表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吉井理子物語  作者: 水前寺鯉太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/56

第41話

吉井理子物語 第41話


 二回表。

 先頭打者の四番・宮本巧は、理子の初球、地を這うようなシンカーを完璧に捉えた。

「……そら、簡単にはいかんわな」

 打球が一、二塁間を鋭く破る。理子はマウンド上で苦笑いを浮かべ、一塁ランナーとなった宮本の背中を冷ややかに見送った。全セの看板を背負う男は、理子の「毒」を、たった一度の対峙で中和してみせたのだ。

 無死一塁。球場のボルテージが、一回よりも一段高いレベルへと跳ね上がる。

『五番、指名打者、細田――』

 アナウンスが響いた瞬間、地鳴りのような歓声がスタジアムを揺らした。

 打席へ向かうのは、名古屋金鯱の主砲・細田亜紀子。全セで唯一、男性選手に混じってオールスターに選出された女性プレイヤーだ。長い髪をヘルメットの下で束ね、堂々たる足取りでバッターボックスへ向かうその姿は、性別を超えた「強者」のオーラを纏っていた。

「……ありゃあ、本物じゃね」

 理子はロジンを叩き、細田を凝視した。

 男顔負けの長打力と、どんな窮地でも動じない精神力。スタンドには彼女のレプリカユニフォームを着た男性ファンが溢れている。だが、理子が感じたのは「人気者」への反感ではなかった。同じ孤独を知る者への奇妙な親近感——そして、殺意に近い闘争心だった。

「吉井さん、彼女のデータは完璧だよ」

 返球の際、寿也がミット越しに口角を上げた。

「インコースを全く怖がらない。それどころか、死球を恐れず踏み込んで、逆方向に叩き込むのが彼女の真骨頂だ。君の『内角攻め』、彼女は餌食にするつもりでいるよ」

「……上等じゃ。女同士、遠慮は無用よ」

 理子は深く、深く腰を沈めた。

 初球。

 理子が選択したのは、自身の代名詞——内角への高速シュート。

 細田は迷わず踏み込んだ。白球が胸元を抉る。

 ――ッガァァン!!

 凄まじい衝撃音がスタジアムに響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ