37.監獄への侵入者―1
百花女子大。
四年制、そして、(珍しくも)院までもってる淑女たちのための教育機関。
オレが通ってる、って言うか、通わされてる大学で、百花なんていかにもな校名を冠し、実際、世間での評価評判もお嬢様学校。
だけど、在学生たち間での通り名は『監獄』
何故って、立地が不便で、かつ、全寮制、でもって規則が厳しいから。
……って言うかさぁ、世の中の、それも金持ってる家の親ってぇのは、どうして『娘』となると『箱入り』にしたがるもんかねぇ。
男女平等とか口にする割りには、息子よっか娘に対する縛りがキツくない?
やれ門限だ、やれ習い事、お稽古事だと、日常生活に制約がくわえられるのは、とかく娘の方が多い気がするんだわ。
世の中に出ても淑女として恥ずかしくないように、とか何とかで、子供の頃からスケジュールなんかガッチガチ。
挙げ句の果てに親が強制的に決めた進学先の学校が全寮制。
下宿とか一人暮らしじゃなくって、寮だよ寮!
百歩譲って高校生までは子供だからと譲歩もしよう。
でもサ、仮にもオトナな大学生がだよ、他人から生活の管理までされる必要ってある?
ホントに男女平等って言うなら、全寮制の男子学校とか、大学であんの? ないだろ?
え?
あ、防大とか、省庁管轄の学校はそうなんだ。
ふ~ん……。
でもま、それはそれとして!
世の一般の大学のみならず、親と同じかそれより上の世代なおとながオレたち若い娘に求めているのは『良妻賢母』?
某国営放送の朝ドラとかで未だに描かれているテンプレだよな。
それこそ死語だろって、当の娘であるところのオレなんかは思っちゃうけど、きっと、坊主頭の高校野球の選手とか、ある意味、おとな目線で見た時のそれは理想像の類いなんだろう。
ぜんたい、立ち居振る舞いやマナーについてはその習得の必要を認めないじゃないけど、言ってしまえばそれって行動面での上っ面だろ?
そう言いきるのがマズいってんなら、技術だよ。
人と人との関係を円滑に保つためのテクニック。
別に人格までもを矯正するようなマネをする必要は無い。
TPOに合わせ、その時その場に適切に振る舞えればいい。
KYだとかDQNとかの女版を世に出さないためにおこなうのが淑女教育って言うなら、オレにもまだしも理解できるんだ。
でも、親が学校が――おとなたちが押しつけてくるのはそうじゃない。
ってか、そうした範囲を超えている。
言わせてもらえりゃ、一種の洗脳――虐待じゃねぇの? と、オレなんかは思う内容なんだよなぁ。
ンだから、オレは作ったね。
『MRレディース』
親の希望にさからわず、学校の規則に抵触しない、オレら淑女のためのサークルを。
言った通りに、オレが在籍している百花女子大は、全寮制との触れ込み通り……、ってか、全員が寮に入らなきゃ通学そのものが難しいような僻地にある。
有り体に言えば、学校の敷地はまるっと山ひとつ……?
いや、ふたつかみっつ……?
とにかく、そんな人里はなれたド僻地にある。
学生であるオレら乙女を除いたら、猿か鹿か、それとも熊くらいしかいないような、マジでここは日本か? な土地なんだ。
仮に学校生活に耐えかねた生徒が脱走したとしよう。
校舎、もしくは寮から娑婆に着くまでに、歩きだったらマヂで遭難しかねない。
先に『監獄』だって言ったのは、つまりは、そーゆートコからきてるワケ。
だけども、建学された時代がふるいから、今の目から見りゃ、それなりに穴もあるんだな。
その最たるモノがクルマ。
学校から逃走するのに徒歩だと目的地に辿り着けないって言うならクルマを利用すればいい。
明治、大正の大昔なら知らず、現代はクルマが世の中にあふれてる時代。
自分ん家の――親指し回しのクルマが使えない。深窓の令嬢な育ちの事とてタクシーの乗り方もよくわからないと言うなら、いっそ、自分で運転すればいいんだ。
なにより手許に言葉の通り、『マイ』カーがあれば、行動の自由はグンとひろがる。
そして、明治、大正のはるか太古に建学された我が百花女子大には、学生に免許の取得を禁じたり、自分のクルマを学内に持ち込むことを禁じる校則は無い。
なにせモータリゼーションなんて言葉が、『モータリゼーション? なにソレ、美味しいの?』な過去世につくられたルールで校則だから、そもそもそんな発想自体がなかったワケよ。
なにかにつけ誇る、自慢の伝統が逆に仇になったね、ざまぁみろ!
というワケで、それから後は簡単だった。
山神の爺ちゃん婆ちゃんの家にも似た山のただ中に、ただし、全寮制の大学を一個建てるとなれば、それ相応に平らに均した土地が必要だったから。
だから、校舎や寮といった建物の建材をまとめて置いとく場所であるとか、建設工事に携わった大工さんはじめの業者さんたちとかが寝泊まりをする仮の宿舎や現場事務所とかが必要だった。
もちろん、そうした場所と下界をつなぐ道路も必要。
なので、
学校施設が一式完成しても、そうした場所は上屋は引き払っても、その跡地についてはそのまんま。
地均しをされた状態――なんなら舗装まで施された状態で、言うなら放置されていた。
そこをオレは利用、と言うか活用したんだね――クルマをころがす場所として。
そして、そうこうしているうち――オレがおじ様からお借りしお預かりしているX1/9(改)で遊んでいると、音を聞きつけたんだろう、三々五々と人が集まってくるようになった。
もちろん、人里はなれた立地のこととて、見物人は同じく百花女子大の生徒たち。
音の発生源、また、その原因がわかると、ほとんどは興味を失い去っていったけど、中には逆に通い詰めてくるようになった人間もいた。
ついには、オレと同様、自分のクルマを乗り入れてくるに至った人間まで。
で、
オレは学内に新規でサークルをつくることにした。
同好の士があつまった以上は当然の決断。
もちろん、だけれど、サークルの設立に際しては、渋ると言うか、学校側にはいい顔をされなかった。
でも、まぁ、そうしたあたりは予測済み。
仲間内で練ったサークル立ち上げの理由を読み上げてやった。
曰く、
本学を卒業後、社会に出たオレ……、もとい、私たち学生は、やがては誰か殿方と結ばれ、子を産み、あたらしく家庭を築いていくこととなるだろう。
そうして、自分自身の家族をもち、我が子を育てる過程において、昨今、世にみうけられる煽り運転、また、災害等に遭遇した時、その危急の状態から大切な家族や我が身をまもるための一種の護身術として自動車の運転技術、その向上は是非に習得しておくべき課題。
それを習得、また、研鑽を積む場としてのサークル創設をここに希望するものである。
――なんて屁理屈をならべて学校側の許可をもぎとったんだ。
それで、晴れて出来上がったのが我らが『MRレディース』
学内では異端児と目される乙女、淑女たちが集うサークルなんだと、そういう事よ。




