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ぶっきらぼう魔女は育てたい  作者: 桜乱捕り
11年目

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352話、興味が尽きない反省会

「おっ、あそこに居やがんな」


「見事なまでに大の字だな」


「出せる全力をぶつけてやったのに、案外元気そうですね」


 全身全霊を込めた荒れ狂う『不死鳥の息吹』を、体の内側近くから放ったというのに。

 『グラスティックノヴァ』により、地下深くまで抉れた氷原の底に居るフラウ様は、ベルラザさんが言ったように仰向け大の字で寝そべっていて、なんとも腑抜け切った表情をしている。

 滑らかな円形状の坂を成した底の深さは、大体六、七百mといった所。高高度で『グラスティックノヴァ』を放ったのだが、相当な範囲まで広がっていたらしい。

 授かった力と『蘇生の魂火こんか』は二人に返したので、今は身体の芯まで凍りつくような寒さを感じているものの。人間の体に戻った時、周囲があまりにも熱く、髪の毛がチリチリになってしまった。

 肌を突き刺す凍てついた空気を撫でつつ、跨っていた箒の高度を徐々に下げ。だらしないうめき声を上げるフラウ様の隣まで近づいていき、氷底に足を付けた。


「おぉー……、アカシックぅ。なんか、めっちゃ元気になる薬持ってんだろぉ……? それを飲ませてくれぇ~……。このままじゃあ、マジで死んじまう……」


「完全乖離させた分身体と比べて、なんであなたはそこまで頑丈なんですか?」


「なけなしの魔力で、防御全振りしたからだよぉ……。なんもしねぇでいたら、ちゃんと死んでたぜぇ……」


「あ、そうなんですね」


 なけなしの魔力さえあれば、私の全力を受けても致命打には至らなかったと。じゃあ、仮に防御をしていなかったら、詠唱付きの『不死鳥の息吹』で蒸発した分身体と同じ末路を辿っていたのか。

 それは、いくらなんでも後味が悪過ぎる。倒すべき相手だったとはいえ、絶対に殺したくはなかった。いくつもの条件が絶妙に噛み合った結果とはいえ、やはりやり過ぎてしまったな。

 このまま死なれては本当に困るので、私はフラウ様の右隣でしゃがみ込み。三本目の秘薬を懐から取り出し、蓋を取った。


「フラウ様。飲ませてあげますので、口を開けて下さい」


「おぉ~、助かるぅ……。んあっ」


 私の指示を聞いてくれたフラウ様が、口をだるそうに大きく開けた。気が緩んだフラウ様って、面立ちだけでなく、雰囲気もフローガンズに似ているな。

 師弟関係である二人の人相を重ね、思わず口角が少し上がった私は、早く飲ませろと催促しているかのように、アゴをカクカク動かしている口の中へ秘薬を流し込んだ。


「うわ、あんまぁ……。よくお前、こんなの飲め───」


 秘薬を飲むや否や。まるで苦虫を噛み潰したが如く、眉間に深いシワを寄せたフラウ様が、味について文句を言った矢先。

 瑠璃色の同心円眼が、カッと見開き。脱力していた上半身がバッと起き上がっては、口をポカンと開けた顔を私に合わせてきた。


「……お前、嘘だろ? これ、体の状態だけじゃなくて、魔力まで全快すんのか?」


「そうですね。万能薬に近い代物ですので、大体のやまいや呪いのたぐいにも効きます」


「ま、マジか。すげぇな、これ。ちなみに、後何本持ってんだ?」


「残り二本あります」


「ニ……、んマジかぁ。やっぱあそこで、キッチリ仕留めとくべきだったなぁ」


 後悔先に立たずとあらんばかりに、こうべをガクンと垂らした、フラウ様の落胆ぶりから察するに。

 あそこという場面は、『気まぐれな中立者』を飽和召喚させた後。私の首根っこを鷲掴み、内臓という内臓を搔き乱した所だろう。

 確かに。腹部周りの骨が全損していたので、普通なら壮絶な痛みにもがき苦しみ、一回死ぬ前に気絶ぐらいはしていただろうけれども。

 なぜ、まったく痛みを感じなかっただとか。なぜ、意識を保ち続けられていたのかは、憶測の域でしか予想を立てられずにいた。


「チックショウ……。秘薬ってのが無かったら、たぶんあたしが序盤で勝ててたよな?」


「そうですね。『氷河の覇者』内部で一本飲んだので、もし持って来てなければ、フラウ様と再会する前に負けてました」


「あたしが奇襲を仕掛ける前だろ? そっか~……。やっぱ、消耗戦を続けるべきだったなぁ~」


「ちなみに、私はどれだけ内部を進んでました?」


「ああ~、十分の一以下って所か?」


「げっ……。そうだったんですね」


 好奇心で聞いて返ってきた答えに、私の左胸がキュッと締まった。かなり進んだつもりでいたのだが、まだそれほどの距離があったとは。立ち往生していたのと、ほぼなんら変わりないじゃないか。


「フラウ様。アカシックと直接戦いたくて、ちょくちょく分身体の中に紛れてましたもんね」


 当時、私達の戦いを『万里眼』で観戦していたであろうベルラザさんが、苦笑い混じりで裏話を挟む。


「え? そうなんですか?」


「ちょくちょくじゃなくて、ほぼだぜ。召喚獣の壁が分厚過ぎて、まったく近づけなかったけどな」


「……もしかして、私が内部を進んでた時、ずっと後ろに居ました?」


「おう、居たぜ」


 清々しい笑顔を浮かべたフラウ様が、親指をグッと立てた。……おい、嘘だろ? じゃあ、まさか?


「でしたら『氷河の覇者』の頂上に居たのって……?」


「完全乖離させた分身体だ。んで、奇襲を仕掛けた時も、あの中にあたしは居たし。『極氷の鏡』で、お前を強制的に移動させた後、即座に分身体と入れ替わったぜ」


「は、はぁ……。なるほどです」


 してやられた。……いや、違う。これについては、フラウ様は嘘をつかないと、私が勝手に決め付けていて、信じ切っていただけに過ぎない。

 なので、裏切られたという、この感情は完全に筋違いだ。たとえ打ち明けたとしても、笑われそうだから心の内に留めておこう。


「よく、ずっと『天翔ける極光鳥』を弾き返せてましたね」


「あれな? ガッチガチに固めた氷をツルッツルな鏡面仕上げにして、いなす形で反射させてたんだ」


「反射? ……ああ、そういうことだったのか」


 『天翔ける極光鳥』は攻撃をする際、光芒と化す。そう、光そのものになるんだ。まさか、防御不可能だと思っていた『天翔ける極光鳥』に、鏡という弱点があったなんて。

 だとすれば、私がよく使用する『怨祓いの白乱鏡』。この魔法壁が『天凍みる瞬寒鳥』を弾き返せたのは、鏡に似た性質を持っていたからなのかもしれないな。


「それは、前々から調べてたんですか?」


「まあな。ノームも、お前の鳥ちゃんを大戦鎚で弾き返してただろ? んで、後で大戦鎚を見せてもらったんだけど、完璧なまでに磨き上げられててよ。そこから手掛かりを得たんだ」


 ノームの大戦鎚。確か名前は『星砕き』だったか。なるほど。だからノームも、『天翔ける極光鳥』と渡り合えていたのか。というか、フラウ様。ウィザレナ達と共闘したノームの戦いを、ちゃっかり観ていたんだな。

 どうしよう。意外な事実が尽きないから、あれやこれやと質問したくなってきてしまった。寒さは増していく一方だけど、私も一旦休憩をしたいし、このまま話を続けてしまおう。

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