31話「クレア救出」
「て、てめぇ。状況が分かってんのか? こっちには人質だっているし、『フリージア』の幹部はすでに包囲されてんだぞ?」
「そうでした。困りましたね。大切な仲間なので傷ついて欲しくありません。僕は何をすれば?」
これ見よがしに抜刀した剣をぶら下げながら盗賊長に尋ねる。
「ま、まずはその剣を捨ててもらおうか? 抵抗すれば……分かってんだろうな?」
「分かりました。では、剣をそちらに投げ捨てましょう」
僕は剣を盗賊長の方へ投げた。『マジックバック』から取り出しておいた『スタングレネード』と一緒に。
足元に転がった剣と得体の知れない物体に盗賊長の注意が向く。
「なんだ? この黒いのは?」
盗賊長が『スタングレネード』を手に取ろうとした瞬間――
「『解除』」
僕は日本語で『スタングレネード』のロックを解除する。
「ぐあああっ!?」
爆音と共に猛烈な光を放ったそれは、盗賊長から視力と聴力を奪った。
「剣と人質は返してもらいますね?」
手早く地面に落ちていた剣を回収すると、クレアを連れてオリヴィアさんたちがいる瓦礫の山へと急いだ。
「あ、あなたは一体……?」
「はじめまして。僕はマサキって言います。そうだな……オリヴィアさんに雇われた身だから、クレア救出の助っ人ってところかな?」
「わ、わたし、帰れるの?」
「帰れるよ。僕たちはクレアを迎えに来たんだから。『フリージア』がクレアの帰る場所なんだろう?」
「う、うんっ……うん!!」
安心して涙を流しながらも、火が灯ったように力強く頷いた。
強い子なのだろう。
「クレア! 無事なのね? よかった!!」
皆の元へたどり着くと、オリヴィアさんがクレアを抱きしめた。
「よかったです。団長から抱擁されたんです。体力も回復したでしょう」
2人の歓待(?)をよそに、僕はグレースの怪我を治癒した。
「『ヒール』」
グレースの足の腫れが引いて行くのを確認し、一安心する。
「ありがとう。マー君。もう大丈夫みたい」
「まだ痛みがあるようなら無理しないように。そろそろ敵が動くだろうし」
視力と聴力を回復させた盗賊長は、鬼の形相で僕を視界にとらえると、詠唱を完了させ待機状態の魔導士に指示を出した。
「やつらを殺せ!! 皆殺しだ!!」
「「「「御意」」」」」
一斉に魔方陣を展開させ、攻撃魔法の引き金を引く。
「「「「地獄の業火」」」」
「【魔法阻害】」
煌々と輝きを放っていた魔方陣が突如霧散し、場に静寂が訪れる。
きょとんとした顔で、魔導士たちは棒立ち状態になっている。
何が起きたのか分からず、状況を理解するのに追いついていないのだ。
次第に理解が追いつき始めると、魔導士たちの中で動揺が伝播していく。
「魔法をキャンセルした……だと……」
「あ、あり得ぬ! そんなことが可能なら、魔法の優位性は地に落ちるぞ!」
「し、しかも無詠唱だったぞ!? でたらめすぎる!」
「我々の攻撃は一切通じぬということか……?」
勝ち目が無いと思ったのか、じりじりと後退りし始めた魔導士一同。だが、この場にいるのは魔導士たちだけではない。
「ちっ。おい! 野郎ども。魔法がダメなら、叩き切るしかねぇ! やっちまえ!」
魔導士たちと入れ替わるように盗賊団が前へ出てきた。
「ま、そうなるよな」
「マサキ。どうするの? さすがに30人も相手にしていられないわよ?」
僕の横で剣を構えているオリヴィアさんが、心配顔で言ってきた。
「最初はモンスターを大量に召喚してやり過ごそうかなと考えていたんですけど、必要無かったみたいです。『フリージア』はいいギルドですね」
「え?」
オリヴィアさんが疑問を感じている間に、盗賊団が背後から攻撃を受けた。
「ぐあっ!?」
「あ、新手だ! 結構な数だぞ!」
盗賊団の背後から攻撃を仕掛けてきたのは、『フリージア』のメンバーだった。
「あの子たち……どうして……」
「きっと心配だったんでしょう。男相手に、物怖じせず戦っていますよ」
前衛部隊に守られながら一斉に攻撃魔法を放つ中央部隊。集中砲火を受け、散り散りになって逃げまわる盗賊団へ弓矢で追い打ちをかける後方部隊。
実に良い連携である。
「いかん! 盗賊団がやられれば、我らに勝機は無い。対抗魔法用意!!」
戦慣れしている魔導士たちは、戦況が危機的状況だと察し、反撃に出ようとする。
だが、そうはさせない。
「【魔法阻害】」
「な、なにっ!? やつらは魔法が使えて、こちらは使えぬというのか!? こ、これでは奴一人に戦が支配されてしまう……」
「わ、我らに近接戦闘はできん! に、逃げろ! 魔法が使えん以上、勝ち目は無い!」
「あ、あんな奴が敵国にいるというのか!? さ、最悪だ。これでは戦にならん!!」
盗賊団に続き、魔導士たちも敗走を開始した。
『フリージア』のメンバーは戦意のある残党を1人、また1人と倒していく。
「オラオラオラァ! 玉ついてんのか? マサキ以外の男なんざ雑魚ばっかだな!!」
リリーは相変わらず口汚い。
「それにしても臭い連中ですわね。後でマサキにお風呂を出してもらわないと」
お風呂マイスターはどこまでいってもお風呂マイスターである。
「……勇者さまと戦う。これが聖戦……」
勇者認定されるからやめろ。
「おかしい……『鑑定』でマサキの能力が見えなくなっている。これは後で問い詰めねば。ついでに甘い物を要求しましょう」
あ……。【隠蔽】スキルを取っているんだった。後々説明が面倒くさいな……。
次々に倒されていく盗賊団員と魔導士たち。
すでに逃げることも戦うことも諦めた者が出始め、『フリージア』のメンバーによって拘束されていった。
「すごいね。皆あんなに男嫌いで怖がっていたのに。もう平気みたい」
「グレースの言う通りね。もう怖くないわ」
そう言ってオリヴィアさんが僕の手を握ってきた。
僕が安心させるように手を握り返すと、負けじとオリヴィアさんも手をにぎにぎしてくる。
顔を赤らめているのはお互い様だ。
「あっ! そこ!! 何をしている!! 2人していいムードとか許さないぞー!」
「同感です。団長、私の手も握って下さい」
1人足りないと思ったら、瓦礫の下で石化したまま固まっているレベッカさんを忘れていた。
ふと見下ろせば、仰向けに倒れているレベッカさん。心なしか不機嫌そうである。
もう少しだけ辛抱して下さいと心の中で謝罪しつつ、戦況を確認する。
しかし、戦況はもはや火を見るより明らかであった。
盗賊団も魔導士たちも全員拘束が完了し、残すは盗賊長一人のみ。
「ちぃ。これだけは使いたくなかったんだが……。やむを得ん。死なばもろとも」
不吉なセリフに胸騒ぎがして盗賊長の元へ駆け出したが、一歩遅かった。
盗賊長がラッパのような形をした角笛を思いっきり吹く。
『ブオーー』と汽笛のような音が辺りに鳴り響いた。
「はっはっはっはっ! もう手遅れだ! これは竜をおびき出すためのマジックアイテムだ! 吹いたら最後。来るぞ? お前らを食らいにな! 皆死んでしまえ! はーっはっはっは――へぶっ」
顔面にパンチを食らわせてやった。殴り飛ばされた盗賊長は、すぐさま『フリージア』のメンバーによって拘束される。
「マサキ? 不味いわ。こいつの言う通り、本当に竜を呼び寄せるマジックアイテムだったら、ランクS級のモンスターと戦闘に――」
オリヴィアさんが言い切る前に、野太い咆哮が響き渡った。
グオァアアアアアアアアアア!!
この場にいる全ての者を凍りつかせた咆哮は、まさしくドラゴンのものであった。




