第193話 ついてくる黒塗りの車
帝からの誘いを受け、俺たちは早速準備して釣りに行くことになった。
出来るだけ動きやすく汚れてもいい格好に着替えてから外へ出る。
帝が運転してきた車は黒のオフロード車で、見た目もがっしりしていて頑丈そうだ。
車内は広く、シートも柔らかい。これならモンスター全員が乗っても余裕だ。
荷室には釣り竿や仕掛け、エサ箱、クーラーボックスが綺麗に並んでいた。
「出発するぞ」
「ワン♪」
「ピキィ♪」
「マァ~♪」
「ゴブ~♪」
「モグ~♪」
エンジンが唸りを上げ、車が滑らかに走り出す。
モコが窓の外を眺め、風に耳をなびかせる。ラムは助手席の隙間から顔を出し、道路を興味深そうに見ていた。
山道を下って公道に出たところで――ふと違和感を覚える。
「……何か黒塗りの車がついてきてないか?」
ルームミラー越しに見えるのは、黒く光るセダン。
偶然かと思ったが、一定の距離を保ってぴたりと後ろにつけている。
「あぁ、うちの社員だな。気にしなくていい」
「そ、そうなのか」
運転席と助手席にはサングラスをかけた厳つい男たち。
なるほど、帝は金貸しをやっているんだったな。
……いや、気にするなと言われても、どうしても気になるけど。
とはいえ、帝は平然と運転を続ける。
車内は静かで、BGM代わりに流れるカーラジオからは釣り特集が流れていた。
途中、帝がコンビニに寄ってくれることになった。
看板の横には【モンスター同伴可】の表示があり、少し安心する。
「よし、みんなも降りるか。飲み物買ってこよう」
モコたちは嬉しそうに車を飛び出した。
コンビニの入り口に差し掛かると、店員の女の子が思わず目を丸くする。
「えっ……か、かわいい……!」
モコがちょこんとお辞儀し、ラムがぷるんと揺れて「ピキィ♪」。
マールは棚に並ぶお菓子を興味深そうに見つめ、ゴブは真面目な顔で「ゴブ?」と商品ラベルを読んでいた。
モグはというと、床の冷気が気持ちいいのか、ペタンと伏せて気持ちよさそうにしている。
「モグ。店内で横になるのは駄目だぞ」
「モグゥ~……」
持ち上げて注意すると申し訳なさそうにしていた。わかってくれたなら問題ない。
「気をつけてくれれば大丈夫だから」
「モグゥ♪」
頭を撫でると嬉しそうに頭を擦り付けてきた。可愛い。
「モンスターたちも一緒なんですか?」
と店員が笑顔で声をかけてくる。
「ええ。よく一緒に出かけるんですよ。今日は釣りに行く予定で」
「へぇ~! いいですね! うちの店長も釣り好きで、たまに夜釣り行ってるんですよ」
世間話をしつつ、俺たちはそれぞれ飲み物を選んだ。
ラムはラムネの瓶をじっと見ていて、どうやら気に入ったらしい。名前が似てるからか?
「これも買っておこうか」
「ピキィ♪」
そんな感じで会計を済ませ、帝の分の飲み物も一緒に購入した。
店員は最後まで笑顔で手を振ってくれ、モコとモグも尻尾を振り返していた。
「少し待っててくれ。車にいていいから」
帝が俺たちにそう言い残し、黒塗りの車へと向かう。
俺たちは車に戻り、冷えた飲み物を配ってひと息ついた。
しばらくすると、コンビニの中からサングラスの黒服男が出てきて、こちらへ歩いてきた。
ちょっと緊張しながら見ていると、彼は丁寧に頭を下げた。
「若……いえ、社長がいつもお世話になってます。
今後とも、どうか仲良くしてやってください」
意外なほど低姿勢で、声も柔らかい。
最初は少し驚いたが、話してみると礼儀正しい人だ。
「勿論。これからも仲良くやっていきたいと思っています。皆も帝に懐いてくれてるからね」
俺がそう言うと、男はほっとしたように表情を緩めた。
「ありがてぇ……。実は、うちの社長って仕事柄、あんまり友だちが――」
「おい。誰が勝手に話しかけていいと言った」
背後から帝の声が飛ぶ。
掴まれた黒服の肩がギシリと鳴り、男の顔が引きつる。
「す、すみません。つい……」
「帝、怒らないであげてくれ。彼も帝を気にかけてくれてるんだよ」
俺が口を挟むと、帝は一瞬だけ視線をこちらに向け――ふっと息を吐いた。
「……ハルさんに感謝するんだな」
「は、はい! すみません社長! それでは皆さん、釣りをお楽しみください!」
黒服の男は慌てて頭を下げ、車へと戻っていった。
去り際に見えた顔はどんぐり眼で、思ったよりも愛嬌がある。
……人は見た目で判断するもんじゃないな。
「うちのが悪かったな」
「いや、話せて良かったよ。帝も随分と慕われてるんだな」
俺が言うと、モコたちも「ワンワン!」「ピキィ~♪」「ゴブゥ!」と賑やかに声を上げた。
帝は少し照れたように頬を掻き、視線を前に戻した。
「出発するぞ。目的地まで、あと三十分も走れば着くはずだ」
「ありがとう。楽しみだよ」
車が再び走り出す。
後ろには、相変わらず黒塗りの車がぴたりとついてきている。
けれどもう、その存在が妙に頼もしく感じられた。
俺たちを乗せた車は、真夏の陽射しの下、
ゆるやかに郊外の道を進んでいった――。




