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風花ラメント 4

翌日の朝は、晴天だった。

今日も美季に会いに行こうと準備していると、いきなり母親が部屋に入ってきた。いつの間に帰ってきたのかさえ不明だったのに、部屋のなかに入ってくるなんて予想外すぎてとまどった。

「えっと……どうした?」

「………あんたねぇ……」

いかにも「私、怒っています」みたいな態度をとりながら母さんは言った。俺、なんかしたかな……?

「春休みだからって遊びすぎ!たまには部屋の片付けくらいしなさい!」

「………ああ」

よく見れば確かに。最近は寝て起きて出掛けるという生活をしていたから気にしなかったが、この部屋もだいぶ物で溢れかえっていた。足場も少なくなって、ベットの上以外は生活スペースなんてほとんどない。

「……しょうがない、今日は片付けしますか」

ずっと美季に付きっきりだったから、自分のことなんてずっと厳かにしていた。だから今日ぐらいはちゃんとしなくちゃいけないと思い、内心美季に謝っておいた。

部屋の片付けは、思ったより難解していた。物が多いのはもちろんのこと、そのほとんどが美季と遊んだりしたものだったので捨てるに捨てられないのだ。もともとが大きいもの、楽しくあそんだもの。なかには、どうやって使うかわからないものまであった。(それはもちろん捨てた)

30分ほどして、ようやく部屋全体が歩けるほどまで進んだ。うん、だいぶスッキリしたんじゃないかな。部屋の一角を除いて。

「さて……次はどうしようかな」

ここまでやったから全部終わらせたいと思って、ずっと使っていない本棚に手を伸ばした。もう読まなくなった本や古びてしまったものを、そろそろ処分しようと思った。

ーーーカラッ

てきとうに本を取り出してみると、あいだからなにかが落ちる音がした。あわてて拾ってみたが、何に使うかわからない。その物体の先には、青い液体がこびりついていた。

「なにこれ………筆?」

なぜだか気になって用途を検索してみる。それはどうやら絵を描くときに使う道具のようだった。

「なんでこんなものが……」

不思議に思って、とりあえず取っておこうと机の上に置いた。筆はカラカラと転がって、やがて止まった。

「………あれ?」

頭のなかで、なにかが熱を持ち始めた。

例えようのない違和感が、全身を覆い始める。

どうしてだろう……。

頭の奥からなにか、強い光のようなものが生まれてくる。

初めて出会った病気の女の子。

二人で笑いあった桜の木の下の光景。

自分が愛して止まなかった絵の具の匂い。

そして………車の下の赤い色。

まるで物語の断片みたく思い出される「それ」が何を表しているか、まだ完璧にはわかっていなかった。

「それ」はすぐに頭から消えていった。

だけど明確な「記憶(それ)」は、俺の体を動かすには充分すぎた。

ーーーいますぐ、会いに行こう

その考えは、一瞬のうちに一つの感情に変わった。

俺はすぐに部屋を飛び出した。後ろであげられた母の声も置き去りにして、靴に突っかかりながらも駆け出していく。

ここからあの場所まではだいぶ距離がある。けどそれでも行かなければいけないと思った。

緑が白に変わって、横に流れていく。流石に時間はかかってしまったが、もう迷うことなくただ、病院にたどり着いくことを考えていた。




「ーーー美季!」

ノックもせず扉を開ける。呑気に外を眺めていた美季は、状況が飲み込めずにポカーンとしていた。

「……え、なに?どうしたの?」

あっけにとられている美季の手を掴む。ひんやりと冷たいその腕にゾッとするが、すぐにたち直した。

「美季、ごめんね……」

「え、どうしたの本当に?」

美季は困ったようにこちらを見やる。どうしたのって、自分でもどうしたのかわからない。けどやらなきゃいけないことは、明確になっていた。


「美季、今からあの場所に行こう」

どうか俺の思いが、手遅れになりませんように


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