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第八十四話 恋焦がれるようになれば分かるらしい

 二人三脚とは、片足をもう一人の片足と結びつけ指定された距離を走る競技である。

 この競技でなにより大事なのは片足を結ぶ相手とのタイミングだろう。

 今夜試走として短い距離だが走ることになった。


「結構身長差ありますね」

「まあでも龍輝くん達ほどじゃないから平気でしょう! あんまり時間が遅くなってもあれだしレッツゴー!」


 イケメン生徒会長と一緒で且つ物理的に繋がれてさぞ嬉しいだろう。

 鈴音さんはアメみたいに特殊な性癖は持ち合わせていない。普通に恋愛していたし、イケメンが傍にいれば嬉しいのだろう。

 嬉しいのは分かるがまだ歩幅とか合わせられてないんだからあんまり引っ張るのは止めて差し上げろ。


「俺達も少し走るか」

「あ、それならわたしいいルート知ってますよ!」

「舗装されてて人に迷惑がかからない場所ならいいぞ」

「川沿いです! この時間なら走ってる人はあんまり居ないと思います!」


 人がいないのはありがたい。

 学校のジャージを着ていない男女二人が河原で脚を結んで走っていたら異様の一言。

 下手すれば補導されてしまう。


「取り敢えず一歩はこんなもんか?」

「ちょっと大きいですかね」

「んじゃこのくらい」


 一歩前に出した脚を少しだけ俺達側に近づけた。


「そのくらいなら大丈夫です」

「よし。今回は走らずに軽く歩くつもりだがそれでいいか?」

「はい! 先輩とならどこへでも!」


 海原はとても元気に返事をした。

 さっきまで少し不満そうな顔をしていたのにも関わらず今は満面の笑み。

 海原に案内してもらって鈴音さん達とは別のルート、川沿いを歩くことにした。


 夏が終わり、秋に突入する時期。

 水辺だからか虫の音がどこからともなく聞こえ、まだじっとりとした生暖かい風が俺達の横を吹き抜けた。

 会話が無ければ水の音すら聞こえてくる河原を後輩と片足を結ばれながら歩いた。


「夏本番に比べたら涼しくなりましたね」

「それでも昼間はまだ暑いけどな」

「寒くなっても紫外線量はほとんど変わらないんでわたし的には辛いですよ」

「少しの紫外線でもアウトだもんな」


 夏に比べれば紫外線量は落ちるがそれは常人からすればの話で、海原のような特異体質者からすれば警戒すべきものなのだ。


「紫外線が限りなく少ない夜が続けばいいと思います」

「それだと俺の顔は見えないだろ」

「先輩は見えるんですか?」

「まあ、夜でも髪の白さは変わらないし赤目も結構目立つぞ」

「それって~。先輩が一生懸命わたしを探してるだけじゃないですか~?」


 目線を横に向ければ海原がニヤニヤとしていた。

 解らせたい衝動を抑えつつ視線を前に戻した。


「そうかもしれないな」

「どうして~? どうしてわたしのことを探すんですか? 彼女でもないのに」

「彼女以外にも大切な存在っているだろ」

「奥さん? お嫁さん? 俺の女?」

「とかな」


 ほとんど同じ意味だし俺は海原を「俺の女」と言ったことは一度たりともないぞ。

 しばらく歩き続け、歩幅を合わせることに慣れてきた時、海原が止まった。

 海原が止まれば足を繋がれている俺も自動的に止まる。


「すいません。先輩、布で擦れちゃって」


 申し訳なさそうに眉をひそめる海原。

 暗闇で見づらいが海原のくるぶし辺りが擦れて赤くなっていた。

 ベンチに海原を座らせ紐を解いた。


「痛みは」

「ちょっと靴擦れみたいになっただけで外してしまえば痛みはないです」


 確かに少し赤くなって擦れているだけで血が出たりはしていないようだ。


「先輩と一緒だったのに」

「物理的にな」

「それがいいんじゃないですか。手錠で結ばれた二人が結ばれていくストーリー!」

「既に手錠で結ばれてるだろそれ以上を求めるのか」

「当たり前ですよ。好きな人の愛を受けたいと思うのは乙女心というものです」


 通りで乙女心が理解できないわけだ。

 俺はそんな拘束してまで相手の愛を受けたいと思わない。


「先輩もわたしに恋焦がれれば分かります。一分一秒でも一緒にいたいと思うようになりますから」

「絶対にならない」

「なりますよ。わたしを理解しようとすれば」


 街灯が少ない川沿いでも海原が笑っているのが分かる。

 それもさっきのような満面の笑みではなく、俺を試すような挑戦的な笑顔。


「残念だが、俺はそこまで柔軟じゃない。変わりたくても変われないんでな」

「甘いですね先輩! 先輩自身で変われないというのなら! わたしが変えてみせますよ!」


 ベンチから勢いよく立ち上がり海原は大声で叫んだ。

 よくもまあ、そんな恥ずかしいことを大声で言える。人を変えるだなんてそんな不可能に近いことを。


「わたしには出来ます! だって先輩の笑顔を引き出したんですから!」


 過剰なまでの自信の出所はそこか。

 だがまあ、後輩の挑発にのってゲームをするのも楽しそうだ。


「やれるもんなら」

「やってやりますよ」


 月明りが照らすベンチで海原の目は自信に満ち溢れていた。


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