第188話 ラムに魔石を与える?
「これは決まりやな。その魔石、与えてみるとえぇやん」
「ピキィ~ピキィ!」
神奈が笑みを浮かべながらラムの前にしゃがみ込んだ。
ラムは嬉しそうに体をぷるぷると震わせ、まるで子どもがおやつをねだるように鳴く。
「でもいいのか? 俺一人の力で取ったものでもないのに」
ためらう俺に、熊谷がにやりと笑う。
「何いってんだ。勝てたのはハルのモンスターの力だろうが」
「そういうことだ。皆が納得してるならそれでいいじゃないか」
「うん。私もそれでいいと思うよ」
「こんなにラムちゃんが欲しがってるんだもん。きっと意味があるんだよ」
熊谷、中山、秋月、そして愛川――みんなが俺の背中を押してくれた。
その言葉を聞いて、胸の中の迷いがすっと消えていく。
「モグはどうだ?」
「モグゥ♪」
勝利の立役者であるモグにも確認を取る。
モグは嬉しそうに鼻を鳴らすと、ラムに歩み寄り、ちょこんと抱きついた。
「モグゥ~」
「ピキィ♪」
ラムも楽しげに身体を揺らし、二匹はまるで兄弟のように寄り添う。
これなら、モグも賛成ってことだな。
「……わかった。みんな、ありがとう。――さぁ、ラム」
俺は屈み込み、雷の魔石をそっと床に置いた。
ラムは目の前の魔石をじっと見つめ、何度かふるふると震えると――
「スピィ!」
ぴょんと跳ねて、そのまま魔石を吸い込んだ。
「えっ!?」
まるで吸収するように体の中に取り込んだのだ。
思わず声を上げる俺の隣で、他のモンスターたちも一斉にざわめく。
「お、おいおい! こんなの食べて大丈夫なのか!」
「ワンワン!」
「マァ!」
「ゴブゥ!」
「モグゥ!」
モンスターたちも心配そうにラムのまわりを囲む。
しかし――
「ピキュゥウウウ……」
ラムの鳴き声が弱まり、体がゆっくりと小さくなっていった。
「ラ、ラム!? ペッしなさい! ペッ!」
俺が慌てて叫ぶと、神奈が軽く肩を叩いてきた。
「まぁまぁ、ちっと落ち着きや」
「お、おちつけって、これ明らかに――!」
「よう見てみぃ」
神奈の指差す方を見て、俺は息を呑んだ。
縮んでいたラムの体が、ふわりと元の大きさに戻っていく。
「ピキィィイイ!」
甲高い鳴き声とともに、ラムの体が淡く光を放った。
光の中心から、金色にも近い黄色い揺らめきが走り同時にバチバチと電撃が迸った。
「まさか……魔石を取り込んだから?」
「そういうことやろな。ラムと雷の魔石は、相性が良かったんや」
神奈の声には確信があった。
その眼差しは、職人や研究者のように真剣だ。
「相性……そんなのがあるのか」
俺が驚くと、神奈は指を立てて軽く笑う。
「あるで。魔石にも個性があるし、モンスターにも向き不向きがあるんや。ラムはスライムやから、吸収力も高い。魔石の力をそのまま取り込めたんやろ」
「神奈さん、詳しいんですね」
「まぁな。うち、これでも自分で店持ってんねん」
「ほう。若いのに立派やな」
愛川と中山が感心して声を上げる。確かに、神奈は見た目だけなら俺たちより年下に見える。
「これって、魔石を見つけたらどんどんモンスターに与えれば強くなるってことか?」
熊谷が腕を組みながら尋ねた。
「なんでもかんでも与えたらえぇってわけちゃうで。さっきも言ったように“相性”がある。スライムタイプのラムは特例みたいなもんや。逆に言えばモンスターに合っていない場合、命に関わることもあるんや」
神奈は真剣な表情で付け加えた。その声に、場の空気が少し引き締まる。
「なるほど……だから神奈さんは落ち着いて見てられたんですね」
「せやな。経験は人を落ち着かせるもんや」
そう言って神奈は目を細め、懐から小さな名刺を取り出した。
「せっかくやし、これ渡しとくわ。うちは【何でも屋 神奈】言うて、道具の販売も買取もやっとる。
今日は休みやけど、気が向いたら寄ってや」
名刺を受け取ると、そこには小澤 神奈という名前が。
――小澤? 一瞬、小澤マスターの顔が脳裏をよぎり、思わず苦笑した。
「さて、面白いもんも見れたし、うちはそろそろ行くわ」
神奈は手を振りながら去っていく。
モンスターたちも名残惜しそうに鳴き声を上げ、彼女を見送った。
「個性的で、いい人だったね」
「あぁ、そうだな」
秋月が微笑み、俺もうなずく。
「さて、俺たちも移動するか」
「うん。まだ見てないところ、いっぱいあるもんね」
「腹も減ってきたしな」
「うむ、それならば昼飯とするか」
確かに、チャレンジで動き回って腹も空いた。
こうして俺たちは、冒険者通りの中で昼食を取れる店を探し始めた――。




