33話「ドラゴン狩り」
結果から言えば失敗であった。
ブラボーは丸呑みにされ、チャーリーは強烈なファイアーブレスによって黒焦げにされた。
あまりの戦闘力に絶句する。
しかし、いつまでも手をこまねいている訳にはいかない。次善の策としては、ワイバーンの追加召喚であるが――
エコーが体勢を変え、真っ直ぐこちらへ向かって来た。
「げっ!? こっちの位置がバレた!?」
尋常ではない飛行速度で間合いがみるみるうちに縮まっていく。
グオァアアアアアアアアアア!!
「やばっ」
咄嗟に『スタングレネード』を取り出してエコーに投げつけた。
「『解除』!!」
爆音と強烈な発光がエコーを襲い、怯ませることに成功した。視力と聴覚が奪われたエコーは、本能的に動きを止めてしまう。
この隙を逃す手はない。続いて取り出したのは『バズーカ砲』である。
「『解除』」
飛行中のアルファの背に立つという不安定な体勢で、有効化した『バズーカ砲』を構える。照準をしっかり定め、引き金を引くとカチッと音がした。
シュッ!
発射筒から放たれた一発は、空を切り裂くような速度でエコーへ向かっていく。
「当たれ当たれ当たれ……」
ズドーーンッ!!
狙いは頭だったが、少し逸れて右翼と首の付け根あたりに着弾した。
ブギャアアアアアアアァァ!!
「よっしゃ! 直撃!!」
近代兵器の威力である。
当然のことながら凄まじい爆発を起こし、爆炎と共に肉塊が四散する――
ゴラ゛ァアアアアアアアアアア!!
「は?? あれで無傷とかどんな鱗してんだよ! 出血すらしないとか無理ゲーだろ!」
『バズーカ砲』の攻撃を凌いだエコーの逆襲が始まった。
時には尻尾を振り回し、時には体当たりを。極めつけはファイアーブレスだ。口腔で溜めて作られた火炎放射は中長距離型で回避が難しい。
「アルファ! 右だ! 急降下! 低空飛行で回避する――いや待て! 左! 左からブレスだ! 上昇しろ!!」
回避に専念するが、ワイバーンとドラゴンでは飛行能力のポテンシャルに圧倒的な差がある。ついには回避不可の致命的な一打がエコーから放たれた。
「き、緊急脱出!!」
やむなく僕はアルファを身代わりにして身を投げ出す。
すると、爬虫類独特の眼光が鋭さを増した。エコーはアルファへの攻撃を中断し、落下中の僕へ標的を変更した。禍々しい牙を剥き出しにして大きく開けた口は、僕を丸呑みにする気満々である。
「――っ!? ま、まずい! 【召喚】ワイバーン!」
残り少ない魔力を消費し、空中でワイバーンを緊急召喚。新たに召喚したワイバーンに乗り換えて上昇飛行を開始すると、そのすぐ真下を物凄い速度でエコーが通過していった。間一髪であった。
「あ、あっぶねぇ……。食われて死亡とかシャレにならん。エコーのやつ、さっきの『バズーカ砲』で相当頭に来てるみたいだな……。よし――」
思いつきだが、これしかない。ワイバーンに指示を出す。
「ワイバーン! さらに上昇!」
ワイバーンが指示通りに上昇を続け、ぐんぐん高度を上げていく。
「来い――――――来た!!」
グラァアアアアアアアアアア!!
エコーが追いかけて来たのを確認すると、こっそりと召喚した『ホブゴブリン』をワイバーンから落とした。僕と背格好が似た『ホブゴブリン』には、予備の黒っぽい服を着せている。
『ホブゴブリン』が宙に放り出されると、予想通りエコーが食らいついた。標的をワイバーンから『ホブゴブリン』へと変更し、一気に速度をつけて丸呑みにした。
そして、勝鬨とばかりにエコーが咆哮する。
グオァアアアアアアアアアア!!
グギャァアアアアアアアアア!!
グガァアアアアアアアアアア!!
ドラゴン語は分からないが、『獲ったどー!』『ざまーみろー!』『俺は最強だー!』とでも言っているようである。喜びを一頻り吠えて表現したエコーは、満足そうに上空を滑空している。
……そろそろいいかな?
「おーい」
グオァ?
エコーは僕の声に戸惑いを見せた。呑み込んだはずなのに、ここにいるわけがないといった顔だ。
「君が呑み込んだのは、僕の召喚した『ホブゴブリン』だ。実際にはすぐ召喚解除したから胃袋にすら入っていないけどね」
ドラゴンは賢いモンスターだ。きっと僕の言葉が伝わったのだろう。悔しそうに唸っている。
グル……グルルルルルルルルルル……。
「でも君の胃袋にちゃんと入っているものもあるよ?」
グルル――グルァ?
「『解除』!」
グオァ!?!?
ズンッと密閉空間で爆発が起きたような鈍い音がすると、エコーが吐血し、ぴくぴく痙攣を起こし始めた。その顔は驚愕に染まっている。
原理は簡単。
ありったけの『手榴弾』詰め込んだ麻袋を『ホブゴブリン』に持たせ、エコーに呑み込ませる。そして胃袋に収まった頃合いを見計らって『手榴弾』を爆発させてやれば、どんなに外殻が固かろうと関係ない。内部から内臓器官を攻撃すれば、どんな生物であってもひとたまりもないだろう。おまけに密閉された空間では爆発力が飛躍的に向上する。
痙攣が止み完全に生命活動を停止させたエコーの巨体は、重力に従って落下していった。
ズドンッと大きな音がしたのを最後に夜の静寂が辺りに戻ってくる。
「『手榴弾』が無ければ死んでいたのは僕だったな……」
疲労感が最高潮に達していたが、最後の力を振り絞ってエコーを『マジックバック』に収納した。もう指一本動かす体力も残っていない。大の字になって地面に体を預け、『ステータスオープン』と念じた。
名前:マサキ
性別:男
ジョブ:剣豪、治癒師、勇者
状態:疲労、意識混濁
スキルポイント:5762
HP:15/100
MP:6/175
STR(力):30
INT(知力):5
DEF(防御):30
AGL(敏捷):60
DEX(器用):5
凄まじい数字を見た気がしたが、気に留めるだけの気力も残っておらず、意識を手放した。
――
目を開けると覗き込むように僕を見ているグレースが居た。
「――っ!! よ゛がっだぁー!!」
僕が目を開けた瞬間、涙腺を崩壊させたグレースは、お構いなしに抱きついてきた。
「マ゛ー君゛! マ゛-君゛!」
「ごめん、心配かけたね……」
抱きついてきたグレースの頭を撫でながら辺りを見渡す。
質素な部屋だった。ベッドが部屋の中央に1台、クローゼットと机が部屋の隅に置かれているだけで、他に家具は見当たらない。また、出入り口と思しき扉と小窓が1つずつあり、窓から強い日差しが差し込んでいた。そして僕は今、ベッドの上で横になっている。
いつの間に街へ帰還したのだろうか。単純に計算しても街までは3日かかる距離だ。その間僕はずっと眠りっぱなしだったのか。
「起きたかマサキ。しかしよく寝たもんだな。森の中で倒れているのを見た時は肝を冷やしたぞ」
グレースの脇に控えていたレベッカさんが声を掛けてきた。
「レベッカさん、石化解けたんですね?」
「……ああ。石化を解いてもらい、いの一番にマサキを救出しに行ったさ。私は無力だった……情けない」
レベッカさんは自分だけ石化していたことを悔いているようだった。
「そういえばオリヴィアさんは? というか、ここどこです? ヴァルツリッヒ皇国に帰ってきたというのは分かりますけど」
「ここは『フリージア』の拠点だ。本来は男子禁制のホームなのだが――」
噂をすればなんとやら。オリヴィアさんが入室してきた。
「――っ!!」
僕と目が合ったオリヴィアさんは手に持っていた水桶を足元に落とした。
「マサキっ!」
落とした水桶を気にした様子もなく僕のもとまで駆けつけると、熱を測ったり、顔色を確認したりする。
「よかった……。痛いところは無い? お腹は空いていない? あとは――」
「心配しすぎですよ。この通り元気なんで大丈夫です」
「そ、そう――。だ、団員の体調を管理するのも団長の務めよ。べ、別に、し、心配なんてしていないわっ!」
慌てふためくオリヴィアさんを久しぶりに見た気がする。
「ところで、グレースはいつまでマサキに抱き着いているのかしら?」
「うーん……。ずっと?」
……。
「何が『ずっと?』よ! マサキは病人なのよ! 抱きついたままだと眠れないでしょ。うらやま――ゴ、ゴホン! いいから離れなさい!」
「うあー、何をするんだー! ウチの体温でマー君を温めていたというのにぃー!!」
オリヴィアさんがグレースの首根っこを掴みベッドから引きずり出していく。
「で? ドラゴンはあの後どうなったんだ? 私たちが駆け付けたときには既にいなかったが、どこかへ飛んで行ったのか?」
いつもの光景になごんでいると、レベッカさんが訳の分からないことを言い出した。
「へ? 倒しましたけど?」
「……ん?」
「……え?」
……。
……。
沈黙がしばらく続いたが、ついにレベッカさんが耐え切れなくなった。
「…………ど、どうやら頭を強く打ったようだな? も、もう少し横になって安静にしておいた方がいい。ああ、なるほど! 夢でも見たのか。そうに違いない。ははっ、マサキめ。よくもまぁ、そんな非現実的なことを――」
ベラベラと独り言を続けるレベッカさんを無視して、言われた通り僕はもうひと眠りすることにした。




