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異世界ファンタジーなのに攻撃魔法が使えない  作者: 三好 幸人
1章 『冒険』
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20話「グレースの想い」

 ウチの名はグレース。ただのグレースだ。


 家名は貴族や商人しか持たない。孤児であったウチには縁のないものだ。


 ウチは顔も名前も分からない両親に捨てられ、孤児院で15歳になるまで育てられた。


 孤児院では、よく孤児の子供たちと一緒にチャンバラごっこをして遊んだ。男の子ばかりの中、1人女のウチが紛れて、木の棒切れを振り回していた。騎士の真似事で、決闘ごっこもした。


 勝敗は子供たちの中の絶対的な序列だった。勝った者は強く、憧れの的で、リーダーになれた。だからウチも勝敗にこだわった。


 全戦全勝だった。


 自分より体格のいい男の子や、ずる賢い年長の男の子でも負けることは無かった。どんな相手だろうと、ウチの勝利が揺らぐことはない。


 ウチには他の子には無いものを持っていたから。


 【絶対防御パーフェクトディフェンス


 魔力がもつ限り、どんな攻撃も通さない鉄壁の防御力を得ることができる。この能力のおかげで、どんな相手だろうと粘り勝つことができた。


 無敗のウチは、15歳で孤児院を出た。そして、弱肉強食社会の冒険者になった。


 しかし、順風満帆とはいかなかった。


 能力(アビリティ)のおかげで飛び抜けて強かったウチ()は、プライドの高い男の冒険者にとって目障りな存在だったのだ。


 ギルドの中で浮いてしまったウチは、1つのギルドに定着することなく、転々と居所を変えていった。


 この能力(アビリティ)があれば、ソロでも冒険者稼業はできるだろう。いっそ、ギルドなんかに所属しないで、ソロで活動してみようか。そう思っていた頃のことである。


 冒険者ギルドでクエスト掲示板を見ていたウチは、オリヴィアという場違いなほど美しい女性に声を掛けられた。


「あなた1人? もしギルドを探しているのなら、うちのギルドがおすすめよ。なんたって団長は女性である私なんですもの」


 第一印象は自意識過剰な人だと思った。『私が団長だからおすすめよ』と言って勧誘してくるとは、どれだけ自信家なんだろう。


 しかし、女性が団長であるなら、ウチのような浮いた存在でも受け止めてくれるかもしれない。


 そう思って、オリヴィアの誘いに乗った。


 ウチが入団した当時は、まだギルド名が『紅蓮』だった。男性メンバーが10名ほどいたが、残りメンバーが全員女性であったため、孤立することはなかった。


 当時の幹部は、団長のオリヴィア、前衛部隊長ミゲル、後衛部隊長レベッカの3人だった。前衛と後衛の2部隊編成になっており、後衛部隊には攻撃魔法の使い手であるニーナも所属していた。


 ウチは前衛部隊に配属され、飛び抜けた防御力で一目置かれるようになる。しかし、ギルド内で浮いた存在になることは決して無かった。


 なぜなら、ウチよりも優秀で強い女性メンバーが3人もいたからだ。


 団長のオリヴィアは貴族出身で、攻撃魔法と剣術をともに習得している戦闘のスペシャリストだった。


 後衛部隊長のレベッカは騎士団出身で、身の丈近くある大剣を軽々と振り回す怪力女だった。幼馴染であったオリヴィアに誘われてギルドを立ち上げ、二人三脚でギルドを拡大してきたらしい。


 後衛部隊のニーナは魔法師教会出身で、氷系統の攻撃魔法を得意としている火力馬鹿だった。将来有望視された魔法使いの卵であったそうだが、オリヴィアに一目惚れ(?)したのがきっかけで入団したらしい。


 ウチは女性が主役になれるこのギルドならやっていけると思った。そして、ウチより優秀な3人の女性冒険者がいるこのギルドに骨をうずめる決意をした。



――数カ月後――



 とても寒い夜だった。


 恐らく今年の冬最後のギルド遠征になると思われた最終日。団員が寝静まった頃に突然何者かがテントの中に侵入してきた。


 まどろみの中にいたウチは、何が起きているのか全く分からず、気づけば知らない男に馬乗りされていた。


「――っ!?」


「ちっ。はずれか。俺は巨乳派だってのによ。できれば胸のでかいあの大人しそうな子がよかったぜ」


 ……は?


「お前あれだろ? 最近名をあげた『鉄壁』だろ? 知ってるか? お前にもう一つあだ名があることを」


 ……言ってみなよ。


「その全く無い胸に敬意を表して『絶壁』って――」


 その後の記憶は無い。


 ウチに馬乗りした糞野郎をぼっこぼこにしたような気がするが、記憶が曖昧で定かではない。ウチ自身にキズ一つないことから、完勝したことは間違いないだろう。


 その後、ギルド内の男性メンバーが全員内通者であったことが判明し、オリヴィア、レベッカ2人の決断により処断を下すことになった。その際、ウチは2人に『いでしまえ』としっかり進言しておいた。


 男性メンバー10名を追放したことにより、ギルドが一気に20名まで減った。しかし、貴族出身の有能なヒーラーが加入するなど、徐々にメンバーが増えていき、完全女性ギルドの新生『フリージア』が誕生した。


 ギルド名変更と新しいメンバーの加入に伴い、ギルドの組織改革が行われ、ウチは3部隊編成の前衛部隊長に就任した。そして新たに新設された中央部隊には、ニーナが部隊長として任命された。


 4人になった幹部で、二度とこのような事件を起こさせないように、力を付けていこうと誓い合った。



――半年後――



 クレアがさらわれた。


 どこぞの豚貴族が糸を引いているに違いない。おまけに過去の忌まわしき事件で追放したはずの男性冒険者からクレアの身の代に対する要求があった。


 どこまで下衆な連中だろうと思った。


 男は弱いくせに虚勢を張り、我が物顔で女を好き勝手に扱う醜い生き物だ。


「ニーナの馬鹿に付き合ってる暇はないわ。私たちはあと10日以内(・・・・・)にクレアを救出しなければならないのだから」


 オリヴィアが真面目な顔で言う。


「そうだよねぇ。クレクレを誕生日までに助けてあげないと。今もきっと怖い思いしてるはずだよ」


 クレアは絶対に助ける。ウチの胸を絶壁・・呼ばわりした奴らは絶対に許さない!絶対に!


「ごめんなさい。団長。決してふざけてるわけじゃなくて本気なのだけ――あっ、痛い! 痛いですっ! 団長! ごめんなさい!!」


「しかし凝りもせずに復讐してくるとは思わなかったな。オリヴィア、今回はもう容赦なんて必要ないぞ?」


 当然!ウチも絶対に容赦しない!


「ええ。分かってるわ。禍根は今回で絶つつもり。そのためにもギルドの総力を上げて救出するわよ!」


「おー!」


 どんな攻撃でも耐えうるこの【絶対防御パーフェクトディフェンス】を使って男どもに目にものを見せてやる!


「かっこいいです団長!私も頑張ります!」


「当たり前だ」



――――



 ウチは今、非常に困ったことになっている。


 マー君の顔がまともに見れない……。


 マー君の声を聴くと胸が高鳴り、息が出来なくなる。


 でも、マー君の声が聴こえなくなると、途端に寂しくなる。


 予兆はあった。


 料亭で絶対的な権力を持っている貴族に、恐れることなく果敢に立ち向かったマー君は凄くかっこよかった。でも、その時はここまで深刻な状況じゃなかった。


 事態が悪化したのは、大浴場の戦闘でのこと。


 ウチが尊敬している仲間2人の攻撃魔法が一瞬で止められた。2人はランクAの冒険者であり、詠唱速度に定評があるにも関わらずにだ。


 同時にウチとの格闘戦が開始されるが、その対応力にも目を見張るものがあった。殴っても蹴っても致命打を与えることができない。それどころか、なるべくウチの裸体を見ないようにしてくれたし、ウチが怪我しないように配慮してくれた。女の子として優しく接してくれた。


 そして、隙を見せたとはいえ、生まれて初めて男の子に負けた。


 男が弱い(・・・・)という私の根底にある考えが覆された瞬間だった。


 湯船に投げ飛ばされている間、私の心の中に新たな感情が芽生える。


 マー君は男だけど、そこら辺にいる弱い男じゃない。ましてや、我が物顔で女を好き勝手に扱う醜い生き物でもない。


 逆だ。私が考えていた男という像の真逆。


 強くて女の子を大切に扱ってくれる優しい人。ウチを女の子として扱ってくれる優しい人。


 気づいた時にはもう気持ちに歯止めがかからなくなってしまった。ウチは、まともにマー君の顔が見れず、顔を下に向けてうずくまってしまう。


「うぅ~~」


 なんか皆で話してるけどまともに耳に入ってこない。怒った声、落ち着いたマー君の声、困惑した声、深刻そうな声、泣きそうなマー君の声、楽しげな声、心配そうなマー君の声――


「グレースさんも戻りましょう? さっきから調子悪そうなので送って行きますよ」


 ウチの肩にマー君の手が触れた瞬間、体がビクンッと反応してしまう。


「――っ!? にゃ、にゃにをするっ!?」


 触れられた肩に熱が帯びたような感じがする。触れられた感触が残ったまま消えてくれない。


「え? いや調子が悪そうなので送って行こうかと」


「ひっ、必要にゃいっ!! にゃめんなちくしょおー!」


 ウチはそう叫ぶと前衛部隊のベースキャンプまで全力疾走した。


 恥ずかしくて仕方がない。まともに顔も見れなかったし、会話も出来なかった。でもマー君に心配してもらえた。嬉しい。ついつい顔がにやけてしまう。


 些細なことで心が揺り動かされていることに内心驚きながら、隠れるように寝床にもぐりこんだ。


 お風呂上がりだからか。それとも全力疾走したからか。火照った体は鎮まることなく、一人マー君のことを想ってウチは眠りについた。


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