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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第四章 モンスターバトル編

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第200話 釣りの終わり

「そろそろいい時間だ。陸に戻るか」


 時計を確認しながら帝が言った。空はすっかり茜色に染まり始めている。


 海面に夕陽が反射し、赤金色の光が揺れていた。

 確かにそろそろ戻った方がいいかもしれないな。


「楽しかったよ。たまにはこういうのもいいもんだねぇ」


 鬼姫が満足そうに肩を回す。今日は大物も釣り上げていたし、かなり満喫できたんだろう。


「若の姐さんにそう言って貰えると、海に出た甲斐があるってもんですね」


 加治木さんが嬉しそうに笑う。


「――おい鯛蔵(たいぞう)。その呼び方は」

「ハッ! しまった! 申し訳ありません!」


 加治木さんが慌てて頭を下げた。


 一瞬だけ鬼姫の空気が鋭くなった気がしたが、すぐにふっと肩の力を抜く。


「ふぅ……まぁ仕方ないね」


 どうやら普段は外で使わない呼び方なんだろうな。

 若の姐さん、か――。

 何となく鬼姫の昔の姿を想像してしまう。


「ハ~ルさん♪」

「わわッ!?」


 突然タマが後ろから抱きついてきて思わず変な声が出た。


 柔らかい感触と甘い匂いが一気に押し寄せる。

 こ、この子、いつも距離感がおかしくないか!?


「もう~(ヘッド)のことそんなに見て~」


 タマが拗ねたように俺の顔を覗き込んでくる。


「言っておくけどぉ~(ヘッド)には想い人がいるから狙っても無駄なんだよ~?」

「ん? いや、そんなことはないけど――桜ちゃんもいるし、もう結婚してるんじゃ?」

「あ――」


 タマの顔が固まった。

 そして次の瞬間、露骨に目を逸らす。


「ご、ごめんね! 今のナシで!」

「――あぁ。大丈夫。プライベートを詮索するほど野暮じゃないから」


 何か触れてほしくない事情があるんだろう。

 誰にでもそういうことはある。

 そこを無理に聞くほど空気が読めないつもりはない。


「……今日の釣り、楽しかったね」


 タマが一旦俺から離れ、海を見ながらぽつりと呟いた。


 夕焼けに照らされた横顔は、いつもの軽い雰囲気と少し違って見える。


 なんというか――妙に大人っぽい。

 不覚にも少しドキッとしてしまった。


「ワン!」

「ピキィ♪」

「ゴブゥ」

「マァ~♪」

「モグゥ……」


 モコたちも満足そうに鳴いていた。

 ただモグだけはちょっと眠そうだ。


 かなり遊び回っていたからな。


「おっと、大丈夫~?」


 タマがモグをひょいっと抱き上げる。

 そして優しく頭を撫で始めた。


「モグゥ……♪」


 モグが気持ちよさそうに目を細める。

 ぬいぐるみ扱いされてる気もするけど、モグ本人が満更でもなさそうだからいいか。


「ハルさん。また遊びに行こうよ」

「あぁ。そうだな。今度は秋月や皆も誘って遊ぶのも楽しそうだ」

「――はぁ……」


 何故かタマが盛大にため息を吐いた。


「ハルさんって本当にそういうタイプだよねぇ……」

「え? 何が?」


 聞き返したけど、タマは「別にぃ~?」と返してくるだけだった。


 なんなんだ一体。


「うん! でも皆で海もいいよね! 夏だし!」

「海か。確かに時期的にも良さそうだな」


 七月に入ったばかりだし、海遊びには丁度いい時期かもしれない。


「海いいじゃないか。だったら夏合宿も兼ねて行くとするかい」


 鬼姫が面白そうに笑った。


「合宿ぅ!? (ヘッド)ぉ~! たまにはそういうの無しでもよくないですかぁ~?」

「いいわけないだろう! 冒険者として鍛錬は欠かせないんだからな!」

「そんなぁ~!」


 タマが露骨に嫌そうな声を上げる。

 だけどその横で――


「合宿上等! 今年も夜李鬼流(やりきる)ぜ!」

「――風間夫婦に追いつけるよう頑張るッ」


 十五夜と竹取はやる気満々だった。

 特に十五夜なんて拳を突き上げて完全に気合十分だ。


「おぉ……気合入ってるな」

「毎年かなりハードだからねぇ」


 鬼姫が苦笑する。


 いや、その様子を見る限り、苦笑で済むレベルじゃない気もするんだが。


「そうだ! だったらハルさんも合宿に参加しましょうよ! それがいいよ!」

「え!? いや、俺が参加したら迷惑だろうし」

「別に構わないよ。うちは来るもの拒まずだからね」

「参加上等!」

「風間の姓を持つ者として歓迎する」


……なんだか俺も参加する流れになってる気がするな。


 というか竹取よ。


 その“風間夫婦”って実は俺の両親なんだが――まぁ今ここで言う必要もないか。


「皆はどう思う?」


 俺が聞くと、モンスターたちが一斉に鳴いた。


「ワン!」

「ピキィ!」

「ゴブッ!」

「マァ!」

「モグゥ……」


 どうやら皆も乗り気らしい。

 モグは半分寝ながら返事してるけど。


「そうだな。わかった。考えておくよ」

「おう。決まったら早めに連絡頂戴」


 鬼姫が笑顔で答える。


 すると――タマがまた耳元へ顔を寄せてきた。


「おニューの水着、用意して待ってるからね――♪」


 甘い声でそんなことを囁かれた。

 おニューの水着。

 み、水着って――いやいやいや!


 危うく変な想像しかけて慌てて頭を振る。

 駄目だ。

 タマは本当にペースを乱してくる!


 そんな俺を見て、タマはくすくす笑っていた。

 その間にも、帝の操縦するDAIKI号はゆっくりと港へ近づいていく。


 茜色の海を進むクルーザーを眺めながら、俺は今日一日の出来事を思い返していた。


……うん。かなり騒がしかったけど、最高の休日だったな。

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