第八十五話 幼女の負けるOL
足から紐を外し帰ると家の入口で鈴音さんたちがなにやら揉めていた。
生徒会長がアメになにか頼み込みそれに対しアメは首を横に振り続けている。
「なにかあったんですか?」
呆れ気味の鈴音さんに聞いた。
「ウチじゃ嫌なんだってー」
「いやそんな......嫌とは言いませんけど目のやり場と走るたびに当たるのが男としては無関心を貫けないというか」
「つまり生徒会長はこの脂肪の塊に欲情したわけですか」
「海原。言い方」
「だってそうでしょう! 大きければ褒められ小さければ「お前ぺったんだな」と嘲笑われる! 胸が大きいのがいいなら水風船に水いれてずっと揉んでればいいじゃないですか!」
なぜ海原が発狂しているのか分からない。いや、理由は散々あったやりとりだから分かるけど。
だが水風船で代用できるものなのか? 胸って。
「といってもアメもそこまで変わらないだろ」
「先輩?」
「他意はない。客観的に見た大きさの話だ」
アメも俺と同年代ながら大きさは鈴音さんといい勝負。ただ鈴音さんより目のやり場には困らないというだけの話。走って当たるのも変わらない。
「その辺は僕の気持ち的な問題さ」
生徒会長は爽やかに答えるが女性陣からの目線は冷たい。
「山田くんだってそうじゃないかい?」
「いや別に。柔らかいなーくらいじゃないですか? って! 爪を立てるな」
「裏切り者」
なぜ俺まで冷たい視線を受けなきゃいけないのか。
「でも残念だよ。きっとアメリアさんは喜んでくれると思っていたのに」
もったいぶったような言い方で生徒会長は言った。
それにアメは興味があるのかじーっと生徒会長を見つめている。
「僕には妹がいてね。小学校三年生なんだけど」
「お兄様!」
生徒会長がそこまで言いかけたところでアメはぶら下げられた餌に食いついた。
それでいいのか世界的企業の跡継ぎが。
実の妹を生贄にするとか最低かよ。
「練習に付き合ってくれるなら今度連れてくるよ」
「小学生なら友達と遊ばないですか普通」
スマホの普及により外で遊ばなくても家にいながらネットで集まることも簡単になった。
小学校三年生と言えど素直に来てくれるかどうか。
「先輩は遊んだんですか?」
「いや。雅樹の取り巻きがうざすぎて基本引き籠り」
「わたしと一緒ですね!」
「僕の妹は不登校でね。友達もいないんだよ」
「龍輝くんと一緒じゃん!」
やかましい。
クラスで名前覚えているのが柚子と雅樹だけ。あとは知らない。中には苗字すら知らない人だって未だにいる。
「ということでどうかな」
「受けマス! むしろ受けさせてくだサイ! お兄様!」
さっきまで首を横に振り続けたお嬢様も幼女という生贄を前にすれば今度は縦にしか首を振らなくなってしまった。
「これってウチが小学校三年生に負けたってことでいいの?」
「そうですね。あってるんじゃないですか?」
「ぶっふ! 唯一の武器が小学生に負けるってどんな気持ちですかぁ? 教えてくださいよぉ」
「煽るな煽るな」
「龍輝くん! 怖い後輩がイジメてくるよぉ」
「煽り返すな」
鈴音さんが俺に抱き着いた瞬間、海原の目が変わった。
頼むからこれ以上修羅場を作らないで欲しい。板挟みが辛いから。
「モテモテじゃないか」
「本当に俺のことが好きでくっついてくるなら文句はないんですけどね」
「わたしは好きです! 大好きです!」
「あ、そうだ」
なにを考えているのか、俺から離れた鈴音さんの手が海原の股に伸びた。
「きゃう! なにするんですか!」
「あれ? なにもない」
「先輩! 助けてください!」
「なにやってんですか」
同じ性別でも好感度によっちゃ出来ないこともあるんだよ。
「いや、二人とも帰りが遅かったじゃん? だから夜の闇に紛れて子孫繁栄を」
「馬鹿か? 外でそんなことするわけないでしょうが」
「そうです。わたしだって初めてはやっぱり愛し合いたいですし......ね? 先輩」
「俺に振るな」
顔を赤らめてこっちをチラチラ見るな。理性が仕事するの怠けそうだから。
そして野次馬共。そんな新婚を見るような温かい目はやめろ。まだ早い。




