350話、逆転した立場
潰えし火属性魔法の呪文名を、ベルラザさんと共に重ねた刹那。私とベルラザさんの拳の間から、眩い緋色の光柱が、放射状に多方向へ漏れ出した矢先。
周囲の音をかっさらう、強烈な白閃光。どこにあるのか曖昧になった、迷子の眉間を潜めたくなる、けたたましい耳鳴り。
魂まで干渉しそうな、心身を連続で貫通していく波動の嵐。時間の感覚が波動の嵐に奪われ、体という枠の存在を忘れた頃。頭だった付近から轟き出した、折り重る万雷を彷彿とさせる地鳴り。
熱い。五感を奪った白閃光が。体の内側と外側を乱打していく波動が。雷鳴まで落ち着いてきた地鳴りが、どれも熱いと感じる。
自然に思考が出来るようになれてきた後。白飛びした視界の中央から、ベルラザさんと合わせていた私の拳が、薄っすらと色付いていき。
白飛びが全て晴れ、遠方に赤い波紋が幾重にも広がっていく壁が見えたので、乾いた瞼を数回瞬きさせてから、ずいぶんと大人しくなった辺りを見渡してみた。
潤いを欲している視界の先。つい先ほど、私が使用した潰えし火属性魔法『エクスプロージョン』と思われる、連鎖する爆砕の業火が果ての景色で大暴れしている様が窺えた。
私達が使用したのは『グラスティックノヴァ』のはずだが、なぜ『エクスプロージョン』が発動しているんだ?
「ほ~ん、なるほど? 『グラスティックノヴァ』の正体って、強引に圧縮して重ねまくった『エクスプロージョン』の塊なんだな」
『そうそう。何を隠そう、この俺が開発した魔法だ』
「あ、そうなんだ」
ベルラザさんが、いち早く『グラスティックノヴァ』の正体を見破り。それに嬉しくなったイフリート様が、『伝心』で嬉々と語る。
『こいつを拝める日は、もう二度と無えだろうと思ってたがよ。惚れ惚れしちまうような威力があんだろ?』
「……そうですね。まさか『天凍みる瞬寒鳥』まで消し飛ぶなんて」
改めて見渡した景色内にあるのは、連鎖する爆砕の業火、堅固そうな魔法壁で身を守っていたフラウを除き、等しく無。
一応『天凍みる瞬寒鳥』ぐらいは残るだろうと予想し、警戒はしていたものの。有象無象の魔法陣諸共、蒸発してしまったらしい。
おまけに『グラスティックノヴァ』には私の魔力が含まれていたから、意図せず掌握領域を展開出来てしまったし。
縁で蓋しているのは、近づく猛吹雪を瞬時に溶かす爆砕の業火。放置しておいても勝手に厚みが増していくので、最初に築いた鳥かごが、より強固な物になって蘇った。
『視野が広くなったし、遮る物も無い。これなら、鬼ごっこに集中出来るな。なあ? フラウ』
『……チクショウ。とうとう時間稼ぎすら、させてくれなくなっちまったか』
『グラスティックノヴァ』に耐え切った魔法陣を解除した二人のフラウが、途切れ途切れな濃白のため息を漏らしていく。
時間稼ぎ。私という怪物の観察機会を一気に削がれ、焦っているのか。自己強化に努める時間を無くし、私達に食らい付く可能性を奪われて、落胆したか。
どちらにせよ、まだ互いの体から氷属性の魔法を放っては、吸収し合っている。やはり、フラウが今したがっている一番の目的は、迅速な自己強化の方だろう。
『それなら、私が鬼役をやってやろうか?』
『本物が役を演じて、どうするってんだ。せめて同じ舞台ぐらいには、上がらせてくれよ』
やたらと距離感を覚えるフラウの言い回しに、私の口元が軽く緩んだのを感じ取った。じゃあつまり、既に逆転しているんだな。私とお前の立場が。
『すまないが、可愛い弟子に上がらせられる舞台は無い。私と同じ場所に立ちたいなら、真向から掛かって来い』
「おおー、いいぞアカシックー。あいつ、最初マジで調子乗りまくってたから、もっと言ってやれー」
私の挑発に、隣でやんややんやとフラウを煽るベルラザさん。きっと、私達の戦いを観ていて、募る物が色々あったんだろうな。
『ははっ、そうか。そうだよなぁ』
どこか納得した様子のフラウが、両手を腰に当てながら苦笑いを浮かべる。あそこまで、砕けた表情をしているというのに。
周りの空気は相反し、鋭利に凍てついた殺意がみるみる充満していっている。そんな、から笑いを続けていたフラウが、切れ目に近い瑠璃色の同心円眼で、私を睨みつけてきた。
『……なら、そうするわ』
そことなく侘しさを含んだ決意を、フラウが固めた矢先。二人だったフラウの周りに、新たなフラウが三人姿を現し、全身から氷属性の魔法を放出していく。
この土壇場ともいえる状況で、フラウは完全乖離させた分身体を四体しか出していない。本体を合わせて、合計五人。
この数は、私が掌握領域を大規模に展開させ、かつ氷属性魔法の制限を掛けた鳥かごを形成させた時と、同じ数になる。
そう。状況がまるで違うというのに、数だけは変わっていないんだ。なので、フラウが完全乖離させた分身体を出せる数の限界は、四体だと見ていいだろう。……じゃあ、つまり、なるほど?
「……なんだ。私も、フラウの本気を一つ引き出せていたのか」
それも、序盤中の序盤で。ベルラザさんは、邂逅一番でフラウの本気を引き出せていたから、やや場違いな悔しい気持ちが芽生えていたけれども。私も私で、それなりにやれていたんだな。
『師匠さん達よ。色々とご教授願うぜ』
『是非ともそうしてやりたいから、すぐに消し飛んでくれるなよ?』




