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第08話 看取りの掌、名前のない正義




川の下流、腐った木材と泥で塗り固められた不格好な柵が見えてきた。

ゴブリンの集落だ。

中からは生活の匂いとは程遠い、鼻を突く獣臭と、嫌な焦げ臭さが漂ってくる。


「グギャッ!」

「ギギッ、ギギィ!」


藪の中から、そして集落の入り口から、棍棒や錆びた包丁を手にした小鬼たちが次々と姿を現した。その数、およそ二十。

どいつもこいつも、骨が浮き出るほど痩せ細り、眼光だけが異常に鋭い。


「ナリス様、危ないっ……! あ、ひゃいっ!?」


アンジーが俺を庇おうと前に出ようとして、自分のローブの裾を派手に踏んづけ、そのまま転んだ。

……杖も武器も持たぬまま、逃走の果てに力尽きかけていた彼女に、戦う余力など最初からなかったのだ。

襲いかかるゴブリンの一撃。錆びた刃物が、俺の喉元に迫る。



【パッシブスキル:献身の盾 発動】



その瞬間、俺の身体が勝手に動いた。

物理的な盾など持っていない。だが、俺の腕が、肩が、まるで鋼鉄のような硬度を持って刃を弾き飛ばした。

火花が散り、ゴブリンの手首が衝撃で折れる。


「ギチッ……!?」


狼狽える群れの中から、一回り大きな個体が歩み出た。

毛皮を纏い、ひび割れた大剣を杖代わりについた、ゴブリンのボスだ。

彼は仲間に下がれと合図を送ると、飢えた獣のような目で俺を睨み据えた。

集落の奥には、動けなくなった子供のゴブリンたちの姿が見える。

話し合いの余地はない。彼らにとって、目の前の俺たちは「最後に残された食料」なのだ。

ボスゴブリンが地を蹴る。

大剣の重さを利用した一撃。まともに受ければ【献身の盾】でも防ぎきれない。俺は一歩踏み込み、大剣を振り下ろそうとする彼の「懐」に滑り込んだ。



【スキル:体位変換 発動】



重心の移動と、テコの原理。

俺の手がボスの腰と肩に触れた瞬間、彼の巨大な質量は宙を舞い、背中から地面に叩きつけられた。


「ガハッ……!」


凄まじい衝撃。だが、ボスは止まらなかった。

背骨が悲鳴を上げているはずなのに、彼は折れた腕を引きずり、泥を噛みながら立ち上がろうとする。剥き出しになった牙の間から、血混じりの咆哮が漏れる。


(まだ……来るのか)


ボスの目は、もはや俺を見ていなかった。

その視線は、背後の集落にいる弱った同胞たちを守るという、執念だけで繋ぎ止められている。

震える手で大剣を握り直し、深手を負った体でなおも俺に肉薄しようと足掻く。

その姿は、かつて延命治療の中で、苦しみながらも俺の行く末を案じて「まだ死ねない」と目に力を込めていた父の姿に重なった。


「もういい……もう、いいんだ」


俺はボスの荒ぶる肩を抑え込み、その抵抗を柔らかな力でいなした。

暴れる彼を、暴れさせないように、それでいて傷つけないように抱え込む。

必死に俺を振り払おうとしていたボスの力が、少しずつ、少しずつ抜けていく。

俺は、彼の胸元にそっと手を添えた。

命を奪うためではない。ただ、あまりに苦痛に満ちた彼の脈動を、静めたかった。



【スキル:看取り 発動】



その瞬間、俺の脳内に濁流のような「記憶」が流れ込んできた。



――かつて、この地には静かな秩序があった。

強大な魔王が定めた法の下、彼ら弱き魔物も、自分たちの畑を耕し、家族を育む権利を与えられていた。

だが、海を越えて現れた『勇者一行』が魔王を討ち、その平和は崩壊した。

支配者がいなくなった荒野で、魔公爵と呼ばれる強者たちが領土を奪い合う、略奪の時代。


「お願いだ、もみだけは残してくれ……。これでは冬を越せない」


言葉にならぬ悲鳴を上げながら、ボスは徴税官に頭を下げ続けていた。

丹精込めて育てた作物を奪われ、それでも村を守ろうとした孤独な戦い。


「…あぁ"……。頼む…頼むからそれだけは……。」


奪う側だった勇者たちが消えた後、残されたのは、ただ飢えに狂うしかない弱者の群れだった。





「……そうか。あんたも、必死だったんだな」


俺のてのひらから、温かな光がゴブリンの体内に浸透していく。

激痛に歪んでいたボスの顔が、不思議と安らかに緩んでいく。彼は最後に一度だけ、俺の顔をじっと見つめると、安心したように……ふぅー、と肺から全ての空気が抜けて、永遠の眠りについた。


守護柱を失った集落に、戦意はもう残っていない。生き残ったゴブリンたちは、絶望の混じった悲鳴を上げながら森の奥へと逃げ去っていった。


「……ナリス様、あの……。今の光は……?」


アンジーが、泥だらけの顔で立ち上がり、震える声で尋ねる。その瞳には、何かを知っているような、暗く深いかげがあった。


「ただの介助だよ。……少し、休ませてやっただけだ」


――ピロン。

■経験値を大量取得、レベルアップしました。

■【Lv:2】→【Lv:5】

【ナリス ステータス更新】

• Lv:5

• 職業:守護者

【新スキル:清拭せいしき

• 効果:対象の汚れを落とし、状態異常を微弱に回復させる。

【新スキル:バイタル・チェック】

•効果:対象のHP・MPだけでなく、感情の揺れ(ストレス度)を視覚化する。

【パッシブ:不眠不休ショートスリーパー

•効果:睡眠不足によるデバフを大幅に軽減する。



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