第六十六話 可愛い後輩と死神を行ったり来たり
「あっ......」
後ろから声が聞こえ視線を向けるとさっきの黒髪の子が少し後ろで止まっていた。
その顔は驚きというより安心に近いような表情。
一人になりたいのかと思い立ち上がろうとすると腕が掴まれた。
「あの! 少しだけお話しませんか?」
そう言われ俺は一度持ち上げた腰を降ろした。
そして黒髪の子は一つ分開けて座った。
「......」
「......」
そして流れる沈黙。俺から特に話したいこともないし聞きたいこともない。
部屋には戻れなくとも食事処やもう一回温泉に入ることだって出来る。それなのに。
「あのっ! 貴方も彼の引き立て役ですか?」
「恋人だ」
「あれが嘘だってことくらい分かりますよ。一緒にいたイケメンさんも困惑してましたし」
俺がチラリと顔を見ると優しく笑っていた。嘘をつかなくても大丈夫と言っているようだ。
「恋人は嘘だが引き立て役じゃない。大事な幼馴染だ」
「でも花音が......いえ、金髪の子がそう言ってたのでそうかと」
「周りがどう思うかは自由だ。ただ俺達の口からは違うと言う」
雅樹は決してそんな薄情な奴じゃない。
自分の性格を理解しどうするか考えた上で動ける奴だ。
そして、幼馴染の不幸を一緒に笑い飛ばしてくれる奴だ。
仕返しの意味も込めて皮肉を言ってやった。
「そっちは完全引き立て役だったよな。あの場じゃ一度も声を発しなかったしな」
「あはは。あれでも幼馴染なんですけど、花音はいつしか男漁りするようになってついていけなくなって」
「だったらさっさと縁を切ればいい。縁を繋ぐのは大変だが切るのは一瞬だ」
罵詈雑言を浴びせて拳を上に持っていけば女は離れていくと去年少しだけお世話になったバイト先の間宮先輩がそう言っていた。の割には囲いが多かったけど。
だが彼女は納得していないようで眉を寄せた。
「唯一の縁ってそんな簡単に切れるもんなんでしょうか」
「無理だな」
俺は即答した。
「じゃあどうすればいいんでしょうか」
「自分で考えたらどうだ。人に頼って出した考えはすぐに行き止まりになる」
答え見て書いた問題が頭に入らないのと一緒だ。
「考え方を一緒に考えてくれませんか?」
腕にむにゅっとした感触が当たり目を向けると大きなスイカ級の丸が俺の腕に押し付けられ飲み込もうとしていた。
だがなぜだろう。興奮も嫌悪もない。異常なほどの平常心でいられるのは。
「嫌だ」
嫌なら嫌とハッキリ言おう。これが窮屈しない人生だ。
「お願いです!」
「嫌なものは嫌だ。なんで人の関係を一緒に考えなきゃいけないんだ。自分がやりたいようにやればいい」
彼女たちの場合はお互いに多分分かってない。自分は変わってないとお互いに思っている。
だがお互いにお互いの考え方が分からず迷走状態。
金髪の方は分からないから自分の好きにしようって感じで動いているにすぎないだろう。ま、それは本人のみぞ知るところではあるが。
「あ、先輩! ......なにしてるんですか?」
「待て海原。一旦思考を停止させろ」
俺達の間に沈黙が流れたのも束の間。柱の影から海原が出てきて俺を見つけた。
そこまではいい。
だが見つかった状況は最悪。なんせ俺の腕にはまだ柔らかいスイカがくっついているのだから。
「ん? 辞世の句があるなら聞きますけど」
「説明をだな」
「いやそっちの女の方です。わたしが先輩を殺すわけないじゃないですか~!」
切り替えがもはや大御所女優レベルで怖い。
可愛い後輩と死神を行ったり来たり。どうか可愛い後輩で止まってはくれないだろうか。
「さ、最期の言葉を」
「こんな風に初対面でも殺意剥きだしに出来るくらい自分の意見に正直になれば上手くいくだろう」
この場を整理したかった俺は話を切り上げるべくそれっぽいアドバイスをした。
そして後はこの場を離れれば万事解決。オールオーケーのはず。
「あ、琴葉こんなとこに......うわっ、ホモじゃん」
まーた面倒なのが来たぜ。
「なに? 彼氏と喧嘩したの?」
「えっ先輩彼氏いたんですか......?」
情報の交通渋滞起こしてるから全員一旦記憶消そう。それが一番手っ取り早い。
「琴葉戻るよ。こんな変態の傍にいたらなにされるか分からないから」
「先輩も行きますよ。少し早いですけど夕飯にするそうなので」
海原に腕を抱きしめられそのまま引っ張られていく。
「ま、頑張れ」
わざわざ迎えに来るってことはどうでもいいと思ってないってことだ。大事にされててなにより。
黒髪と別れ、海原の淡い胸に背筋がびりびりとしながら俺は部屋に戻った。




