第197話 港の調理場
帝に案内されて向かった先には、港の一角に建つ大きな建物があった。
中に入ると、手前が調理スペース、奥が飲食スペースときれいに区切られている。
どちらも想像以上に広く、複数のグループが同時に使っても余裕がありそうだ。
実際、すでに二組の男女が調理をしていたが、俺たちが加わってもまったく窮屈さは感じない。
「ご一緒させていただいても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ」
「ここ、広くて使いやすいでしょう?」
声をかけると、どちらのグループも気持ちよく応じてくれた。
どうやら慣れた常連らしく、雰囲気も穏やかだ。
調理場に入り、クーラーボックスを開けて釣ってきた魚を並べる。
「俺も捌くよ」
「え? ハルさん、料理できるんですか?」
帝にそう伝えたところで、タマが目を輝かせて身を乗り出してきた。
……いや、身を乗り出すというか、腕に絡んでる。
「ま、まぁ独身長いしな。山でもキャンプ飯くらいは作るから」
「すっご~い。見ててもいいですかぁ~?」
「別にいいけど」
「いいわけないだろ。あんたも手伝うんだよ」
「えぇ~!? いいじゃないですか、見てるだけでも~」
「いいから下ごしらえ!」
鬼姫に襟首を掴まれ、タマはずるずると別の作業台へ引きずられていった。
「あんたも大変だな」
「ワン」
「ピキィ」
「モグゥ」
「ゴブ~」
「マァ~」
帝の一言に、モンスターたちが揃って頷く。
……俺、どんな目で見られてるんだろう。
気を取り直して、全員で調理開始だ。
俺と帝は魚を捌き、三枚に下ろしていく。
ゴブは隣で黙々と下処理を担当し、内臓や血合いを丁寧に処理していく。
その横では竹取が包丁を持ち、ゴブの作業を自然にフォローしていた。
無言ながらも息が合っていて、完全に職人同士の空気だ。
一方、十五夜は野菜担当だ。
「はいはい、ここ押さえて……って、えらいねぇ」
「小学生なのに、こんなにお手伝いできるなんて」
隣のグループの女性にそう言われ、十五夜がぴくりと反応する。
「ち、違う! 小学生じゃない!」
「えっ!? あ、ごめんなさい!」
「私は冒険者だ! れっきとした戦力だ!」
顔を赤くしてムキになる十五夜に、周囲からくすくすと笑いが漏れる。
「背が小さいだけだ。気にするな」
「気にする!」
帝が十五夜の頭に手を置くと、彼女は声を張り上げた。そのやり取りを横目に、モコとマールは皿を運んだり、簡単な洗い物を手伝ったりと慣れた動きだ。
ラムは調味料の場所を覚えたらしく、必要なものをぴょんぴょんと運んできてくれる。
モグは床下の汚れを布巾で拭いてくれている。気が利くな。
「ハルさ~ん、すごい手際ですね~」
気づくと、タマがまた覗きに来ていた。
包丁さばきをじっと見つめている。
「普段からこんな感じなんですか?」
「まぁ、今は皆の分も一緒に作ってるからな」
「へぇ~風間さんって生活能力高くて~頼りになりますねぇ」
意味ありげな視線を向けられ、背中に変な汗が流れる。
そうして、焼き魚、煮付け、刺身、潮汁と、あっという間に料理が完成した。
テーブルに並べると、他のグループからも感嘆の声が上がる。
折角なので先に来ていた二組と料理をシェアすることになった。こちらも結構な量になったので丁度よい。
「うわ、美味しそう」
「釣りたてでこれは反則だな」
「いただきます!」
一斉に箸が伸び、港の調理場は一気に賑やかになった。
「……美味しい」
「うん、これ本当にプロじゃない?」
「ワン!」
「ピキィ!」
「マァ~」
「ゴブ~」
「モグゥ!」
モンスターたちも満足そうに食べている。
その様子を見て、タマが大きく頷いた。
「やっぱりですねぇ……」
「え?」
「結婚するなら、料理できる男性が一番ですよ」
「……え!?」
思わず箸を落としそうになる。
「ちょっとタマ、何言ってるんだい」
「本音ですよ~?」
「からかうな」
鬼姫にたしなめられつつも、タマはにこにこと笑っている。
俺はただ、どう返せばいいかわからず、必死に味噌汁を飲み干した。
こうして、賑やかで少し騒がしい昼食は、笑い声と満腹感に包まれて終わったのだった。




