第八十三話 顔合わせ
いつもの帰り道を自転車を押して生徒会長と帰るという異様な経験を今俺は体験している。
前には雅樹と柚子と海原が楽しそうに話している。
半年前はバチバチだったようだが冗談を言い合えるくらいに仲良くなってよかった。
「いやー後輩と帰るなんて初めてだよ」
「会長いつもどうやって帰ってるんですか?」
「電車かな。と言っても自転車で来れない距離ではないけど坂があってね。辛いんだよ」
「でも一年からその坂漕いでいれば結構な体力と筋力つけられたでしょうに」
俺が太らないのもそこそこ体力があるのも一年から自転車通学だからだ。
今年からは後ろに人乗っけて走ってるから去年より余計に体力もついてきた。
まあ、俺の場合は家から駅まで遠いし自転車の方が効率がいいから使わないだけだけど。
「自転車といっても家族共有だし、僕が学校に乗っていくわけにもいかないんだよ」
「兄妹とかいないんですか? 兄妹が居ればもう一台買っても使う人はいると思いますけど」
「小学校三年生の妹ならいるよ」
小学校低学年ならそもそも自転車のサイズが合わないだろう。
生徒会長の身長は少なく見積もっても一七〇センチ。買ったとしても学校に乗って行けるものではないだろう。
キラキラピンクの女児用自転車に乗って登校する生徒会長も見てみたいけども。
下手したら登校する前に警察に連行されるかもしれないな。
「年齢が離れてると大変ですね。俺は兄妹がいないんで分からないですけど」
「まあ、でも可愛いよ。反抗期迎えた時が怖いくらいに」
「小学校三年生ならあと十年もないですね」
俺がそういうと生徒会長の顔は引きつっていた。
それほど妹が好きなんだろう。
他愛ない話をしながら少し前に雅樹達と別れ二つ先の俺の家まで帰った。
「お邪魔しま......本当に僕お邪魔だった?」
「いえいえ。こうでもしないと暴れるので。犬には首輪をした方がいいって言うじゃないですか」
俺は出来るだけ何事もないように言ったが生徒会長の顔からは困惑の色がうかがえる。
「ん~! んん~!」
「アメありがとう」
「お安い御用デス! でも大変デシタヨ? 鈴音は暴れまシタ!」
玄関入って正面に見えるソファには亀甲縛りにされた鈴音さんの姿が。
アメになんでもいいから縛っておいてくれと頼んだ結果がこれ。
「アメ。口だけ開放してくれ。身体はあとだ」
「目のやり場に困るよ......」
「そうですか? なら全開放で」
縄から開放された鈴音さんは開口一番に不満を口にした。
「酷いよ! ソファで昼寝して起きたら縛られてる恐怖味わったことある!?」
「ないですね。よかったじゃないですか。貴重な体験が出来て」
「今度龍輝くんが寝てる時に縛ってやる」
「え? そんなことしたら縛ってケバブ屋か海にぶん投げてあげますよ」
「海原さんって結構毒ある?」
「下手すれば劇毒一撃ですよ」
その一撃に倒れたのがキャリアを手にしたOLだ。
殺意という名のナイフを首元で寸止めされたら笑って誤魔化すしか手はない。
「というわけで、浜辺高校の生徒会長です。鈴音さん。セクハラで刑務所行かないようにしてくださいね」
「おっと? 裁判で負けるの確定してる?」
「裁判長は海原海老名がやってあげますよ」
遠回しな死刑確定演出。これには鈴音さんもにっこり。
ただその口元は震えている。
「どうも初めまして。浜辺高校で生徒会長をやらせてもらっています。高城俊介です」
「加羅忍インダストリアル、営業部プロジェクトチーフの市川鈴音です」
流石社会人。タンクトップに薄い上着を羽織っただけの私服スタイルなのに挨拶だけは真面目だ。
挨拶だけは。
「学校の行事に参加とのことですが、日程などは大丈夫でしょうか。今年は土曜日開催で昼間ですが」
「昨今はオンラインという就業形態があるので平気ですよ」
流石キャリアウーマン。化粧という芸術がなくとも化けの皮というまた違う芸術を見せつけてくれる。
「夕方には仕事が終わりますので、放課後待ち合わせしますか?」
「いえ。流石に悪いので僕が伺います」
「え、デート......うんん! わかりました」
ただその化けの皮も完璧ではないようだ。一撃どころが自分から剥がしていくスタイル。




