第196話 鬼輝夜との合流
釣りは相変わらず好調だった。
クーラーボックスを開ければ、午前中だけで十分すぎるほどの釣果が収まっている。
アジ、サバ、ベラ、そしてモグが格闘の末に釣り上げたタコまで――。
潮と日差しに恵まれた、まさに絶好の釣日和だ。
「姉貴か。あぁ、今はハルさんと一緒だ。ちょっと釣りに来ててな……こっちに? あぁ、わかった。ちょうど一度戻ろうと思ってたところだ」
帝がスマフォを耳に当てたまま、短く応じる。
通話の内容から察するに、相手は鬼姫だろう。
通話を終えた帝が、こちらに向き直った。
「姉貴たちも近くにいるらしい。様子を見に来るそうだ。昼時だし、一度港に戻ろうと思うがどうだ?」
「もちろん。俺たちは帝の判断に従うよ」
「ワン!」
「ピキィ♪」
「マァ~」
モンスターたちも賛成の声を上げる。
社員の三人も異論はないようで、揃って頷いていた。
「ちょうどいい。戻ったら、釣った魚で昼にしよう。停泊所の近くに、自由に使える調理場がある」
「なるほど……そこまで揃ってるのか」
帝の話に感心する。
調理用の包丁やまな板も常備されているらしい。
とはいえ、全部任せきりというわけにもいかない。
俺たちも手伝うつもりだ。
そうして帝の操船でクルーザー《DAIKI号》は港へ戻り、桟橋に接岸した。
下船したそのタイミングで――低く唸るようなエンジン音が近づいてくる。
「見計らったように来たな」
帝がそう呟いた直後、ナナハン二台が港に滑り込んできた。
二台ともニケツだ。
停車し、ライダーたちがヘルメットを外す。
鬼姫が軽く頭を振ると、金色の長い髪が陽光を受けて揺れた。
黒を基調としたライダースーツ姿が、相変わらずよく似合っている。
「ハルさ~ん! やっほ~い!」
鬼姫の後ろから降りたタマが、元気よく手を振って駆け寄ってきた。
――いや、駆け寄ってきたというか、距離が近い。
体にフィットしたライダースーツが、はっきりとボディラインを強調している。
特に胸部の存在感が、いや、違う違う。俺は何を考えてるんだ。
「ふぅ~……今日は暑いですよねぇ~」
タマがそう言いながら、首元のファスナーを少し下ろす。
……なぜ今、その動作を!?
理性が警鐘を鳴らす。
「それにしても、揃いも揃って暇そうだな」
帝がそう語りかけると鬼姫が腕を組み返事する。
「今日はたまたまだよ。昨日はしっかり依頼をこなしてきたからね」
そんな会話の横で、タマが再び俺の隣にぴったりと立つ。
「今日はアキちゃんは一緒じゃないんだね?」
「あ、あぁ。道場で鍛えてもらうって言ってた」
「へぇ~……そうなんだぁ~」
タマが意味深な笑みを浮かべる。
気のせいか、その目の奥に小悪魔が見えた。
「かなり釣れてるな」
鬼姫がクーラーボックスを覗き込み、感心したように言う。
「えぇ。午前中だけでこの量ですわ。午後も期待できますよ姉御!」
「鯛蔵、相変わらず元気だな」
そんなやり取りを横目に、鬼姫はふとクルーザーへと近づいた。
船体に刻まれた文字に、そっと手を伸ばす。
「……元気そうで何よりだな。DAIKI……」
優しく語りかけるような声だった。
懐かしむような、どこか遠い目をしているのが印象的で、俺はそれ以上踏み込まなかった。
「ハルさ~ん。午後から、私にも釣り教えてくださいよ~」
その声と同時に、タマが俺の腕に絡みついてくる。
――やばい。本気でやばい。
「そ、そうだ帝! 昼の準備が必要だろ? 俺たちも調理するから、早めに行こうぜ!」
ほぼ反射的にそう言い、俺は帝の腕を掴んで歩き出した。
「……あ、あぁ。そうだな」
帝も状況を察したのか、特に突っ込まずについてきてくれる。
モンスターたちも後ろからぞろぞろとついてきた。
とにかく――料理だ。
魚を捌いて、火を使って、頭を冷やさないと。
そう心に決めながら、俺たちは港の調理場へと向かった。




