第190話 ラム、放電!
「じゃあ、睦郎の店はこの先だな」
「うむ。鬼姫の地図だと通りの奥の方らしいな」
「楽しみだね。どんな人なんだろう」
昼を終えて再び通りを歩く俺たち。
真夏の日差しが石畳を照り返し、空気がじんわりと熱を帯びている。
食後の満足感に包まれつつも、俺たちは賑やかな通りを抜けていった。
「……悪い、ちょっとトイレ行ってくる」
「了解。じゃあ俺たちはこの辺で待ってる」
熊谷たちにそう告げ、俺は近くの案内板を確認した。
“公衆トイレ→この先十メートル”の表示。
モコとラムが小走りでついてきたので、二匹も一緒に行くことにした。
冒険者通りのトイレは、外観からして妙に立派だ。
石造りの壁には「魔力洗浄式」の表示板。
……こういうところにまで魔導技術が行き渡ってるのか、と妙に感心してしまう。
用を済ませ、外に出たその時――
「ようやく見つけたぜ、坊主」
背後から、昼のチャレンジで絡んできたあの声がした。
振り向くと、三人組が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「……お前ら、まだ懲りてなかったのか」
「ハッ! 懲りるわけねぇだろ。あの“雷の魔石”、寄越せ」
リーダー格の男が唇を歪める。
その後ろでは、もう二人が袋を開き――中から得物を取り出した。
一本は黒光りするメイス。もう一本は刃の短い剣。
どちらも、持ち歩くには不自然なくらい大きい。
「魔法の袋か……」
思わず呟いた。
あれがあれば、武器でも物資でも自由に持ち運べる――便利な収納魔導具。
やっぱり、俺もひとつ持っておくべきかもしれない。
そんな考えが頭をかすめるが、今はそれどころじゃない。
「もう無い。魔石はモンスターが取り込んだ。渡すも何もない」
「嘘つけ! そんな話、信じられるかよ!」
三人が一斉に距離を詰めてくる。
通りから少し外れた路地裏――人通りもなく、助けも呼べない。
「戦える武器がない……まずいな」
腰のあたりに何もない感覚が、妙に重く感じた。
モコが低く唸り、ラムが前に出る。
小さな体を精一杯張って、俺を守るように立ちはだかる。
「ワン!」
「ピキィ!」
男のひとりが棍棒を振りかざした、その瞬間だった。
ラムの体が光を帯び、表面に淡い黄色の紋様が走る。
「ピキィィィィッ!」
高く鳴いた直後、眩い閃光が弾けた。
バチバチッ――と音を立てて雷光が地面を走り、三人の足元で炸裂する。
「うわっ!?」
「ぎゃあっ!」
「な、なんだこれぇ!」
電撃が空気を震わせ、三人の体が一瞬で痙攣し、地面に崩れ落ちた。
焦げた匂いが漂い、辺りに静寂が戻る。
ラムは少し身体を震わせたあと、ぴょんと跳ねて俺の方を向いた。
その瞳は、誇らしさと嬉しさで輝いている。
「ラム……お前、まさか……雷の力を……!」
俺が言葉を漏らすと、ラムが「ピキィ♪」と鳴く。
モコが駆け寄り、心配そうに鼻先でラムをつついた。
「大丈夫そうだな。よくやったぞ、ラム。すごいじゃないか」
頭を撫でると、ラムはぷるんと体を揺らし、モコも隣で「ワン!」と吠える。
「ハル!」
通りの方から熊谷たちの声が響いた。
駆けつけた彼らは、倒れた三人を見て目を丸くする。
「お、お前……どうしたんだこれ!」
「襲われて……ラムが助けてくれたんだ」
「ピキィ!」
ラムが胸を張るように鳴く。
秋月も愛川も、目を丸くしながらその小さな体を見つめた。
「まさか、あの魔石の効果がもう……?」
「うん、そうみたいだな。あの子の力になってる」
その時、通りの方から制服姿の冒険者が数人駆け寄ってきた。
腕章には「安全管理局」の文字――ギルド直属の治安担当だ。
「何があった?」
「この三人が襲ってきて……ですが、もう大丈夫です」
俺が事情を説明すると、彼らは頷き、倒れた三人を丁寧に引き取った。三人組が武器を手にしていた事が決め手となったのか、特に怪しまれることもなかった。
「ご協力感謝します。こういう輩は定期的に出るんですよ。通りの安全は我々が預かります」
「助かります」
俺たちは軽く頭を下げ、現場を後にした。
少し歩くと、通りの喧騒がまた耳に戻ってくる。
「やれやれ、災難だったな」
「でも、ラムちゃんがいなかったら危なかったかもね」
「ピキィ♪」
ラムが得意げに鳴き、モコが尻尾を振る。
その姿に自然と笑みがこぼれた。
「ありがとうな、ラム。本当に頼もしくなったよ」
ラムはもう一度元気に鳴くと、跳ねて俺の肩に飛び乗る。
真昼の陽射しが照りつける通りの中、俺たちは再び睦郎の店へと歩き出した。




