23.シチューで温まる
「そんなの立派な犯罪じゃないですか。
どうにかできないんですか?」
カレンはヴィンスに言うが、彼を法の最高責任者の一人である宰相と知っているからで、『他言無用』の密約を思い出し慌てて口を閉じる。
ラシッド店長に、彼の素性がバレては元の子もない。
しかしヴィンスは咎めることなく答える。
「……王都の商会を通してはいるが、いかんせん規模が大きい。
町一つを消そうとしているのだからな。
金もかかるだろうから、黒幕も大体の目星はついている」
黒いフードに黒いマスク、目しか見えないヴィンスが、怒りを抑えながら話す。
「恐らくは貴族……それもかなりの資産家だろう」
暗黒街を襲う怪しい奴らの動向、そして、宰相の昼の仕事を通しての貴族たちの知識があるヴィンスは、苦々しそうに呟く。
「まあそうだろうね。
そんな相手からこの暗黒街を守ってくれるのかい?『死神』さん」
ラシッド店長はグラスを拭きながら相槌を打つ。
「不本意だが、俺以外にできる人もいないだろう」
職が無く、自分の明日の食料にも困っている人が多い暗黒街で、貴族たちの餌食にならずに台頭できる力と知識を持っているのは、確かに彼しかいない。
「ミア、君にも助けてもらうことも多いだろうが、よろしく頼むよ」
頬杖をつきながらの『死神』からのお願いに、ミアと呼ばれたカレンは大きく頷く。
「はい、もちろんです!
怪我人、病人がいたら直ちに私を呼んでください!」
胸に手を当てカレンが高らかと答えると、
「それは頼もしいな」
と、ヴィンスも合わせて少し笑ったようだった。
「せーの、ごちそうさまでした、ありがとうございました!」
三人の子供が声を合わせ、空っぽになったシチューの容器をカウンターに持ってきた。
「とてもおいしかったです!」
「みんな、お腹いっぱいになってよかったね」
「はい!」
さっきまで泥で煤けて、顔色が悪かった彼らも、満腹になったからか頰には赤みが差し、血色も良くなっていてカレンは安心した。
「またお腹が空いたり、怖い人がいたら、遠慮なくこのお店に来てね。
私や黒いお兄さんや、店長がいるから」
「うん!」
「おいおい、この店は荒くれ者の集うギルド。
子供の託児所じゃないんだぞー」
ラシッド店長が呆れたように言うが、
「あら、誰のお金で窓の修理やストーブが買えたんですか?」
とカレンが腕を組んで、ふふん、と胸を張る。
「はいはい、闇医者先生のおかげでした」
そう言うと、子供たちを含めたその場にいた全員がおかしそうに笑った。
カウンターのヴィンスも、そんなカレンの伸び伸びした様子を見ながら、マスクの下では口角を上げている。
暗黒街のギルドは、シチューの優しい香りに包まれて、どこよりも暖かい空間になっていた。




