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第六十七話 少しどころか治まるまでこのままだ馬鹿野郎

海原に引っ張られ来たのはVIPエリアの端。

 なんのために用意されたのか分からないくらいに狭い部屋。

 人が一人入ったら狭いくらいのスペースに小さな後輩に壁ドンをされ逃げられなくなってしまった。


「先輩。わたしに隠れて密会とはいい度胸ですね」

「密会というかあれは違くて」


 浮気がバレた彼氏のようにたどたどしく言葉を紡ぐが海原の目力か声が出ない。

 頭の高さなんてそんな少女漫画のような壁ドンではなく胸辺りを頭で押さえつけるような傍からみたら完全不審者な俺達。


「先輩は誰と来てるんですか」


 顔は見えないが不貞腐れたような声で海原は言った。


「いつも仲良くしてる皆と」


 答えが違ったのだろう。海原の頭が俺の胸に押し付けられた。


「......大好きな後輩と」

「そうです! よって他の女と密会するのは悪い事なんです!」


 顔を上げた海原の表情は満面の笑み。

 俺がここまで笑顔になったのはいつが最後だろうか。


「悪い事した先輩にはお仕置きが必要だと思いませんか?」

「......お手柔らかに頼む」

「あれ? 嫌って言わないんですか?」

「なんの話だ」


 あまり痛みを伴うのは確かに嫌だ。特に関節を痛めるような痛みは。


「実は~さっきの話少し聞いてたんですよ~。先輩、嫌なら嫌って言うそうじゃないですか。つまり......わたしからのお仕置きを嫌と思ってないってことですよね」


 満面の笑みから繰り出されるストレートパンチは俺を羞恥に悶えさせるには十分だった。

 脚に力が入らなくなり座り込んだ俺の腰に海原が座ってきた。

 着物のような服装をして人の上に跨ればパンツが見えそうになる。というか見えている。


「ついでにもう一つ言うと、先輩はさっきの大きな脂肪の塊を押し付けられても無表情だったのにわたしの胸に触れた瞬間、ビクッ! と反応しました」

「あれは反応したわけじゃない。えっと......慣れない服装で寒かっただけだ。風呂上りだしな」

「苦しい言い訳ですね。認めましょう? 「後輩の小さなおっぱいで興奮する変態です」って」


 耳元で囁かれ脳が麻痺していくのが分かる。

 一刻も早く引き剥がした方がいいのは確実。なのに身体が動かない。

 固定されているのは腰のみ。海原の腕は既に俺の首に回され腕は自由。

 小さな後輩なんて簡単にどかせるはずなのに......身体はまったく動かない。


「海原、それ以上はやばいから離れてくれ」


 なんとか口を動かし言葉を発することに成功した。


「どうしてですかぁ? 先輩の身体はわたしにくっつかれて大喜びじゃないですか」

「そんなことない。誰かに見られたらどうするんだ」

「大丈夫ですよ。ここはVIPルームの端、仲居さんも通らないようなすみっこですから。だから」


 俺の首に回された腕の締め付けが強くなった。

 このまま抱き合っていれば一つになれそうという錯覚にも陥る。

 だが面倒なことに俺の中でこう曖昧にしたくないという無駄な自己満足がいる。


「海原」

「もう少しだけですから。今日一日先輩にくっつけてないので」

「あーまあ、車移動からの俺達はすぐに風呂行ったしな」


 くっつく時間がなかったのはそうだ。


「毎日律儀にくっつく必要はないんだぞ」

「大好きな物は毎日でも食べたいじゃないですか!」

「でも毎日食べてたら飽きる」

「飽きません! ふぁいふきなので!」

「首に吸いつくな。痕になる」

「キスマーク♡」


 あとで絆創膏貼るか。

 キスマークは妖艶な女性がつけているからガチか偽かで面白いのであって平凡な高校生がつけていたらただの目立ちたがりになってしまう。


「先輩、抱きしめてもいいんですよ?」

「な、なんだ急に」

「さっきから先輩の腕が恋しそうにしているもので」


 なんで人の心が読めるんだよ。

 海原の背中に腕を回し優しく抱きしめると海原は「へへ」と嬉しそうに笑った。

 さっきまでのサディスティックな一面はどこかへ消え今は俺の腕の中で笑う可愛い後輩へと成っていた。


「この空間が一生続けばいいのにと思います」

「こんな懺悔室みたいな超狭空間は嫌だ」

「なら部屋でしましょう?」

「部屋には雅樹と柚子がアメの面倒見てる。ま、アメは貧血で倒れて寝てるだろうけど」

「じゃあ先輩と二人キリになれる場所がないじゃないですか」

「家に帰ればあるだろ」

「アメリアさんがいるのでないです」


 確かに現役の幼女ハンターであるアメから逃れるのは至難の業。広い敷地ならまだしも家の中という限られた空間じゃ諦めた方が早い。


「アメは生粋の変態だからな。今更矯正のしようがない」


 変態の面も含めてアメだから。


「もう少しだけです」

「体勢どうにかならないか」

「なんですか? 後ろがいいですか?」

「いや、その......結構ダイレクトだなと」


 ほぼスカートのような服装で上に乗られれば海原のデリケートな部分の感触がダイレクトに伝わってくる。

 普段着なら固さもあるしベルトなどの装飾品もあるから軽減されるが今は布一枚の薄さ。


「せ、先輩には特別です」

「いいからどけ」

「あっ!」


 海原から発せられる甘く男の情欲を煽る声。

 ムラッとした欲を海原を強く抱きしめて治まるのを待った。


「お前のせいだからな」

「素直じゃないですねぇ! 少しだけですよ」


 少しどころか治まるまでこのままだ馬鹿野郎。


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