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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第四章 モンスターバトル編

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第198話 午後も釣り

 昼食を終えた俺たちは、再びクルーザーに乗り込み午後の釣りへと向かった。

 今度は鬼輝夜の四人も加わり、甲板はさらに賑やかになっている。


「釣りなんて久しぶりだねぇ」


 そう言いながら鬼姫がロッドホルダーを覗き込み、一本一本確かめるように手に取っていく。

 無骨な雰囲気の彼女だが、道具を選ぶ指先はどこか慎重で、懐かしむような柔らかさがあった。


「姉弟で一緒に行ったりしてたのか?」

「昔はね。男と混じって遊ぶことも多かったし、あいつも――いや、とにかく暫くぶりだよ」


 一瞬、言葉が止まる。

 その横顔はほんの少しだけ遠くを見ているようだった。


……聞きたい気持ちはあったが、ここは踏み込まないほうがいい気がした。


「ハルさ~ん。釣り餌刺すの無理~お願い助けて~」


 次の瞬間、柔らかい感触が腕に絡みつく。

 タマが上目遣いでしがみついていた。


「む、虫が苦手なのか?」

「そうなんです~だから~」


 瞳をうるうるさせるタマ……わかっていても破壊力が高い。


「ん」


 そこへ、竹取が無言でロッドを差し出した。

 すでに餌がきれいに付いている。


「えっと、付けてくれたってこと?」

「ついでだから」


 竹取はすでに自分の準備も終えている。

 長身の彼女はロッドを構える姿も様になっていて、どこか海の似合う女性だった。


「あ、ありがとう」

「おいタマ。普段蟲系モンスター見ても平気なんだから、それぐらい大丈夫だろう」

「ちょ! (ヘッド)! シィ~!」


 鬼姫の暴露に、タマが慌てて口元に指を当てる。


 一方。


「十五夜、もしかして釣り餌苦手なのか?」

「な! ば、馬鹿いってんじゃないよ! これぐらい平気に、き、決まってるだろ!」


 帝の問いかけに強がる十五夜。

 だが、餌を掴もうとする指先が小刻みに震えている。


……これはガチだな。


「ちょっと貸してみろ」

「あ、ちょ!」


 帝が手際よく餌を付ける。


「よ、余計なことしやがって」

「悪かったな」


 軽く頭をぽんと叩かれ、十五夜の顔が一気に赤くなる。


「こ、子供扱いするな!」

「わかったわかった」


 帝が肩をすくめて戻ってくる。

 その様子に鬼姫がニヤリと笑っていた。


……なんだろう、見ていて妙に和む。


「さて、午後も頑張るか」

「ワンワン!」

「ピキィ♪」

「マァ~♪」

「ゴブゥ!」

「モグゥ~」


 再び仕掛けが海へと投げ込まれる。


 鬼姫は鋭い動きでキャストし、早速ヒット。

 モコが素早く網を構えて補助する。


「いい連携だな」

「伊達に姉貴やってないよ」


 鬼姫が豪快に笑う。


 ラムは麦わら帽子をかぶり、ちょこんと座ってプルプルと楽しげにロッドを握っている。

 夏の日差しを浴びたその姿は、完全に“海のマスコット”だ。


 ゴブは竹取と並び、いつの間にかサングラス姿。

 二人で黙々とルアーを投げ合い、釣果を競っている。


「勝負だ」

「ゴブッ!」


 静かな火花が散っていた。


 タマはモグと並び、時折モグを抱きしめながら釣り糸を垂らしている。


「可愛い~。モグちゃん、絶対釣ってね~」

「モグゥ!」


 完全にぬいぐるみ扱いだ。


 帝は十五夜の様子をちょくちょく確認し、糸の絡まりを直してやったりしている。

 そのたびに十五夜は「別に頼んでない!」と騒ぐが、満更でもなさそうだ。


「お、マール引いてるぞ」

「マァ♪」


 俺の隣で小さく座っていたマールが嬉しそうにリールを回す。


 だが次の瞬間、強烈な引き。


「マール!」

「マァ~~!」


 ロッドが大きくしなる。

 俺は慌ててマールを抱き寄せ、ロッドを掴む。


「こりゃ大物だ!」

「焦るな。テンションを保て」


 帝が冷静に指示を飛ばす。


 慎重に、慎重に――


「うわっ!」


 次の瞬間、急に抵抗が消えた。


 糸が切れた。


「失敗かぁ~」

「マァ~」


 俺とマールは同時に空を仰ぐ。


 かなりの重量だった。

 間違いなく大物だ。


……その直後だった。


 ドンッ。


 船体に何かがぶつかる。


 ドンッ、ドンッ。


 クルーザーが左右に揺れ始める。


「……来たか」

「まさか――このあたりの主か!」


 加治木さんが低く呟く。


「知っているのかい真黒武!」


 鬼姫が食いつく。


 加治木さんは海面を睨みながら口を開いた。


「この港の沖にはな、昔から“主”がいるって噂がある。でかい影が海底を横切るのを見た奴がいるとか、船底を叩いて去っていったとか……」

「姿は?」

「誰も見てねぇ。釣り上げた奴もいない。ただ、糸を全部持っていかれたとか、ルアーごと消えたとか……そういう話ばかりだ」


 船体が再び揺れる。


 海面の下に、巨大な影が通った気がした。


「……面白いじゃないか」


 鬼姫が笑う。


 俺はロッドを握り直した。


 午後の釣りは、どうやら穏やかなままでは終わらなさそうだ。

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