29話「手記」
――手記――
『これを読んでいる者が良心のある日本人であると信じてここに記す。私の名は、安川 昌司と言う。前世では自衛官として働いていた。ある日、私は夢を見た。夢の中で神を名乗る老人と出会い、世界を救って欲しいと頼まれた。無論、夢だと思って信じていなかったが、妙に鬼気迫る感じだったので、その頼みを快諾した。すると神を名乗る老人は、一つだけ能力を与えてやると言ってきた。私は数ある能力から1つ選ぶと、この世界に転生させられた』
『私が授かった能力は創造。仕事柄、武器や道具に接する機会が多く、物を生み出す能力は私にうってつけだと思った。案の定、創造はこの世界で生きていく上で最大の武器となった。この能力を行使するにあたって必要なことは2つ。1つ目は、魔力だ。魔力を使って物を生成するのだから当然だろう。最初は魔力が足りず、苦労したけどな。2つ目は、生成する物の構造を理解していることだ。その点に関しては、武器に精通している自衛官として、前世で培った技能をいかんなく発揮させてもらった(※以降は、私が生み出した物を『アイテム』と呼称する)』
『自分で言うのもなんだが、時が経っても私は勇者として世に知れ渡っていることだろう。ゆえに、転生してから勇者になるまでの細かい道程は割愛させて頂く。ご承知のことかもしれないが、私は魔王とその眷属たちを討ち滅ぼした。人命を守る仕事をしていた私にしてみれば当然の行いだった。そして気づけば人々から勇者と呼ばれるようになり、美しい王女を嫁にもらった。当時私は30歳を迎えており、身を固める時期と思っていたのだが、まさか王女が嫁になるとは思わなかった』
『勇者として王族に迎え入れられた私は、戦うためではなく、生活に便利なアイテムを作り始めた。今思えば、その時が幸せの絶頂だった。束の間の平和が続いたかと思えば、あっという間に人間同士の醜い争いが始まってしまった。それも私が生み出したアイテムを使ってだ。私は人命を守るためにアイテムを作った。だが、人々はそのアイテムを手にとり、互いに互いを殺し合っている。だから私は生み出した全てのアイテムを回収することにした』
『私は魔族を亡ぼした際に得た膨大なスキルポイントを使い、3つの能力を習得した。3つの能力とは、転送魔法、刻印、転移魔法である。まずは転送魔法で私が生み出したアイテムを全て回収した。回収したと言っても膨大な量だ。隠しきれるものでは無いと判断した私は、堂々と各地に分散させて封印した。封印には刻印の能力を使った。刻印とは、アイテムに対して暗証設定や各種条件設定を付与することができる能力だ。遺跡に合言葉という形で暗証設定を施し、日本語で解除を行わないと使用できなくする条件を全てのアイテムに付与した。万が一アイテムが流出したとしても、この世界の者は一切それを使うことが出来ないだろう』
『全てのアイテムを封印し終えた私は、転移の魔法を使って日本へ帰った。愛する妻と共に。今私は、苦楽を共にすると誓ってくれた最愛の妻と日本で穏やかに過ごしていることだろう』
『最後になるが、私が各地に封印したアイテムは好きに使ってくれて構わない。だが、決して人に対して戦う目的に使用しないで欲しい。私が生み出したアイテムをこの世界に残していくのは、次に訪れるかもしれない危機を危惧してのことだ。人は弱い。万が一魔族が復活しようものなら、たちまち人類滅亡の危機に瀕するだろう。その時は、きっと神がまたこの世界に日本人を送る。それがあなたなのかは分からない。だが、この世界に送られた者が魔族に勝てる保証はどこにもない。だから保険として力を残していく。神から選ばれた者であるなら、私もあなたを信じてこの力を託そう。どうかこの世界の安寧を保ってほしい』
――――
クロエが非常に読みたそうにしていたため、日本語で書かれていた手記を、わざわざこちらの言葉に翻訳して読んであげた。非常に突っ込みどころ満載であった。
日本に帰った?
『転移』の能力があれば、日本に帰れるのかよ!?
クロエはクロエで感極まったように打ち震えていた。
「……やっぱり勇者様は私たちを見捨てていなかった。そして次代の勇者様はマサキ……」
勝手に勇者にされて祀り上げられるのも嫌なので、念のため訂正しておく。
「いや、クロエ? さっきも言ったけど僕は――」
ガシャン!ガシャン!ガシャン!
突如、天井から吊るされていた人形が一斉に落下してきた。
「なっ!? なんだ!?」
「~~っ」
僕がクロエを庇うように背中に隠し、落下してきた人形を凝視した。
「新タナ主ト認識シマシタ。私ハ戦闘用AIロボット1号デアリマス」
先頭のロボットが自己紹介をすると、ザッと音を立てて30体のロボットが同時に敬礼をした。
「お……おう」
「……マサキ? この人形は何て言っているの?」
「えっと……僕のことを主として認めましたって」
「……やっぱり!」
何がそんなに嬉しいのか分からないが、満面の笑みを湛えたクロエは、出会った当初とは比べ物にならないほど明るくなっていた。
「とりあえず1号に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「何ナリト、オ尋ネ下サイ!」
「ここにある物騒な弾薬やら武器は、勇者の手記にあった通り、日本語を使えないと使用できないという認識で間違いない?」
「ハイ! 間違イゴザイマセン! 我々30体ノAIロボットハ勿論、銃ヤ手榴弾ナドモ、日本語デ解除ト言ワナイ限リハ起動シマセン」
それを聞いて安心した。勇者の手記によれば、この遺跡を封印していたのは『刻印』という能力によるものだ。つまり、僕が解除してしまったパスワードを再設定するには、同じ『刻印』の能力を持っていなければならない。だが、そんな能力は持っていない。『刻印』で封印し直せない以上、この遺跡は鍵のかからない倉庫と化してしまう。仮に誰でもここにある武器が使えるとしたら、気が気じゃなかったところだ。それでも放置はできないが。
「この遺跡は解放されてしまった。だから、ここにある武器や君たち戦闘用ロボットを僕の管理下に置きたいんだけど、前の主はどうやってここにある物をこの遺跡まで運んだんだ?」
「ヤスカワ様ハ、特殊ナ『マジックバック』ヲ使用サレテ、オラレマシタ。『マジックバック無限』ト呼バレル世界ニ唯一ノ魔法アイテムデス。シカシ、ココ4001基地ニハ、ゴザイマセン。1001ニ格納サレテイルハズデス。ナノデ、モシココニアル物資ヲ運ブノデシタラ、ソチラノ机ノ引キ出シニ入ッテイル、『マジックバック大』ヲ使ッテ頂ケレバト」
教えてもらった机の引き出しを開けると、1号の言う通り『マジックバック』が入っていた。見た目は普通の『マジックバック』と変わらないが、恐らく高品質のものなのだろう。
早速『マジックバック大』に武器やら弾薬やらロボットたちを詰め込んでいく。
『フリージア』から預かっている『マジックバック』は共有のものだから、こっちの『マジックバック大』を個人用として使おうかな。
「よし。遺跡にあったものはすべて回収できたし、そろそろ戻ろうか? クロエ。僕の故郷の話はまた今度な?」
「……はい。勇者様」
だめだ。完全に勇者扱いだ。
そんなキラキラした目を向けてこられると無碍にも出来ない。周りに広めないように後で釘を刺しておこう。
――――
その後、僕たちは来た道を引き返して後衛のベースキャンプへ戻った。
そして夕食の準備に取り掛かろうとしたところで、この場に居ない人物に気が付いた。
「あれ? レベッカさんはどこへ行ったんだ?」
いつも後衛部隊の面々に声をかけて回ってはお腹を空かし、食事の準備の様子を見に来るレベッカさんの姿がどこにも見当たらない。
「お姉様なら、他のお姉様たちと一緒にどこかへ行かれたわよ? 幹部会議なのか明日の下見なのか分からないけど――」
「くそ! やられたっ!!」
こんな時間に下見に行くはずがない。会議なら団員から目の届く範囲で行うはずだ。敵のアジトがすぐ近くというこの状況で、団員から離れる道理はない。
間違いない。4人で敵のアジトへ襲撃しに行ったのだ。
よく考えれば当然のことだ。人質を取られ、数的不利な状況で襲撃をしなければならない。奇襲をかける以外に有効な手は無いだろう。そして奇襲の常套手段は、夜襲である。
襲撃するのは明日だと思い込んでいたが、完全に騙された格好だ。
4人の行方を教えてくれたルイーズに返事をする間も惜しんで、僕は去って行ったという方向へ駆け出した。すると、ただ事ではないと察したルイーズが僕の背に向けて叫んできた。
「ちょ、ちょっと! どこへ行くの!?」
「皆はここで待機していてくれ。僕はオリヴィアさんたちが心配だから、ちょっと見て来る!」
まだ何かルイーズが叫んでいた気がするが、気に留めることもなく僕は走り続けた。
人質がいる状況で、本当に4人だけで敵のアジトを殲滅できるのか?
嫌な予感がしてならない僕は、合っているかも分からない方向に向かって森の中を駆け巡った。




