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親友に裏切られ婚約者をとられ仕事も住む家も失った俺、自暴自棄になり放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました  作者: 空地 大乃
第四章 モンスターバトル編

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第191話 睦郎の条件

 冒険者通りの奥は、賑やかな通りからは想像もできないほど静かだった。

 カフェや装備店が並ぶ一角を抜け、少し薄暗い路地へ。

 その突き当たりに、木製の看板が掲げられた古びた店が一軒あった。


「……ここだな。鬼姫が言ってた睦郎の店」


 看板には掠れた文字で“睦工房”とある。

 店先には使い込まれた鎧の残骸や、研ぎかけの剣が無造作に立てかけられており、

 どこか重い空気が漂っていた。


「他の店と違って、ちょっと入りづらいね」

「だが、こういう場所こそ本物がいるもんだ」

「筋肉で言うなら、“見た目より実が詰まってるタイプ”だな!」


 中山の言葉に苦笑しながら、俺は扉を開けた。

 チリン――と鈴の音が鳴り、金属と油の匂いが鼻をくすぐる。


 奥の作業台では、無精髭を生やした初老の男がヤスリをかけていた。

 黒縁眼鏡の奥から鋭い目がこちらを向く。


「……冷やかしなら帰んな」


 第一声から塩対応だった。


「すみません。紹介を受けて来たんです」

「紹介? 俺はそういうのは受けねぇ」


 まったく興味を示さない睦郎。

 だが、俺がある名前を口にした瞬間――その手が止まった。


「……鬼姫さんから、あなたの腕は確かだと聞いて」

「……あの暴れ娘のか。ふん、あいつは口が悪いが目は節穴じゃねぇ」


 小さく鼻を鳴らし、ようやくこちらを見据える。


「それで? 俺に何の用だ」

「モンスターバトルに出る予定で、装備を整えたいんです」


 睦郎の眉がぴくりと動く。

 しばらく俺を見つめた後、ゆっくりとヤスリを置いた。


「モンスターバトル、ねぇ。派手好きな連中がやるあれか。それでモンスターを着飾りたいってか?」

「見た目よりも俺は、大事な仲間(モンスター)に見合う装備を作りたいんです」

「ほう……モンスターを大事な仲間か、お前、少しはわかってるじゃねぇか」


 短く笑い、睦郎はカウンター奥の壁を指差す。

 そこには様々な武器や、奇妙な鉱石、魔獣の骨らしき素材が整然と飾られていた。


「いいか坊主。装備ってのは金で買うもんじゃねぇ。

 “持ち主が選ぶ”んでもなく、“素材が選ぶ”もんだ」

「素材が選ぶ……?」

「そうだ。だから――お前自身が素材を見つけてこい」


 唐突な言葉に、一同が顔を見合わせる。


「素材を、自分で……?」

「あぁ。それを見りゃ、お前とモンスターの関係がどんなもんか、どれほど覚悟があるかがわかる」


 睦郎は続けて、もうひとつ条件を付け足した。


「ついでにもう一つ。素材探しは――お前とモンスターだけでやれ」

「俺とモンスターだけで?」

「他の連中は連れてくるな。お前らがどこまでやれるか、それを確かめてやる」

「おいおい、それは無茶だろ!」

「ハルさんひとりでなんて危険すぎる!」

「筋肉にも相棒が必要だぞ!」


 熊谷、秋月、中山の声が飛ぶ。

 それでも睦郎は一歩も引かず、ただ俺をまっすぐに見つめていた。

 その眼差しに、試すような光が宿っている。


 ……この人は本気だ。


「……わかりました。その条件、受けます」


 俺の返答に、睦郎はゆっくりと頷いた。


「いい目だ。明後日の朝八時に来い。ダンジョンまでは俺が案内してやる」


 短く言い放ち、再び作業台へと向かう。

 それがこの職人なりの“認めた”証拠なんだろう。


 店を出ると、皆の表情はまだ硬いままだった。


「ほんとに大丈夫なの?」

「大丈夫さ。モコもラムもいる。それに……準備はちゃんとしておくよ」

「準備?」

「ああ。装備もそうだし、収納用の魔導具――魔法の袋も買っておきたい。前に襲われた時、武器を持ってなかったのを痛感したしな」

「確かにね。素材を集めるなら荷物も増えるし、いい考えだと思う」


 モコが「ワン!」と鳴き、ラムが「ピキィ♪」と応じる。

 その声に皆の表情が少し和らいだ。


「じゃあ、次は準備だな。無茶すんなよ、ハル」

「わかってる。ありがとう」


 照りつける午後の日差しの下、

 俺たちは新たな準備のために再び歩き出した――

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