第六十八話 大きな応援団
夜。
男女が同じ部屋に寝るなんてことを学生の内に経験するとは思わなかった。
まあ、家ではいつもだろと言われればそうなんだが。
「暑い」
「アメリアさんに言ってください」
「幼女と寝ずにどこで寝ろというのデスカ! この平たいバストを枕にして寝る至高さが龍には分からないデスカ!?」
「分かりたくないし分かるって言ったら俺は豚箱行きなんだよ」
もしくは横の白い死神によって地獄行きだ。
「アメリアは男の胸じゃダメなのか? 硬いだろ」
「おい、余計なこと言うな」
「全然違いマス! 幼女の平たい胸は柔らかさがありマス! が男の胸はただ硬いだけデス! 龍も触ってみれば分かりマス!」
アメに手を取られそのまま海原の胸に手を持って行かされた。
急なことで抵抗できず俺の手は海原の淡い胸を包み込んだ。
手のひらに感じる微かな柔らかさ、改めて手を当ててみると十分といえるほどの大きさは持っているように思える。
手からこぼれるほどはなくてもちゃんと柔らかいし突起だってしっかりしている。
「アメ。選べ。外で寝るか鈴音さんの横で寝るか」
「ナゼ!?」
海原の胸から手を放しアメの頭を鷲掴みにした。
「寝られないからだよ。大丈夫だ。鈴音さんは酒飲んで既に爆睡。硬い枕が欲しいなら柚子にでも貸して、ぶっ!」
「誰が硬いだ! これ以上大きくならないんだから仕方ないじゃん!」
そば殻の枕が俺の顔でくしゃっと音をたてて潰れ布団へと落ちた。
小さい自覚はあるんだな。大丈夫だ。雅樹も巨乳派というわけではなかったはずだ。
「悪かった。二人分の布団に三人は狭いんだ」
「じゃあ布団を持っていけばいいでしょ」
最初は男と女である程度物理的な距離を取っていたはずなのにいつしか横にいた雅樹が消え海原とアメになっているという人体錬成が目の前で起こっていた。
「だとさ、アメ」
「ハイ! 持ってきマス!」
アメが布団をくっつけ毛布に包まるが根本的な問題の解決はされていない。
寝苦しい夜を過ごして目が覚めると部屋の障子からは朝日が差していた。
隣で寝ている海原はまだ夢の中。
ただ着物が寝てる間にずれたのか淡い胸が見えそうなほどはだけていた。
「腹冷やすぞ」
起こさないように服と布団を被せ俺は普段着に着替えた。
辺りを見渡すとまだ寝ているようだ。アメ以外。
部屋を出て最初に入ってきた駐車場へと行くと朝日に輝く金髪が夏の風に揺られていた。
「今日も暑くなりそうだな」
半そでの上着を着てきたのは間違いだったかもしれない。
朝で山の中だから寒いと思ったが太陽光が絶好調。雲さんお仕事です。
「おはようデス! 明日はいよいよ夏祭りデス! 楽しみマショウ!」
「ちょっと違和感に思ったんだがな」
「ん? なにデスカ?」
「旅館に夏祭りを実施するなんてお知らせはなかったぞ」
この近所ならこの旅館に泊まった客は行く可能性が高いというのに食事処はおろかロビーにすらそういった張り紙は貼られていなかった。
つまり恒例的な行事ではない。
「龍は頭には敵わないデス」
「なんでわざわざ夏祭りなんて大がかりで人手がいるものをやった。去年はそこまで勝手しなかっただろ」
去年まではせいぜい幼女見て貧血で倒れて輸血が必要になったくらい。だが今回は一回も輸血していない。我慢しているのかたまたまなのか。
「応援したいからデスヨ」
「応援? なんの」
「龍の恋のデス」
「俺の......恋」
俺の恋。相手は海原海老名ということだろう。
アメはその応援だという。
「龍が傷ついてきたのを数年デスガ知ってマス。去年も悲しそうでほとんど笑いませんデシタ。でも今年はいっぱい笑顔が見れマシタ。楽しそうデシタ。誰の影響だと思いマスカ?」
「......海原だって言わせたいのか」
「それ以外にあり得まセン。だからアメに出来ることでサポートしようとしましタ」
一旦雲に隠れた太陽が再び顔を出し俺とアメを照らした。
太陽下でのアメは神々しいほどに光って見える。
「日本語が出来ないアメに言葉を教えてくれた龍。どんなに迷惑をかけてもアメを助けてくれた龍。そんな龍には幸せになって欲しいのデス! アメは幼女専門なので幸せには出来まセンがハニーなら可能デスヨネ?」
毎回アメのやることはスケールがデカすぎる。夏のこの時期に夏祭りが開けるほど場所と人を使うのにどれだけ金がかかると思ってやがる。よは、この応援には間接的に莫大な費用がかかっている。
やるなら断りやすい小規模なものにしてくれ。
ここまで本気の応援をされたら嫌とは言えない。もとより言うつもりもないけど。
「ありがとう。その応援に答えられるように俺なりに頑張ってみる」
アメの不安を払拭するように俺は笑った。
「そうデス! 龍なら出来マス!」
だがまともな恋愛をしたことがない俺がどうやったら海原に気持ちを伝えられる?
まずそこから分からない。
過去につけられた傷の深さは恋愛においてここまでに及んでいた。




