28話「クロコ遺跡」
――数刻後――
「あれが『クロコ遺跡』……」
銀色で統一された遺跡は丸みを帯びており、非常に近未来的なフォルムだった。とてもこの世界の建築技術で創造できるとは思えない。そんなひときわ異彩を放つ遺跡を目視した僕は、編隊飛行をしていた天馬の高度を下げた。
「わずか数刻で『クロコ遺跡』に到着とは驚いたな……」
「う~ん……お尻いたーい」
「……地上。やっと地上に辿り着いたのね……」
「団長。大丈夫ですか?」
天馬から降りた面々が続々と集まり、慣れない移動でこった体を伸ばしていた。ニーナさんは弱ったオリヴィアさんの元へ駆けつけ、好機とばかりに、もとい心配した様子でかいがいしく世話をしている。どさくさに紛れてお尻とか太股とか触っているが、疲労困憊のオリヴィアさんは気にする余裕も無さそうだ。
「よーし! みんな陣形を組み直すぞ! 『クロコ遺跡』を背に、後衛部隊、中央部隊、前衛部隊の並びでベースキャンプを張ってくれ。後ほど後衛から物資を運ぶ。以上!」
オリヴィアさんに代わり、レベッカさんが指揮をとって集団を散開させた。
「マサキはどうする? 今日はここでゆっくり野営する予定だが、飯までまだ時間があるし、お前も休むか? せっかくだから『クロコ遺跡』を見てきてもいいと思うが」
「そうですね。上空から遺跡の全容は確認しましたが、やっぱり気になるので見てこようと思います。日が沈むまでには戻ります」
「分かった。気を付けて行けよ? 危険の無い遺跡とはいえ、後衛の治癒師に何かあっては困るからな」
レベッカさんがそう言って僕の肩をポンッと叩くと、後衛部隊の方へ去って行った。
一応オリヴィアさんにも声を掛け、遺跡を見て来る旨を伝えた。その際に、弱々しく現在地と明日の予定を教えてくれた。
ここ『クロコ遺跡』は敵のアジトから歩いて数刻ほどの距離に位置しており、明日幹部4名で襲撃をかける予定であるとのことだった。
「気を付けていってらっしゃい……」
「お大事に」
やはり体調が芳しくないオリヴィアさん。僕は長居は無用とばかりに遺跡の方へと足を向けた。すると、クロエがどこからともなく近寄って来て、同行を申し出てきた。
「……私も行く」
「いいけど、休んでいなくていいの?」
「……行く」
そういえばクロエは勇者マニアだってレベッカさんが言っていたな。勇者の遺物として有名な遺跡だから見に行きたくなってもしょうがないか。
「じゃあ一緒に行くか。でも明日の予定もあるし、日が沈む前には戻るぞ?」
「……うん」
僕はクロエを伴って『クロコ遺跡』へと向かった。
――クロコ遺跡――
「……」
「……これは勇者が書き残したと言われる文字盤」
「……」
「……勇者のいない今、誰も読むことが叶わないけど、私はいつか読んでみたいと思っている」
先刻からクロエが観光ガイドよろしく遺跡を案内してくれている。そして現在、勇者が残したと言われる遺跡中央の文字盤の前にいる。
クロエが必死に推測やら憶測やらを織り交ぜつつ解説している文字盤には、こう書いてあった。
『軍事施設4001基地』
『合言葉を言え』
『山』
「……」
日本人なら瞬時に答えてしまいそうな合言葉だった。
喉まで出かかった言葉を留め、冷静に考える。
これは言ってしまっていいのか?言ったら遺跡が爆発するとかしないよな?
「……一説によると、この文字列は戦死した人々の哀悼が綴られているのではないかと――」
永遠と語り続けているクロエの言葉を聞き流しつつ、合言葉を唱えて良いものか考える。
実はもっと深い意味があって、答えは別にあるんじゃないか?もしくは日本人をはめるための罠の可能性も……。
あまりに簡単すぎる合言葉に疑心暗鬼になる。だが、これでは埒が明かない。
ええい!ままよ!
「『川』」
すると、大地をゆさぶるような重く低い音をたて始めた。やっちまったか?
ゴゴゴゴゴゴゴッ。
どうやら合言葉は日本語の『川』で正解だったようだ。威圧的な文字盤が左右真っ二つに割れると、階段状の入口が現れた。
「――っ!?」
「無事に開いたか……」
「……」
クロエは開いた口が塞がらないといった顔で、一切の動きを停止させていた。
「そういえば、クロエの教えてくれた文字盤の意味違っていたよ?」
「えっ!?」
「早く行こう。自動的に閉まっちゃうかもだし、暗くなる前に戻らないといけないから」
「……よ、読めるの!? も、もしかしてマサキは勇者様!?」
目を輝かせて見つめてくるクロエに対し、僕は何と答えたら良いか悩んだ。
「んー。歴史上に出て来る勇者とは別人だし、僕は勇者と自覚したことも認知されたこともないからなー。勇者とは言い難い存在だと思う。ただ、クロエの言う勇者とは同郷だったのは間違いないな」
「……そ、それじゃあ! 勇者様と同じように、この世界を助けに!?」
「確かに勇者と同じところから来たのは間違いないけど、世界を救う目的があって来たわけじゃない……事情があるだのなんだの言って理由をはぐらかしていたし」
気づけばクロエが僕に密着して鼻息荒く食いついていた。
「ち、近いってクロエ」
「……もっとお話聞きたい! 勇者様の世界のお話を!」
「分かった分かった! とりあえず遺跡の中へ入ってみよう。クロエが大好きな勇者の遺物が見られるかもだぞ?」
「……うん! ついてきてよかった」
そう言ってクロエが腕を組んできた。ボリューミーな胸を押し付けているとも知らずに。ちなみにクロエのそれは、『フリージア』の中でもヘビー級チャンピオンを誇っている。
「……」
「……はやく行こ?」
薄暗い通路へと同伴を急かされている状況に、アダルティな妄想が掻き立てられる。甚だ妄想乙である。だが、童貞とは妄想力だけで生きている生物なのだ。
僕は一呼吸間を置き、無心を努める。
腕に当たっている柔らかい感触を無視し、いざ入場である。
――――
【発光】
「クロエ、暗いから足元気を付けて」
「……うん。だいぶ明るいから大丈夫」
階段は下りになっており、幅は2人がやっと並んで歩けるほどの広さだ。標高0のほぼ地上の入口から降りているため、場所は地下ということになる。
1~2分ほど階段を降りた頃だろうか。ようやく階段に終わりが見え、降りた先には扉があった。
「開けるぞ?」
「……うん」
扉を開けると、体育館ほどの広さに所狭しと武器が置かれていた。
『戦車』6両、『ジーブ』2台、『大砲』20門、『自動小銃』50丁、『バズーカ砲』3基、『手榴弾』100個、『スタングレネード』100個。
そして、『軍服に身を纏ったフル装備の人形』30体が天井からぶら下がっていた。
「怖っ!!」
「……すごい! これが勇者の『宝具』!」
呑気にクロエが感想を述べているが、置いてある武器はどれも近代的なもので、暴発しようものなら僕らは跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。まさに火薬庫だ。
「クロエ? 迂闊に触ったら駄目だぞ?」
「……だめ?」
そんな上目遣いしても駄目だ!
なんでこんな可愛い子が武器に触りたがるんだよ。軍オタかよ。
「そこの丸い弾みたいなのあるだろ?」
「……うん」
「多分それ1個でプレートフル装備している冒険者が2、3人バラバラになる」
「――っ!?」
ギュッと腕を組む力が強まった。
当然だろう。プレート装備はこの世界で最も防御力の高い装備だ。実際にバラバラになるかは分からないが、手榴弾の殺傷力を考えれば、無事では済むまい。それが100個もあれば何を意味しているか分かるだろう。
「……そ、そんな怖い武器を使って人間同士戦いをしていたの?」
おとぎ話のことを指しているのだろう。だが、僕にとっては前世の世界を暗示しているように聞こえてしまった。間近で見てみて、こんな兵器を惜しげもなく戦争に投入されていた世界にいたのかと思うと、戦慄を覚えずにはいられない。
「だから勇者は武器を取り上げて身を隠したんだろうね。魔族を討ち滅ぼすためだけに武器を使いたかったんだと思うよ。おとぎ話でも、魔族を亡ぼした後は武器以外の『宝具』を作っていたらしいし」
クロエを安心させるように回答した僕は、勇者の痕跡が他に残っていないか調査を開始した。クロエはピッタリと僕に寄り添うようにしてついてくる。
すると、奥まったテーブルの上に、勇者のものと思しき『手記』が残されていた。
「……読めない」
「入口と同じ言語で書かれているからね。『日本語』って言うんだ」
僕はクロエにそう言って『手記』を読み始めた。




