第186話 乱入者
「さて――これで今日は終いかな」
伊達が腕を組み、そう口にすると周囲から残念そうな声が聞こえてきた。
まだ挑戦したい冒険者が多いのか、それとも純粋にこの見世物をもっと楽しみたいのか。おそらくは両方だろう。
だが賞品の魔石がなくなった以上、終わるのは仕方ないのかもしれない。
「ふざけんじゃねぇぞコラ!」
その時、怒号が俺たちの耳を打った。集まっていた人垣を掻き分け、屈強な男が三人現れる。
「こっちは勝てそうなメンツ揃えてわざわざやってきたんだ! それが終いだと? 納得できるか!」
「そう言われてもねぇ。見ての通り、この兄ちゃんたちが成功したから魔石はもう無いのさ」
「そんなの納得できるか! あんな腑抜けたぬいぐるみみたいなモンスター連れてる連中が成功だと? 絶対おかしいだろうが!」
「ワンワン!」
「スピィ!」
「マァ!」
「ゴブゥ!」
「モグゥ!」
現れた男たちの横暴さに、モンスターたちも一斉に声を上げる。
胸を張って抗議するモコたちを見て、俺の中にも怒りが込み上げた。
「みんな俺の大事な仲間で、友だちだ。お前らが何を言おうが、皆の力があったからチャレンジに成功できたんだ。勝手な憶測で馬鹿にするな!」
「あん? なんだと?」
思わず口に出てしまったが、後悔はなかった。男の一人が俺に腕を伸ばす。しかしその手は、中山が素早く掴んで止めた。
「俺の仲間になにするつもりだ? 事と次第によっちゃ黙ってないぞ」
「そうだな。俺だって同じ気持ちだ」
中山の腕から発せられる圧に、熊谷も鋭い視線を加える。一触即発の空気が漂った。
「まったく……見る目のない連中やな」
そこで声を上げたのは神奈だった。チッチッチと人差し指を振りながら割って入る。
「あんさんら、この子らを侮ってるけどな――むしろ“ちんまりさ”が勝ちを呼んだんやで」
「そんなわけあるか!」
怒鳴り散らす大男に、神奈は一歩も引かない。むしろ眼光を鋭くし、真っ直ぐに見上げた。
「うちは根拠もなく適当なことを言う阿呆が一番嫌いや。確かに主催の男は強かった。まさに伊達や。せやけどな、それでも見落とすもんはあるんよ。背が高いぶん小さなモグラの動きまでは把握しきれんかった。しかもモグは土を掘るだけやない。掘り返した土が足場を崩しやすくして、あんさんらが笑って“ぬいぐるみ”呼ばわりしたそのモンスターが、勝機を作ったんや」
言葉に周囲の観客も「なるほど」と頷く声を漏らした。そう、神奈はチャレンジ前に助言してくれていた。攻撃を一発でも当てれば勝ちというルールなら、モグならば勝ち筋を掴める――と。
「やれやれ、耳が痛いね。確かに俺も、そこはちょっと油断したかもな」
伊達も苦笑いを浮かべ、素直に認める。
「ざけんな! 口からでまかせ言いやがって! どうせ仕込みだろう! 卑怯者が!」
「――あん? てめぇら、俺がそんなくだらねぇ真似をすると本気で思ってんのか?」
その瞬間、俺の背筋をぞわりとした感覚が駆け抜けた。
伊達が放つ圧力は尋常ではなく、空気そのものが重くのしかかってくる。観客たちも息を呑み、中山や熊谷も動きを止め、顔をこわばらせていた。
「そこまで言うなら、特別にもう一回受けてやってもいい。だがそのかわり――今度は俺も反撃させてもらうぞ。それでいいな?」
低く響く声。
その言葉だけで、場の温度が数度下がったように感じられた。
「ぐっ……く、くそが! お前ら行くぞ!」
伊達の迫力に気圧されたのか、三人組は舌打ちをしながらもそそくさと退散していく。
次の瞬間、張りつめていた空気が解け、他の見物客が一斉に歓声を上げた。伊達も朗らかに笑って応じ、場は一気に和やかさを取り戻した。
それにしても――今の迫力。
やっぱり伊達は、とんでもない強さの持ち主だった。そう考えると、よくチャレンジを成功できたものだと、胸の奥が熱くなる。




