353話、打倒に向けて集う者達
「あの、フラウ様。いっぱい質問したいんですが、いいでしょうか?」
まずは態度を改めるべく、その場で正座をして、高々と挙手をする私。
「おう、いいぞ。ただし、一つ条件がある」
「条件?」
「あたしのことは名前じゃなくて、師匠と呼べ。それが条件だ」
なんてことはない条件を突き付けて、蒼白色の親指で自分を差し、ワンパクそうに口角を上げ、ギザッ歯を覗かせるフラウ様。
戦闘中も、そうだったのだが。この人、相手をそういう間柄にするのが好きなのだろうか? しかし、私一人の力では、フラウ様もとい師匠の力には、足元にも及ばなかった。
意識を失わず、ベルラザさんとイフリート様を召喚出来ていなければ、きっと今頃、私は氷山の中に沈められていただろう。
「分かりました。では、師匠。よろしくお願いします」
「おおっ、すんなり言ってくれるんだな。じゃあ、しゃ~ねえ。師匠である、このあたしが何でも答えてやるから、どんどん質問してこい! 我が弟子よ!」
ちゃんとした師弟関係を結ぶや否や。頬を若干赤らめ、嬉しそうな笑顔を送ってきた師匠が、私の頭をわしゃわしゃ撫でてきた。
師匠って呼ばれるだけで、こんな優しそうな振る舞いをしてくるだなんて。フローガンズ、師匠に相当愛されていそうだな。
それで、質問内容なのだが。聞きたいことが山ほどあって、まったく纏まっていない。とりあえず、頭に浮かんだものや思い出したことから質問していこうかな。
「ありがとうございます。では、早速。師匠とベルラザさんは、いつ共闘をしたんですか?」
「ああ~、それか。共闘っつーか、同じ目的を持った者同士が、たまたま鉢合わせた感じだよな」
「ええ、そうですね」
説明途中で、私から視線を外した師匠に、ベルラザさんが相槌を打ったので、私もベルラザさんが居る方へ顔を移した。
「同じ目的って、どこで何をしたんですか?」
「ほら、アカシック。お前が可愛い子供の姿にされた後、連れて行かれた場所さ」
「私が子供の姿に……?」
ベルラザさんの言葉が正しければ、子供姿の私が連れて行かれた場所って、あそこしかないのだが……。
「もしかして、『闇産ぶ谷』ですか?」
「そうだ! 目的はもちろん、私とフラウ様。そして、アカシックとアルビス全員共通の敵、クソ闇シャドウをぶっ殺す為だ」
「しゃ、シャドウを?」
闇を司る大精霊シャドウ。アルビスの体を無理やり乗っ取り、私の心臓を抜き取って『フォスグリア』に献上した、命の恩人であり、二人で必ずや殺してやると誓った憎き仇敵。
私とアルビス、共通の敵なのは分かる。しかし、ベルラザさんと師匠は、あいつとの間に一体何があったのだろう───。待てよ? あの場には、師匠の愛弟子であるフローガンズも居た。
そしてあいつも、私の夢から出た後、『闇産ぶ谷』から去るまでの間、一度たりとも目を覚まさなかった所を察するに。きっと、あいつもシャドウに何かされていたはずだ。だとすれば。
「あのクソ野郎。今思い出しても、火属性魔法が使えそうになるぐらい、はらわた煮えくり返んぜ。まさか、フローガンズまで手に掛けるたあよお」
「あ、やっぱり」
師匠、相当怒っているんだろうな。ギザッ歯から、火花が散りそうな勢いで歯ぎしりをしている。
「そういうことだ、アカシック。私もお前達の惨劇を見続けてたもんだから、とうとう我慢出来なくなってよ。お前達が『闇の瞑想場』に連れて行かれたタイミングを見計らって、『闇産ぶ谷』に殴り込みに行ったんだ。そしたら」
「すんげえ形相したベルラザとあたしが、鉢合わせたってワケさ」
「フラウ様。今日の戦いで、潰えし魔法を解禁したんです。次こそは、あいつごと『闇産ぶ谷』を消し飛ばしてやりましょう」
「当然だ。けど、一瞬で消し飛ばすのは勿体ねえ。ジワジワと嬲りまくってからにしようぜ」
「ええ。是非、そうしましょう」
傍から聞くと、ものすごく物騒な約束をしたベルラザさんと師匠が、固い握手を無言で交わした。私達が『闇の瞑想場』へ連れて行かれていた間に、そんなことが。
そういえば、私が殺されて『闇産ぶ谷』に戻って来た後。あちらこちらで、灼熱の火柱が何本も上がっていたり。いたる箇所が、分厚い氷の底に沈んでいたっけ。あれ、御二方の戦闘痕だったのか。
「あん時、俺は二人を止めに入ろうとしてたがよ。なんか急に、シルフとノームも『闇産ぶ谷』にすっ飛んで来たせいで、混沌を極めてたもんだぜ」
「えっ!? イフリート様も『闇産ぶ谷』に行ってたんですか!?」
「おう。シャドウに隙を突かれて、三人仲良く『闇の瞑想場』送りになっちまったがな」
「んで、事が収まるまで、あたし達は磔状態のまま放置されてたんだ」
「ああ~……、そうだったんですねぇ」
まさか、イフリート様まで『闇産ぶ谷』に来ていたとは。しかし、不意打ちを除けど。イフリート様、ベルラザさん、師匠を纏めて『闇の瞑想場』に送り付けたという、シャドウよ。
記憶は定かではないものの。私が『闇産ぶ谷』で死に戻りした時、シャドウは傷一つすら負っていなかったと思う。
ベルラザさんと師匠。私が一人で戦ったとしても、まず勝てない相手だというのに。端から本気を出していたであろう御二方ですら、シャドウに敵わないなんて。
そういえばシルフも、激情したアルビスを説得している時。自分は、シャドウの足元にも及ばないと言っていたな。一体どれだけ強いのだろうか、シャドウは。……しかしだ。
「では、みなさん。今度、シャドウを倒す機会が訪れましたら、私とアルビス、ノームも参戦させて下さい」
「おおっ、いいねぇ! アルビスって奴も、しこたまやられたらしいし。ノームも確か、知らない内に体を操られてたんだっけか?」
「そうです、そうなんです。……あんのゴミカス。次会ったら、マジで覚えてやがれよ?」
「こ、怖っ……」
当時の感情や記憶が乗り移ったが如く、瞬時に激怒したベルラザさんの髪の毛が、業火の炎を宿しながら一気に逆立ち。握った拳から、荒縄を締めたようなギチギチとした音が鳴り始めた。
……怒った時のベルラザさん、いつ見ても本当に怖い。目だって、そう。鋭い切れ目になっていて、赤白く発光している。
「しかもアカシックは、精霊族の天敵ともいえる存在。おまけに唯一、あいつの弱点である光属性魔法も使える。速攻で魔法制限を掛けて、虹色の鳥ちゃんを出しまくれば、流石にヤツも泡を食うだろうよ」
「けど、あまり油断は出来ませんよ? あの野郎、どんな手段を使ってでも、体を乗っ取ろうとしてきますからね。自分の体の一部を球体に変えては破裂させて、針状の物を沢山飛ばしてきた時は、少々焦りました」
「そんなの甘い甘い。あの野郎、影がある場所なら自由に移動出来んだぜ? あたしらが吹っ飛ばされて地面に体を付いた時点で、もう体内に侵入されてたと思うぞ」
「んげっ、そうなんですね。となれば、最低でも滞空は必須。攻撃も全て避けなければならないと。んじゃあ、影が消滅するほど、あらゆる場所に火を設置するべきか……?」
対シャドウに向けて、対抗策を練り始めたベルラザさんが腕を組み、眉間に深いシワを寄せた顔を空へ向けた。
ちょっと耳にした限りでも、こちら側があまりに不利過ぎやしないか? 少しでも影に触れていれば、その影にシャドウが移動してきて、そのまま体を乗っ取られかねないし。
魔法制限を掛けたとしても、あいつは体の一部を色々な手段で飛ばしてくるみたいだから、魔法壁を何重にも張った方がいいだろう。
そもそも、シャドウと戦う場合。体に侵入された時点で、もうどうにもならない。味方だった者が、一秒後に敵になる可能性だって考えられる。私も、色々対策を練っておかねば。
「影が消滅するほど、光源作りまくるのはアリだな。あたしは、どうっすかなぁ。とりあえず、地面にぶ厚い氷でも張って……、うおっ!?」
「ん? あれ? ……師匠?」
いつあるか分からないシャドウ戦に向けて、対抗策を練ろうとした矢先。急に、師匠が焦り声を上げたので、外していた視線を戻すも。私の隣に居たはずの師匠は、どこにも居らず。精霊独特の魔力も、完全に消え失せていた。




