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第19話 デート①

イヴァンにデートに誘われてから、予定が決まるまで結構な日数がかかった。王族としての公務が立て続き、調整できる日すら無かったのだ。


午前9時頃。私たちは王都から少し離れた、時計台のある広場で待ち合わせをしていた。私は何度目か分からない手鏡を取り出し、自分の見た目を確認する。


(前髪は…崩れていない。メイクもばっちり。)


私はいつも仕事で汗と泥に塗れるから、メイクは基本しないで最低限のスキンケアのみで生活をしている。イヴァンにはノーメイク姿を存分に見られているけど、流石にデートにノーメイクで来る勇気はなかった。



ふと見上げた青空を見て、あの日のイヴァンのプロポーズのような言葉を思い出す。彼の茶化すでもない真剣な眼差しを思い出し、私は1人赤くなる。


キルベキア王国にいる時代、私は平民でありながら聖獣使いが故に特権を与えられ、王族であるあの人と婚約をした。だけど、ラルヴァクナ王国にいる今はそんな制度はないため、私は特殊な役職にはいるものの平民であることに変わりはない。


イヴァンは本気で私と結婚する気があるとは言っていた。しかし、周りの人間はそれについてどう思うのだろうか。王族に限らず、地位のある家柄の人は基本的に同じような立場の人間を結婚相手に選ぶことがほとんどである。


もし私とイヴァンが両想いになったとして、その先に進むことはできるのだろうか。


などと考えていると、見覚えのある人影がこちらに走ってくるのが見えた。私は軽く手を振り、あちらに合図を送った。


「遅れてすまない!出発間際に大臣に捕まって、身動きが取れなくなっていた!…いや、何を言っても言い訳にしかならないな。」

「いいえ、大丈夫です。私も着いたばかりですから。」

「それでも待たせたんだ、謝らせてくれ。」


大きな体を小さくしながら謝っているイヴァンを見ていたら、何だか可愛いなと思ってしまった。私は本音を心の中に隠し、気にしていない素振りを前に出す。この話の流れを変えようと、私はある疑問をぶつけた。


「そういえば、今日はボディガードの方たちはみえないんですね。」


そう、いつもイヴァンの後ろで待機しているボディガードらしき人たちの姿が見えないのだ。私は辺りをキョロキョロと見回してみたけど、やはりそれらしい人はいない。


「一般人に紛れているだけで、この場にいるぞ。」

「え!?本当!?」

「ああ、いつものことだ。何か起きない限り、俺たちに関わってこない。安心していいぞ。」


何がどう安心していいのかよく分からないけど、私はコクコクと頷いた。

イヴァンは『お手をどうぞ。』とスマートに手を出してきた。私は手汗を乾かすように、手をパタパタさせてからその手を差し出した。指先だけを握るようにしてみたが、がしっと大きな手に掴まれてしまった。


「…イヴァン、王子様みたいですね。」

「ははは!みたい、じゃなくて本当に王子なんだけどな?」


イヴァンは茶化すように私の軽口に返答する。このやりとりが心地良いと共に、少し気恥ずかしかった。


◇◇◇


私たちは広場を出たところで馬車を止め、乗り込み目的地を伝えた。場所の名前は”テルシア牧場”というだった。

馬車に揺られながら、私たちは会話を交わし合う。馬車の車輪の音と馬の蹄の音が響き、何とも言えない趣を感じる。


「牧場デート、私たちらしいですね。」

「牧場と名前は付くけどな、正確には牧場が併設されているアミューズメント施設だ。」

「アミューズメント施設?」

「ああ。手作りのパンやソーセージが作れる体験教室、動物たちとの触れ合いコーナー、広大な敷地に広がる満天の花畑。あっという驚きやインパクトには欠けるかもしれないが、俺はそんな牧歌的なところが気に入っている。」


私はイヴァンの発言から想像を膨らませ、胸を躍らせる。

手作りのパン教室はとても興味深い。当日参加も可能なのだろうか、是非ともやってみたい。

触れ合える動物というと、やはりモルモットやウサギなどの小動物だろうか。ブランディ牧場でウサギとは触れ合い慣れているけど、仕事で触れるのと娯楽で触れるのはまた違う感覚があるだろう。何より、もふもふはいつでも何度でも摂取して問題ない。

実は私、あまり花畑というものを見たことがない。幼いころから動物一筋で、両親もそこそこの年齢で亡くなってしまったため、早々に聖獣使いとして職に就いた。自然の花畑は数回ほど見たことあるけど、あれはどちらかというと野草の群生に近い。


「どうした?静かに目を輝かせて。」

「えっ!?そんなに顔に出ていましたか!?」

「ああ、爛々としていたぞ。そんなに楽しみにしてもらえると、誘ったかいがあったな。」


私は恥ずかしくなって俯きモゴモゴしてしまった。子供っぽいと思われただろうか。


「すみません、年甲斐もなくはしゃいで…。」

「いや、全然構わない。むしろ、そんなに楽しみにしてもらえて俺も嬉しい。共に楽しめるといいな。」

「はい…はい!」

「それに、お前の奇行はブランディ牧場で見慣れている。今更何に幻滅する必要がある?」


奇行を見慣れていると言われて、思わず喉がひゅっとなる。そうだ、この人には散々痴態を晒している。私は今更何を恥ずかしがっているのだろうか。


「…それにしても。」

「?」


イヴァンは視線を彷徨わせ、何かを言いたそうにしている。私は彼の言葉を待ち、持っていた鞄の持ち手をゆっくり握りしめた。


「化粧で着飾っているお前の姿は美しいな。普段の姿も綺麗だが…いや、忘れてくれ。」


イヴァンは顔を真っ赤にしながら尻すぼみになっていく。私は彼の言葉の意味をはっきり認識し、一気に顔が火照った。何だこの空間は。暑い、暑い気がする!


「…イヴァンも格好いいですよ。今日も、いつでも。」

「え?」

「はっ…!忘れてください!」


ただでさえ赤い私の顔が、更に赤くなっていくのを感じる。私は苦し紛れに手で顔を仰ぎ、『今日は気温が高いですね!?』などと口走る。


牧場までの道のりは、まだまだ長い。

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