第21話 デート③
手作りパンが焼けるまでの間、私とイヴァンは昼食を食べることにした。時間的には少し早めの昼食になるけど、混み始める前に食べておくのも1つの手だと思う。
牧場のアミューズメント施設なだけあって、メインメニューは乳製品やお肉料理がほとんどらしい。しばらく悩んだ末に、私はチーズとトマトをたっぷり使ったバジルのピザを、イヴァンはテルシア高原産カウモー肉100パーセントのハンバーガーとポテトフライを選んだ。
私は席の確保を頼まれ、人目を避けた端の方の窓際の席を選んだ。窓の先には広大な牧草地が広がっていて、先ほど見かけた羊の群れが再び視界に入る。
しばらく外を眺めていると、視界の端にトレイを持ったイヴァンの姿が見えた。一国の王子に給仕のような真似をさせてもいいのだろうかと気になったけど、デートである以上これが普通なはず。イヴァンは気にしている様子はないから、私もそう振舞うのが良いだろう。
「お待たせ。こっちがアメリアのトレイだ。」
「ありがとう、イヴァン。」
私はお礼を言って、彼の手からトレイを受け取る。そこには焼きたての熱を持ったトマトチーズピザがあり、香ばしい匂いが食欲をそそる。
「それでは、いただきます!」
「いただきます!」
私はピザを一切れ持ち、口に運ぶ。口の中にトマトの酸味が広がり、チーズのまろやかさとバジルの清涼感を感じる。思わず頬張ってしまったので、熱さに耐えながら咀嚼をする。
ちらっとイヴァンの方を見てみると、大きな口を開けてハンバーガーを頬張っていた。いつもは年相応の男性という感じなのに、食事をしているその姿は幼い男の子のように見えて微笑ましさを感じた。
「…ん?どうした?ハンバーガー食べてみるか?」
「え?」
「いいぞ!ほら、遠慮するな。」
私が物欲しそうに見えたのかもしれない。そう言うとイヴァンは、ずいっと私にハンバーガーの包装紙を押し付けてきた。遠慮するのもしないのも気が引ける。私は素直に受け取り、ハンバーガーにかぶりついた。少し大きめに噛み切ってしまったけど、そのまま咀嚼をする。柔らかいお肉とマヨネーズの組み合わせが絶妙で、噛むたびに旨味を感じる。
視線を感じて、イヴァンの方を見てみる。イヴァンは私の顔を優しい眼差しで見ていて、少し、いやかなり恥ずかしかった。
「イヴァンも、良かったら私のピザをどうぞ。」
「ん、良いのか?ではいただこう。」
イヴァンは私のお皿から一切れピザを持っていき、口に入れる。ピザを食べるときって所作が雑になりがちだけど、イヴァンは一挙手一投足が綺麗に見えた。贔屓目もあるかもしれないけど、私みたいに具材をこぼしかけたり口の端にソースを付けたりはしていない。
「ん、こっちも上手いな。特にトマトが美味しい!」
「酸味と旨味が良い塩梅ですよね!あ、イヴァンのハンバーガーもありがとうございました。お返ししますね。」
私は言葉を返しながら、ハンバーガーもイヴァンに返した。ポテトフライも食べていいぞと差し出されたので、お言葉に甘えて数本貰うことにした。
「学生時代に、何度か友達と下校途中にハンバーガーの専門店に寄ったことがあるんだ。」
「意外ですね、イヴァンって品行方正なルールと規律を重んじるタイプかと思いました。」
「…俺ってそんなに生真面目そうなやつに見えるか?」
「ふふ、冗談です。すみません、軽口ですよ。」
それを聞くと、イヴァンに軽く指で突かれた。私はくすぐったさに笑い、彼にも同じことをやり返した。
「友達と食べるご飯も美味しかった。だけど、今お前と食べているこの昼食が、人生で一番美味しいかもしれない。」
「わ、わわ…わあ…。ワタシモデス…。」
イヴァンは日常会話と変わらないことを言ったかのような表情で話をしている。息をするように口説き文句を言われて、私は謎の言語しか発せなくなる。眩しい、彼の笑顔が、言葉が、全てが眩しい。
私は顔を赤くしながら、ちびちびとピザを口に入れた。
◇◇◇
昼食を食べ終わり、先ほどの体験教室の建物に完成した手作りパンを取りに行った。お互い満足のいく出来に仕上がり、完成したパンを見せあって自慢を繰り広げた。
そのまましばらく会話をしながら歩き、私たちは動物触れあいコーナーへ足を運んだ。
「モルモット、久しぶりに触れた気がします…!ウサギとも猫とも牛とも羊とも違うこのもふもふ、匂い、えへへ、えへへ…。」
「アメリア、涎が出ているぞ。」
「うそ!?」
「嘘だ。」
「もう!」
私は思わず大きな声を出してしまい、咄嗟に口元に手を当てる。モルモットたちをびっくりさせてしまったかもと心配したが、これくらいの声量では驚かないらしい。肝が据わっている子たちだなと思いつつ、ストレスになりかねないから自重しようとは思った。
「なあアメリア。こいつの柄、シフに似ていないか?」
「え?…あ、本当だ。モルモット版のシフみたい!」
イヴァンが抱きかかえてきたのは、黒と白の毛並みのモルモットだった。顔に入っている模様がブランディ牧場で飼われているぶち猫のシフそのものであり、私は勝手に親近感を覚えた。
モルモットも吸いたいな。でもここ公共の場だしな。影でやるならいいかな。いややめておこう、流石に今は違う気がする。それに、今日はメイクをしているから、化粧品がモルモットに付いてしまうのは避けたい。
「お前は俺と似たような毛色だな…こら、逃げるな、待て、ああ…!」
イヴァンは自分の髪色と似た毛色のモルモットを見つけて逃げられていた。その様子が可笑しくて、私は思わず笑ってしまう。
「モルモット・シフを撫でろってことですよ。ほら、シフもこっち見てるじゃないですか。」
「こいつはシフだけどシフじゃない…!」
悔しそうにそう言い残すと、イヴァンはモルモットたちの顔と名前が載っている看板を見に立ち去ってしまった。私はその場に残り、モルモット・シフを撫でる。
しばらくすると、看板を眺めていたイヴァンが帰ってきた。やはりここでも一部の人たちにチラチラと顔を見られていた。多分というか確実にバレていると思う。
「こいつの名前が分かった。ムーランというらしい。シフじゃなかったな!」
何が誇らしいのか分からないけど、イヴァンは自慢げにシフ…改めムーランを撫でる。私たちはしばらく触れ合いコーナーに滞在し、もふもふを満喫した。




