第189話 冒険者通りの昼食
「さて、腹も減ったし、どこかで昼にするか」
中山の言葉に全員が頷いた。
チャレンジも終わって気分は上々。俺たちは歩きながら店を探す。
冒険者通りの昼時は、どこも賑やかだ。
通りを歩けば、香ばしい匂いがそこかしこから漂ってくる。串焼き、スープ、揚げ物。
中には「モンスター由来素材使用」と書かれた看板を掲げる屋台もあり、異世界じみた雰囲気を醸している。
「おお! 肉の匂いがたまらん! 腹が鳴る!」
「ほんとだ、すごくいい匂い。けど、ちょっと暑いね……」
「確かに、七月の日差しは堪えるな。あ、あの店なんてどうだ?」
熊谷が指さした先にあったのは、木目調の看板が印象的な店だった。
【モン・キュイジーヌ】と書かれており、その下には“モンスターと働く食堂”の文字が添えられている。
「へぇ……名前からして、なんか冒険者通りっぽいな」
「中も涼しそうやし、ここにしようか」
入店すると、ひんやりとした空気と香ばしい肉の匂いに思わず息が漏れた。
広い店内では、テーブル席の合間をテイムされたモンスターたちが忙しく動き回っている。
厨房では、蛇型のモンスターが鉄板の前で小さく炎を吐き、料理人がその火力を調整していた。
皿洗い場では、スライムが食器を吸い込み、つやつやに磨き上げている。
「おぉ……これは合理的だな」
「火加減も絶妙だ。あの蛇、仕事ぶりが完璧だぞ」
「こういうのも“冒険者の街”って感じするね」
秋月が微笑み、愛川もうんうんと頷く。
俺たちはモンスター同伴OKの奥の席に案内され、モコたちもそれぞれ椅子の下や隣で落ち着いた。
「あの、ここって撮影しても大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ないぜ。そういうお客さんも多いからな」
「ありがとうございます!」
許可が下りると、秋月はスマフォを取り出し、すぐに撮影を始めた。
まずは店内の雰囲気を一周撮り、モンスターたちの働く様子を軽く映す。
次に「撮れ高」確認のように画面を覗き込みながら、指先で軽くコメントを入力している。
「“テイマーにもおすすめの冒険者ランチ特集”……こんな感じでタイトルつけようかな」
「お、手慣れてるな。もう配信に上げるのか?」
「編集して、夜にまとめて出す予定だよ。皆が食事をしてるシーンも合わせてね」
配信に慣れた秋月らしい手際の良さに感心していると、中山がメニューを指差して声を上げた。
「何々? テイマーオススメのランチメニュー?」
「おおっ、モンスターのパワーアップに繋がると書いてあるぞ! 一体どんなプロティンが入っているんだ!」
「いやプロティンから離れろよ」
熊谷のツッコミに笑いが起こる。
メニューを開くと、モンスター用おすすめとして“エナジーミートボウル”や“冷却パワーフルーツゼリー”といった名前が並んでいた。
「じゃあ俺はこの火蜥蜴ステーキ定食にする!」
「私はスーププレートで。野菜もたくさん入ってるし」
「私はマナカレーにしてみようかなぁ~」
「モンスター用おすすめランチセットか、みんなこれでいい?」
「ワン!」
「ピキィ♪」
「モグゥ!」
「マァ~!」
「ゴブゥ!」
注文を済ませると、すぐに厨房から軽やかな音が響いた。
火花が散り、スパイスの香りがふわりと広がる。
待っている間、モコとモグはテーブルの下でじゃれ合い、
マールは隣の席にいた別の冒険者のモンスターと興味深そうに視線を交わしていた。
ゴブは調理人の仕事ぶりに感心している様子。ラムは近くにいた女性客に撫でられ嬉しそうにプルプルしていた。
「皆楽しそうだね」
「うむ。仲間同士の交流も悪くない」
「こういう平和な時間も、悪くないな」
中山の言葉に熊谷も頷く。
やがて料理が運ばれてきた。
プレートの上には肉厚なステーキ、じゅうじゅうと音を立てながら湯気を上げている。
モンスター用の皿には、野菜と肉を程よく混ぜた栄養食が美しく盛られていた。
「うわぁ……美味しそう!」
「おぉ、香りが最高だな!」
「ワン!」
「ピキィ!」
「モグゥ!」
「ゴブッ!」
「マァ!」
食欲に任せ、皆でスプーンとフォークを手に取る。
ひと口食べると、旨味がじわっと広がった。
「うん、柔らかい……スパイスの香りも丁度いい」
「こっちのスープも美味しい。何か体に良さそうだし」
「このボリューム! 筋肉が喜びの大合唱だ!」
中山が真顔で言い放ち、愛川が吹き出した。
「ははっ、やっぱり中山さんはブレないね」
「筋肉こそ正義だ!」
「いや、食事の話しろよ」
そんなやり取りに笑いが起きる。
気づけば周囲の客たちも笑顔で食事を楽しんでいた。
ふと、隣を見るとモコたちも満足そうに食べ終え、尻尾を振っている。
「皆も満腹みたいだな」
「うん。こうして一緒に食べられるって、なんかいいね」
秋月の言葉に俺も頷いた。
普通の食堂とは違う、けれど妙に落ち着く――そんな空間だった。
食後、会計を済ませて外に出る。
日差しの強い午後の空気が肌に当たり、少しだけ眩しく感じた。
「さて……腹も満たされたし、折角だから次は睦郎の店に行ってみるか、風間」
熊谷が俺にそう話を持ちかけてくれた。
確かに、鬼姫が紹介してくれたのだ。行かない手はないだろう。
「皆はそれで大丈夫かな?」
俺が聞くと、全員が興味ありげに頷いた。
「よし、決まりだな。行こう!」
通りを歩き出す俺たちの後ろで、モコが「ワン!」と元気に鳴いた。
その声が合図のように、みんなの足取りも軽くなった――。




