表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
27/38

25話「昇天返し」

「起きろグレース、こんなところで寝ていると風邪ひくぞ」


 反応なし。


「起きないと、エ、エロいことするぞ?」


 勇気を出して呼びかけるも反応なし。既に屍のようだ。


 【昇天サティスファイ】で絶頂を迎えて以降、グレースは気持ちよさそうに気絶している。


 ちなみにエロいことはしない。既にエロい恰好になっていて手の施しようがないのだ。


 バスタオルがはだけ、無防備にさらけ出された肢体は、かろうじて大事な部分が隠れているような有様だ。


 その肢体を例えるならば、未成熟な果実(ロリータ)。まだ熟しておらず酸味が強い。しかし、きっと今しかない味を持った果実(ロリ)


 そんな背徳感溢れる肢体に目を奪われることしばらく。


 ひとたび寝返りをうてば、さらにあられもない姿をさらしてしまうと気づいた僕は、可及的速やかに行動を起こした。


 体が冷えるといけないので、【暖房ウォーム】でグレースの周辺を暖め、持参したバスタオルでグレースの体を覆った。僕が持参した大き目のバスタオルは、小さいグレースと相まって、頭から足の爪先まですっぽりと覆うことができた。


「まるで遺体だな……」


 白いバスタオルを覆われたグレースに冥福を祈り、僕はお風呂に戻った。視界から危険因子を排除し、やっと人心地の付いた僕は、ふと体に倦怠感があることに気づいた。


「なんか体が怠いような……。心労がたたったのか?」


 咄嗟にステータスを確認して驚愕した。



スキルポイント:0

HP:100/100

MP:15/130

STR(力):30

INT(知力):5

DEF(防御):30

AGL(敏捷):60

DEX(器用):5



 げっ……。いつの間にか残りMPが15になっている……。【昇天サティスファイ】どんだけ魔力食うんだよ!MPを50近くも消費するとか燃費悪すぎだろ。


「完全にネタスキルじゃん……。寝る前限定の」



――数分後――



 もぞもぞと白い物体が動き出した。バスタオルで埋葬しておいたグレースが目を覚ましたのだろう。


「ん~?……あれ? ここどこ?」


「おはよう、グレース。ここは男湯だよ」


 言外に『早く出てってね』という意味も込めたつもりだったが、グレースはまるで気にした様子もなく自分の身が置かれた状況を察した。


「思い出したっ! マー君と『背中流しっこ』しに来たんだった。間接チューの次を狙っていたのに。逆にヤられちゃった……」


 妙にツヤツヤした顔でそう言って起き上がるグレース。


「背中を流しに来てくれたのは嬉しいけど、間に合っているよ。それに僕がグレースの背中を流すのはちょっと難易度が高い」


「ウチの背中を流すのは難しいの? せっかく『前も洗って』っておねだりする予定だったのに」


 危なかった……。


 そんなことされたら正気を保てる自信がない。


「どうでもいいけど、前はだけているから隠して。あと、ここ男湯だから出てって」


「体冷えちゃったから、ちょっとお湯に浸かってから出る」


 嘘つけ! 

 

 グレースの周辺は【暖房ウォーム】のおかげで暖かいはずだ!


「おっじゃましまーす!」


 何のためらいもなく、グレースはバスタオルを巻いたまま風呂に入って来た。


 バスタオルを巻いたまま入るのはマナー違反だとは口が裂けても言えない。


「いやいや! 女湯はあっちだから! 冷えたんなら、さっさとあっちへ行けばいいだろ?」


「あ~いい湯だね~」


「聞けよ!」


 元々広くないお風呂に加え、ことさら僕に近づいてくるグレース。そのせいで僕はお風呂の隅っこまで追いやられている。


「ところで、さっきのって魔法? あんなの初めてだった!」


「あー。さっきのは魔法だけど、意図せず発動しちゃったんだ。魔法のテストをしていてね。グレースに使うつもりは無かった。ほんとごめん」


 自分に使うつもりだったんだって言ったら引かれるだろうから、適当に誤魔化す。ついでに魔法をかけてしまったグレースに謝っておいた。


「い、いいよいいよ。テストならしょうがないよ! むしろ気持ちよかったくらいだし……」


 そりゃあ気持ちよさそうに気絶していたしね。そんなグレースの肢体を見てしまった僕は、完全に生殺しを食らっているわけだけど。


「マ、マ、マ、マ――」


 顔を真っ赤にしたグレースが突然壊れたラジオのような声を出し始めた。


 どうした?


 発生練習か?


「マ、マー君。そ、それ? もしかして――」


 グレースが指さしたのは、下腹部にある僕の息子だった。


 とても元気な(・・・)自慢の息子だった。


「……」


「……」


 グレースと同じくらい顔を赤くした僕は、内股になって手で下腹部を隠した。


「こ、これは! 男の生理現象だ! き、気にするな!」


「もしかして、ウ、ウチの体に興奮したの?」


「~~っ」


 穴があったら入りたい。


 卑猥な意味じゃなくて。


「そんなわけないか……。ウチの胸ちっちゃいし、幼児体系だもん……。男の人に『はずれ』って言われたこともあるし……」


 泣きそうなくらいしょんぼりしているグレースを見て、僕は元気づけたい衝動にかられた。


 『はずれ』って言われたことがトラウマになっているのか?そのせいでコンプレックスを感じてしまっているとしたら、僕はグレースを『はずれ』呼ばわりした奴を許さん。


「何を勘違いしているのか知らないけど、グレースは可愛いし、決して『はずれ』じゃないよ。恥ずかしい話だけど、僕が反応しちゃったのだってグレースを女の子として意識しているからだからね」


「え?」


「だから、そんなつらそうな顔していないで、いつもみたいに元気なグレースに戻ってよ。僕は元気なグレースが好きだ」


「――っ!!」


 グレースは狼狽し顔を真っ赤にして言葉に詰まらせている。


 僕はそんなグレースに畳みかけるように言い募った。


「過去にどんなトラウマがあったとしても僕が上書きしてやる。心無い罵倒が霞んでしまうくらい褒め殺しにしてやる。どこを褒めればいい? グレースのいいところならいくらでも知っているぞ? リスのようにキュートなところか? 天真爛漫に明るいところか? 抱きしめたくなるようなその愛らしさ――」


 グレースがギュッと力強く抱きついてきた。


 いつの間にか流れていた涙は嗚咽に変わっており、小さな体を震わせている。


「よし、よし。無理しなくていいんだぞ。つらい時は泣けばいいんだ」


 忌まわしき事件を経験した上、どこの馬の骨とも分からない男に『はずれ』と言われて傷つかない女の子がいるだろうか。それでも周りに心配をかけまいと、気を張って無理してきたに違いない。しかし、まだ10代の女の子だ。誰かに甘えたくなったって仕方のないことだと思う。


 僕は幼子をあやすようにグレースの頭を撫でてやると、堰を切ったようにわんわん泣き出した。グレースが僕を抱きしめる力も強まっていく。


「……」


 話は変わるが、グレースはとても力持ちの女の子だ。


 伊達に『フリージア』の幹部を名乗っていない。


 そんな子が、あらん限りの力を振り絞って抱きしめてきたらどうなるだろうか。


 裸同士で抱き合っているからといって、女の子特有の柔らかさや、体にあたる突起物の感触を楽しむ余裕はない。


 ミシミシと立ててはいけない音を立てて締め上げてくる。


「よ、よーし。ぐっ……グレース? そろそろ……」


「もっと……。もっとウチを褒めて。耳元で囁いて」


 囁いてやるのはやぶさかではないんだが、それをして締め上げが強くなったのではたまったものではない。MPも残りわずかだ。治癒魔法ヒールがどれほど使えるか分からない。


「……」


「やっぱり、ウチって女の子として魅力無いかな……」


 ぐっ……こうなったら一か八か。囁きまくって満足してもらうしかない。解放してくれることを信じて。


「ぐ、グレースは……食いしん坊の甘えん坊で……でもそこが可愛くて……」


 呼吸困難に陥りながらもグレースの耳元で囁いた。


 なお、締め付けは強まる一方である。


「まわりの子と……わけ隔てなく……誰とでも仲良くなれる……心の持ち主で……ぐふっ」


「……続けて」


 続けて?


 肋骨が悲鳴をあげているのに続けるの?


「誰よりも……負けず嫌いだけ……ど……一生懸命で……ひたむきで……」


「……」


「そ……傍にいる人を……み……んな笑顔にしてくれる……愛嬌のある……笑顔がすご……く」 


「……」


「か……可愛い」


「~~っ」


 あ。


 目の前が白くなっていく。


 お迎えがやってきた。どうやら僕はここまでのようだ。


 僕の目には耳まで赤くしているグレースの姿が映っている。そんな子の胸に抱かれて(締め上げられて)死ねるなら本望だ。


 まさか【昇天サティスファイ】を使った僕が天に昇ることになるは思わなかったよ。


 唯一の心残りは、意識が遠のいた先刻あたりから女湯の管理が出来ていないことだ。最高のお風呂を最後まで提供出来なかったのは非常に悔しい。


 出来ることなら、グレースの使用済バスタオルでぐるぐる巻きにされてとむらわれたい。



名前:マサキ

性別:男

ジョブ:剣豪、治癒師

状態:呼吸困難(・・・・)気絶(・・)


HP:95/100

MP:15/130

STR(力):30

INT(知力):5

DEF(防御):30

AGL(敏捷):60

DEX(器用):5



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ