37 14日目
「まだマジックアイテム屋さん空いてるかな?」
お金を全てそれぞれのギルドカードに入れてもらい、ギルドを出ると、マリアがそう呟いた。
「どうだろうな⋯⋯。冒険者の町と呼ばれているくらいだから、もしかしたら遅くまでやっているところがあるかもしれないし、行ってみるか」
「うん!」
「でも4つも置いてあるかしら?」
「なかったら次の街で買えば良いだろう?」
「⋯⋯それもそうね」
近くを歩いていた街の住人にマジックアイテムを売っている店を聞くと快く教えてくれた。
「安いものを探しているんだったら、《アクア》という店がお勧めだ」
「えっと、高くても良いので質の良い品を扱っている店を探しているんですけど⋯⋯」
「⋯⋯質が良いものだったら、そうだな、《白兎》という店が良いと思うぞ」
「そこはどこにあるんですか?」
「街の南、職人街だ。近くに行ったら近くの奴に聞いてみてくれ」
「ありがとうございます」
4人はお礼を言って教えてもらった店に向かった。
店は大変わかり辛いところにあった。大通りから外れた裏通り、その路地裏の更に奥の方にあったのだ。
マリアたちは何人もの人たちに聞いて、やっとのことでたどり着いたのはギルドを出てから1時間も経ってからだった。
扉の上に小さく『マジックアイテム屋 白兎』という文字と、兎の絵が描かれた小さな看板が申し訳程度にあった。
「やっとついた~。なんだってこんなにわかり辛いところに⋯⋯」
「それは私も同感」
「僕的には、こんなわかり辛い店を街の人たち全員が知っていたことの方が謎だけどね」
古びた木の扉を開け、4人は店に入った。
来る途中、この店がかなり遅くまでやっていることは確認済みだ。
店内はほとんどものが置いていなかった。あるのは棚が3つとカウンターだけ、そして店内に人影はなかった。
「すいませ~ん」
「誰だい!」
呼びかけると奥から初老の女性が現れた。頭には長い獣耳がある。
「アイテムポーチを見せて頂きたいんですけど⋯⋯」
アルフォードが丁寧に頼んだが──。
「あんた達みたいな、金を持っていない駆け出しのひよっこに売るものはないよ! サッサと帰りな!」
そう言って4人にシッシと手を振った。
4人は唖然として固まった。
「た、確かに私たちはひよっこかもしれませんけど、お金なら持っています!」
我に帰るとマリアはそう叫んだ。
「フン、どこぞの豪商の子どもかい。そういうことは自分で金を稼いでから言うんだね」
「っ⁉ 親のお金なんかじゃありません! 自分たちで稼いだんです!」
「その証拠はどこにあるんだい?」
「そ、それは⋯⋯! 今日ギルドで素材を売りました。確認を取って頂いて構いません」
マリアは負けじと言い返した。
老婆はマリアの目をじっと見つめてから言った。
「どうやら本当のことみたいだね。良いだろう、売ってやる。何が欲しいんだい?」
「あ、ありがとうございます!」
マリアは満面の笑顔になった。
「アイテムポーチを人数分と、マジックテントが欲しいんですけどありますか?」
「ああ、あるよ。6級ならその棚の上から2番目に置いてある」
「いえ、欲しいのは1級です」
「1級? 嬢ちゃん、1級のアイテムポーチがいくらするのか知ってて言ってるのかい?」
老婆は顔を険しくした。
「はい。白金貨3枚と大金貨12枚、金貨50枚が相場ですよね?」
「わかっているんなら良いさ。1級は今在庫がないね。これから作るとして4つだと最短で半月はかかるよ?」
「それで大丈夫です。できた頃に取りに来ます。お金は先払いの方が良いですか?」
「あ、ああ」
「流石に現金じゃ持っていないんですけど、ギルドと提携していますよね?」
「勿論さ。支払いはギルドカードでするのかい?」
「はい、お願いします。あっ、お金はそれぞれで持っているので会計は別々で」
「わかったよ」
やっと我に帰った後、成り行きを見守っていた3人の分と合わせて、マリアは4人分のギルドカードを手渡した。
「⋯⋯それでアイテムポーチだけど、ゼロから作るからデザインに自由がきくけどどうする?」
老婆はギルドカードに入っていた金額の大きさに目を白黒させながらギルドカードを返してそう尋ねた。
「勿論自分で考えたいです!」
「私も!」
「ぼ、僕はそれほどこだわりはないかな」
「僕もだな」
その言葉に真っ先にエリザベートが反応し、男性陣は若干引き気味だった。
それから暫し、マリアとエリザベートはああでもない、こうでもない。何か全員同じモチーフを入れようと、盛り上がるのだった。
「じゃあこれでお願いします」
「はいよ。それでマジックテントのことなんだけど⋯⋯」
「良さそうなのがないんですか?」
「いや、あるにはあるんだけどちょっと高いんだよ」
「おいくらですか?」
「白金貨で5枚だ」
「5枚、ですか?」
「ああ、そうだ」
「流石にそれほどはお金を持っていないです。でも、アイテムポーチを受け取る時にはそのお金を用意して見せます!」
「見もしていないのにかい?」
老婆は笑った。
「あっ、つい⋯⋯」
マリアは顔を赤くした。
「高級品は奥にあるんだ。今取ってくるから待っておれ」
老婆はそう言って店の奥に戻っていった。
「これなんだがね⋯⋯」
戻ってきた老婆は一抱えもある木箱を持っていた。前がよく見えないのか、少しフラフラしている。
老婆は木箱をカウンターに置くと、開けた。中には質素なテントが入っていた。
「これが、ですか?」
エリザベートが胡散臭そうに言った。
「見た目は普通のテントだがね、組み立てて中に入ってみればわかるよ」
そう言って老婆はテキパキと手際よく組み立てていった。
「入ってごらん」
促され、4人が中に入り、そして固まった。
「えっ? これ本当にテントの中?」
入ってすぐのところはいわゆる玄関ホールになっていた。その先には長い廊下と階段がある。
「凄いじゃろう? 昔とある貴族が旅先でも家と同じように過ごしたいと言って作らせた品じゃ。厨房や大浴場までついておる。小さいが温室もあるから植物を育てることもできるぞ。広さは普通の貴族の屋敷と同程度じゃ。家具も作り付けになっておる」
老婆は自慢気に語った。
「あの、なんでそのような品がこの店にあるんですか?」
マリアは説明を聞いて疑問に思ったことを訊いた。
「簡単なことじゃ。その貴族は没落したのじゃ。我儘をお金で押し通し、破産したそうじゃ。このマジックテントも完成間近なところじゃった。注文した者もいなくなり、かといって貴族の要望をこれでもかというほど詰め込んだため、とんでもない価格になってしまい、買う者もなく眠っていた品じゃ。これでも安くなっているのじゃがな」
老婆は寂し気に笑った。
「それでどうだ、買うのかい?」
「はい! 勿論!」
マリアは力強く頷いた。
「そうかい、それではあんたたちがまた来る時を楽しみにしているよ」
老婆は楽し気に笑った。
「はい! ありがとうございました。えっと」
「ああ、そう言えば名前を言っていなかったね。私はフェジーじゃ」
「フェジーさん、ありがとうございました」
マリアが丁寧に頭を下げると、他の3人も慌てて頭を下げた。
「よしてくれ。わたしゃ感謝されるようなことをした覚えはないよ」
「でも、見た目で判断せず相手をしてくれましたから」
「ホホホ、それぐらい当然じゃよ」




