風花ラメント
「あぁ……退屈だなぁ」
頬杖をつきながら窓の外を眺める。私の視線の先では小さな子どもたちが走り回っていた。
「私も外に出たいなー」
誰も聞いてはくれないのに、不意に言葉がもれてしまう。来た当初ははじめて見る景色に思わず騒ぎまくっていたが、今となっては何も変わらない、ただの白い世界としか思えなかった。しょうがなく私は、ベットのなかに潜ってやりすごす。
この病院にきてから、2ヶ月がたった。春の真ん中から体調をくずし、ようやく中心部の大きい病院に来れたと思ったら「検査や治療のために入院しろ」などと、まったく高校生をなんだと思っているのか………。
両親は私をここに預けてから姿を見せていないし、いい加減愛想がつかれたのだろう。いや、もともと愛想なんてなかったか。
……それにしても、暇すぎないか?もう治療も終わりに近いし、遺伝子レベルだがなんだがで長引いただけで、そんなに重い病気でもなかったらしいし、ここの病院ならすぐに退院できると思っていたのだが……。
ああ………はやく会いたいな。
私の頭は、まだあの人のことでいっぱいだった。少し話をしただけで離ればなれになってしまったあの人。それでも私の心は、その温もりで埋まってしまっていた。
「は~あ、いっそ迎えに来てくれないかなぁ……ふふ、なんて」
何が面白いのか一人で笑ってみる。もう夏も終わったというのに、なんでか顔が暑かった。………え、気持ち悪いって!?失礼な乙女なんてこうゆうものだよ!?
………ごほん、そんなわけで私は、退屈な日々を過ごしていた。
その日も私は、ありきたりな検査(見慣れない器具ばかりだったが、やってることは同じ……でしょ!?)を終えて病室に帰るところだった。そんな時、後ろから懐かしい声がした。
「あれ?君もしかして、キーホルダーの子じゃない?」
「………え?」
その時私ははじめて、神様の存在を信じた。どうしているの?と聞くとあのときと同じ優しい声で「ちょっとお見舞でね」と答えた。どうやら友達が、大きな怪我をしてしまったらしい。
「へぇ~それでわざわざ?遠いのにご苦労様!」
「基本的に電車だったから、そんなに大したことでもないよ。それで君は………」
そこまで言って彼は、気まずそうに目をそらした。きっと私のことを気遣ってくれたんだろう。
「……ああ、それよりさ」
彼はわざとらしくパンっと手を叩いて、これまたわざとらしく話題を転換した。
「俺が描いていた絵、完成したんだけど見る?」
「えぇ本当!?見たい見たい!」
あの時の記憶を引き出しながら返事をする。完成ということは色が付いて、より綺麗になっているのだろうか。線画でさえも素晴らしい出来だったので、今から期待が膨らむ。
「うん!……じゃあ明日もってくるね」
お見舞にきたのだから今から見れるとは思っていなかったが、まさか明日の約束まで取り付けるとは………なかなかやるな。まあ私も楽しみだからいいんだけどね!
「うん、じゃあ待ってるね!それじゃあ!」
私はいつぶりか分からない興奮を覚えながら病室に戻っていった。
次の日、彼は約束通り絵を持ってきてくれた。それはなんとも素晴らしい出来前で、もはや現実の景色より綺麗なんじゃないかと思うほどだった。
「うわぁ!すごい綺麗じゃん!」
「そう?ありがとう」
はじめは緊張してうまく喋れなかったのに、いつの間にか敬語さえも使っていない。この変化にはなにより自分がびっくりしたが、………それほどまでに、仲良くなりたかったんだろうな。
「うわーいいなぁ、まだあの公園はこんな景色なの?」
「今はこんなに綺麗じゃないよ。葉っぱも枯れちゃったし…」
「そっかぁ………あ、じゃあさ!」
今思えば迷惑だった気がする。いや、この先の未来を知っていれば私は絶対に口にはしなかっただろう。でも今までが退屈だったんだ。そんな未来の事なんて考えている暇はなかった。
「私、今からあの公園に行きたい!」
彼の困ったような顔は、忘れられない。それなのに自分がなぜ今入院しているのかは忘れていて、つくづく私ってバカだなって思った。別にもうすぐで退院できるから、そのあとでもいいのに。
でも、それでも私は……
……今を大切にしたかった。




