の耳にも入っているらしく、ため息をつく。
「家に空き巣に入って、金目のものを盗っては露天商に売る、それが行きすぎて、無垢な子供も労働力として売る……ってね」
「そんな……酷い……」
後ろの席で美味しそうにシチューを食べている子供達も、そんな悪党の餌食になるところだったのかと思うと、カレンはゾッとした。




