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風花ラメント 2

「わぁ~!久しぶりだなー」

病室で見るのと違う、久しぶりの流れる景色に興奮する。どんどん変わっていく人の顔、徐々に薄れていく白色がとても新鮮に見えて、自分でうるさいと思いつつも声を押さえられない。窓の外に食いついて離れない姿は、きっと滑稽だろうな。

「はは、そんなに面白い?」

「うん!だってもうずっと見てないんだもん!」

そうこうしているうちに電車が止まった。どうやら目的地にたどり着いたようだ。

「あ、ほら着いたよ、いこう?」

「お~!」

懐かしい感覚を踏みしめながら、私たちは公園へ向かった。緑地化のため申し訳程度に残された地面や作られた木も、今となっては昔の思い出だ。

「あーよかった、なんとか公園まで行けそう!」

「まさか本当に来れるとは思わなかったけどね……看護師さんたちは何をしているんだか」

「きっと忙しかったんじゃない?全然誰とも会わなかったし」

記憶をなぞるように一歩一歩ゆっくり歩いていく。そのたびに秋風が頬を通り抜けて、これが作られた物だとわかっていても気持ちがよかった。

彼と出会えてよかったな……

今までは一人でゆっくり歩く余裕はなかったから、誰かといると安心感がある。ましてやそれがこの人なら、どんな場所にでもいけそうだった。

…………あ、

「どうしたの?」

ふと立ち止まった私をみて不思議に思ったのか、彼が声をかけてきてくれた。

「いや、たいしたことじゃないんだけどさ……その……」

「……名前、教えてくれない?」

そういえばずっと「彼」とか「あの人」とかで、ちゃんと名前を聞いていなかった。いやタイミングがなかっただけだけど…

「ああ、なんだそんな事か。急に具合が悪くなったのかと思ったよ」

彼は笑いながらそう言った。いや本当にそうだったら笑い事じゃないけどね……?

「でも確かにろくに自己紹介すらしてなかったからね、君も気がつけばどこか行っちゃってたし」

「しょ、しょうがないじゃん……不可抗力だよ……」

昔と変わらない景色を楽しみながら会話をしていると、ようやくお目当ての公園が目に入った。遠目からでも相変わらず人がいなくて、でも景色はちゃんと残っていて嬉しかった。

「……ねぇ!」

小走りになって前を行く私の後ろで、彼の声があがる。茶色い木にこだまして爽やかに届けられたそれは、私の耳を一瞬にして駆け抜けていった。

ああやっぱり、今日ここに来て正解だったな


「俺の………名前はーーー」





「……………あ……」

目を覚ますと真っ先に、白い世界が飛び込んできた。回りに連なる機械やかけられた毛布から、そこが病院の一室だと気づく。知らない天井だ、とはよく言ったものだ。

……一体、どれほど時間がたったんだろう。

窓越しに見える外の風景は暗闇となっていて、あんなに綺麗だった星はひとつも見えない。とりあえず誰かを呼ぼうと起き上がったがまだ少し頭が痛くて、うまく歩くことすらも出来なくて、立ったと思えば、フラフラしてベットに戻るのがやっとだった。

………俺は、結局どうなったんだっけ…

完全に目覚めてはいない頭で必死に考えても答えは出なくて、ただ痛みが増していくだけだった。とうとう何かをする気も起きなくなって、ベットに横たわった。

回らない頭で考える。朝に神野からメールが来て、久しぶりに全力で走ってここまで来て、そうして病室の扉を開けて………

「…………う…」

急に吐き気がした。

出来れば思い出したくもなかった光景が、目の奥でフラッシュバックして消えてくれない。

美季の笑顔と、管に繋がって眠る顔がまるで流れ星のように見えては消えていく。そんなに綺麗ではないのにそう思えてしまうのは、きっと尊いものだと、失ってから気づいてしまったんだろう。

「……美季……」

その名前を口にしてみても、返事が帰ってくることはなかった。いつもなら笑顔を見せてくれるのに、今はその影もない。

「美季…………」

何度も何度も、その言葉を口にする。涙が流れて、嗚咽が込み上げてきても、ずっとずっと、名前を呼んだ。

まだ死んだわけじゃないのに、この病院では、どんな病気もなおるはずなのに、なんでか不安ばかりが頭に浮かんでしまう。もしかしたら遠くへ行ってしまうような、何かを見落としてしまっていちるような………ああ、そっか。


…………俺はきっと、どこかで間違ってしまったんだ。


意識を手放す瞬間まで、俺は涙を流していた。






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