24話「男湯と女湯」
――夕刻――
「今日のお風呂は男湯と女湯で分けます!」
夕食の『スパゲッティー』と『霜降りラビットの唐揚げ』を食べている時のことである。
「ふほ? はへふ?」
「レベッカさん、『唐揚げ』を食べながら喋るのは止めて下さい」
僕が注意すると、今度は咀嚼中の『唐揚げ』をしっかり嚥下してから口を開いた。
「ふぅ。『唐揚げ』か。これは旨すぎるぞ。私が生涯食べてきた料理で最も旨い」
「あ、ありがとうございます。いえ、今は『唐揚げ』の感想ではなくてですね――」
「ああ。男女で風呂を分けるという話だろ? お前にしてはいい考えじゃないか? 最初から分けてしまえば、この前みたいな悲惨な事故は避けられるだろう」
悲惨な事故とかどの口が言っているんだ?
故意的な事件だったじゃないか。しかも犯人は目の前にいる。
「ええ。そうです。これで悪意の塊みたいな策略者の陰謀を未然に防止できます」
「はふひ? はんのほほは?」
「食うの止めて下さい」
しらばっくれる気満々のレベッカさんは、素知らぬ顔で『唐揚げ』を食べ始めた。『唐揚げ』どんだけ好きなんだよ。
「それに、男女で分けることで僕の負担も減らせます。昨日は女性陣が全員出るまで外で裏方仕事をしなければならず、僕がお風呂に入れたのはかなり時間が経った後でした」
「んぐ。そうだな。しかも今日は前衛部隊と中央部隊も押し寄せるぞ? 昨日の様子から察するに、マサキが風呂に入れる頃には日が変わっているかもしれんな」
「はい。なので、男女でお風呂を分けて同時に入ってしまおうという算段です。人数比率が女性29人に対して男は僕1人ですから、規模は全く違うものになりますけどね」
お風呂を召喚し、湯の準備が整い次第順に女性陣を女湯に入れる。同時に僕も男湯の方へ入る。裏方仕事は風呂に入りながらすればいい。多少長風呂になるかもしれないが、昨日みたいに全員が出てから入るよりは格段に楽だ。
「いいんじゃないか? ちゃんと仕切りをしてもらえれば我々は文句言わんぞ」
「それは問題ないです。昨日の召喚で要領は得ました。男湯と女湯の間に給湯設備を挟んで壁にします。僕が給湯設備に直接魔法を使えるようにもなります」
僕が簡単な見取り図を広げると、レベッカさんがなるほどと頷きながら図面に見入った。
「脱衣所も通路を挟んでいるみたいだし、よく考えているじゃないか。女は臆病な生き物だからな。これくらいしてもらえると安心できる。しかし――」
レベッカさんが肩を震わせながら見取り図から僕へ視線を移す。
「お前、完全にうちの用務員だな。ぶっ、ぶははははははは!」
「……」
否定できないから困る。
食事や風呂の準備をしている僕は、完全に雑用係だ。ちなみに洗濯物はさせてもらっていない。
「よし。じゃあ私がこれをオリヴィアに見せてこよう。検閲してもらった上で問題なければ風呂を召喚してくれ」
僕は昨日オリヴィアさんと約束した通り、凄いお風呂にすべく知恵を絞る。
滝風呂、水風呂、五右衛門風呂、足湯など、数種類の風呂を用意しよう。ついでに、給油設備に隣接する形で、サウナを作る。ボイラーで湯を沸かす熱をサウナに送れば立派なサウナになるだろう。
しばらく思案して構想がまとまった頃、レベッカさんがオリヴィアさんからの許可を持って戻ってきた。
――数刻後――
大浴場Ver2ができた。
昨日の『テルマエ』をモチーフにした大理石の大浴場を改め、今日は本格檜風呂にしてみた。岩を壁のように高く積み上げて塀にし、内装は檜の香りが漂う和風テイストにした。もちろん、滝風呂、水風呂、五右衛門風呂、足湯も作ってあり、サウナも新設した。湯は昨日と同様『かけ流し』だ。
僕が風呂の完成を伝えようと、大浴場から出た瞬間、長蛇の列が目に飛び込んできた。後衛部隊だけでなく、中衛部隊と前衛部隊も押し寄せてきているようだ。ちなみに列の先頭には、陽気に鼻歌歌っているルイーズがいた。お風呂セット持って準備万端である。
「こ、これは……」
僕が長蛇の列に圧倒されていると、オリヴィアさんが近づいてきて説明してくれた。
「ごめんなさい。昨日の夜入ったお風呂のことをみんなに説明しちゃったの。そしたら、絶対に入りたいって言い出しちゃって。部隊ごと順番制にしようとも思ったのだけど、我慢できなかったみたい。食事を済ませた子たちが早速押しかけてしまったわ」
「それは何というか、作った甲斐がありましたね。今日は昨日より力を入れていますので、是非満喫して頂きたいです」
「そう。私も期待しているわ。今日は男女別に作ってくれたのでしょ? ありがとう。昨日のこと気を遣ってくれたのね」
オリヴィアさんの優しい微笑みに少しドキッとする。
「い、いえ。男は僕一人ですし、大した手間でもないですから。僕もゆっくりできますし」
「皆、あなたのお風呂を凄く待っていたのよ? ご飯も美味しいって聞いているし、後衛部隊ばっかりズルいって文句が出てしまっているくらいなんだから」
「恐縮です。じゃあ早速入ってもらいましょうか。ただ、一気に入ると脱衣所が混雑するので、5人ずつ順番に入場してもらいましょう。先に入場した5人が脱衣所を通過したら、次の5人を入場させるような感じで。脱衣所がそこまで広くないので協力しても貰えると助かります」
「分かったわ。私が誘導するから、あなたは男湯でゆっくりしていらっしゃい」
「ありがとうございます」
ゆっくりと言っても、これから裏方仕事が待っているんだけどね。でもまぁ、お言葉に甘えて一人でゆったりとくつろぐのも悪くないかな。昨日の要領でやれば、裏方仕事なんて片手間だし。
僕は脱衣所で服を脱いで男湯に入り、給湯設備の調子を確認しながら【生活魔法】を使用した。
【点火】でボイラーの火力を調整し、【湧き水】で『かけ流し』の湯を補充し、【暖房】で鏡の曇り止めをし、【発光】で浴室内と脱衣所を照らす。さらに、水風呂に【湧き水】で水を補充し、サウナの温度管理を徹底する。
僕は【生活魔法】の使用と並行して体を洗うと、湯船に浸かった。
「あ゛ぁ~」
足を伸ばし、体を弛緩させる。芯まであったまるとはこのことだ。
「暇だし、スキルポイントのチェックでもするかな」
スキルポイントの振り分けは数日前にしたばかりであるため、大して期待していなかった。しかし、思った以上にポイントが溜まっていたため、思わず声を張り上げてしまった。
「えっ!? 15ポイント!?」
思い当たるふしは昨日の戦闘と、一昨日の料亭での護衛撃退くらいだが、2回の戦闘でここまで上がるのか?
確かに強い敵を倒すと経験値が入るのは道理だけど。
「ま、まぁ、思った以上に入っているんだからいっか」
スキルポイント:15
HP:100/100
MP:35/100
STR(力):30
INT(知力):5
DEF(防御):30
AGL(敏捷):60
DEX(器用):5
スキル:回復魔法、魔法阻害、剣豪、召喚魔法、生活魔法
「んー。ステータスを上げるのもいいけど、便利なスキル手に入らないかな」
僕は【鑑定】スキルが欲しいと念じてみる。
【鑑定】――【アビリティ鑑定】:30pt
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|―【ステータス鑑定】:50pt
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|―【アイテム鑑定】:10pt
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|―【パーソナル鑑定】:20pt
「足りぬ……」
辛うじて『アイテム鑑定』は獲得できるが、その他はかなりポイントが必要だった。
「とりあえず、鑑定スキルの獲得は保留だな」
次に『勇者』が持っていたとされる『転移』スキルとやらを見てみる。
【転移】―――【空間転移】:10万pt
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|―【時間転移】:50万pt
「馬鹿じゃん! なに10万とか50万って。滅茶苦茶頑張って、仮に1ヶ月で30のスキルポイントが手に入り続けたとしても、『空間転移』獲得に8年かかるじゃん! 『時間転移』はその5倍だから40年だぞ……」
神の言っていたスキルの交換ポイントが高いという意味がよく分かった。
「割とスキルポイントが少なくて便利なのはないかな……」
僕が頭の中でスキルをチェックしていくと、いくつか抜きんでて必要スキルポイントが少ないのがあった。その中でも気になったのが以下のスキルだ。
【隠蔽】―――【アビリティ隠蔽】:3pt
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|―【ステータス隠蔽】:5pt
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|―【アイテム隠蔽】:1pt
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|―【パーソナル隠蔽】:2pt
鑑定スキルと相反しているが、必要スキルポイントは鑑定に比べて10分の1だ。隠蔽スキルを全部取っても11ポイントだから、今のポイントで全部取れる。僕は異世界から転生しているし、パーソナル鑑定とか食らったら一発で周りから浮いた素性がばれてしまう。取るべきだろうな。
あと、もう1つ気になったスキルがある。
【昇天】:1pt
内容:対象に性的快楽を最大限与え、果てさせる。対象の弱点である感度の高い性感帯を自動検知し、愛撫する。
理由は説明しない。
ポチッとな。
スキルポイント:0
HP:100/100
MP:35/100→65/130
STR(力):30
INT(知力):5
DEF(防御):30
AGL(敏捷):60
DEX(器用):5
スキル:回復魔法、魔法阻害、剣豪、召喚魔法、生活魔法、【NEW】隠蔽、【NEW】昇天
15ポイントのうち、11ポイントは【隠蔽】に使った。スキル欄には、まとめて【隠蔽】としか表示されないようだ。しかしこれで相手から僕の情報が盗み見られる心配が無くなったと言っていい。
残り4ポイントうち、1ポイントは【昇天】。3ポイントはMPに全て振っておいた。お風呂の召喚でいつもギリギリまでMPが持っていかれるのしんどかったからな。
「よ~し。いいスキル振りだったな! あれかな? 【昇天】って自分にも効くのかな? 自分で慰めるより気持ち良かったりして……」
僕は自分の下半身をみてゴクリと生唾を吞み込んだ。自分を慰めるということは決して悪いことじゃない。性欲は誰しもが持つ欲求だ。きちんと向き合って処理しないと色々溜め込んでしまう。
「よ、よし……」
僕は【昇天】の魔法をかけようとした瞬間だった――
「マーくーん! おっ待ったせー! 背中流しっこしよー!」
「――っ!?」
グレース!?
【昇天】
あ……。
【昇天】の魔法を使おうとした瞬間だったため、魔法の対象がグレースになってしまった。
「えっ!? んっ……なに……これ……ふぅ……あっ、あぁんっ」
バスタオルを巻いているグレースが、ペタンとお姉さん座りして胸やら下腹部を手で押さえている。恐らく【昇天】が発動して、感度の高い部位が刺激されているのだろう。
「ま、まずい……。どうやって発動した魔法を解除すればいいんだ!?」
グレースはビクッビクッと体を痙攣させている。
ていうかエロい。
「はぁっ、はぁっ……お腹が熱い……あぁんっ! も、もう限界っ」
「はっ! そうか! 【魔法阻害】!」
時すでに遅く、頬を紅潮させたグレースが昇天していた。




